(2)情報収集手段の変化  東日本大震災においては、大規模な津波が発生し、多くの人が迅速に避難しなければならなかった。ここでは、津波の情報や避難後の生活情報など、情報収集手段の変化についてみていく。  被災地域における情報収集手段について、インタビューコメントを分析すると、発災直後や津波情報の収集においては、ラジオやテレビ、防災無線といった即時性の高い一斉同報型ツールの利用率が高く、特にラジオとテレビの有用性が高くなっていることがわかった(図表3-1-1-3)。しかしながら、発災直後の情報収集手段とその評価について着目すると、「ラジオは情報を手に入れられたが、細かい情報まで入ってこなかった。」というコメントもあるなど、ラジオが最も役立った手段だったという評価は、ラジオの利用率の半分程度にとどまっている。また、携帯電話については、「携帯電話は無線なので災害の時こそ使えると思っていたが、全く使えずショックだった。」など、低い評価コメントが寄せられている。発災直後において一番利用率が高かったラジオでも4割強の有用性にとどまっているなど、即時性の高い情報を伝達するため、複数の伝達経路を活用して情報伝達を行うことの必要性が示唆される結果となっている。 図表3-1-1-3 情報収集手段の変化 (出典)総務省「災害時における情報通信の在り方に関する調査」(平成24年)  一方、フェースシートにおいてTwitterあるいはSNSを「よく利用する」と回答した、あるいはインタビューにおいて震災直後から避難後の生活情報の収集においてTwitterあるいはSNSを利用したと回答した人をインターネット先進ユーザーとして情報収集手段の変化をみると、避難後の生活情報収集においては、近隣住民の口コミに続きインターネットの有用性が高かったことがわかる(図表3-1-1-3)。インタビューコメントによると、「テレビの情報では店に行くと終わっていたということがあったが、Twitterを活用するとタイムリーに情報が得られた。」など、先進ユーザーの中ではTwitter等を活用して、口コミに近い、即時性・地域性の高い情報収集を実現させていたことが考えられ、TwitterなどのICTツールを活用できるか否かにより、情報格差が発生していたことが示唆される。 ア 津波情報の収集  津波情報の収集について、インタビューコメントから津波が到達することを事前に認知していた回答者の割合をみると、全体では61.7%が事前に知っていたと回答している。津波の到達について事前に知っていた割合を津波の浸水有無別でみると、浸水地域が68.6%と浸水がなかった地域の58.8%と比べ高くなっており、実際に浸水した地域では、事前に津波到達を認知していた人が多いことがわかった(図表3-1-1-4)。一方、津波の到達を事前に認知していなかった回答者によると、「到達までの時間がわからず、どこまで逃げる猶予があるのかわからなかった。」というように、津波到達の認知有無が避難行動に影響を与えたことも考えられる。 図表3-1-1-4 津波到達の認知 (出典)総務省「災害時における情報通信の在り方に関する調査」(平成24年)  津波情報の収集手段についてインタビューコメントからみると、全体ではテレビ、ラジオ及び防災無線で情報収集を行った割合が25%前後と同程度に高くなっている(図表3-1-1-5)。この割合を津波の浸水有無別にみると、浸水地域においては、防災無線の割合が特に高く、一方でラジオやテレビは浸水がなかった地域に比べ低くなっている。 図表3-1-1-5 津波情報の収集手段 (出典)総務省「災害時における情報通信の在り方に関する調査」(平成24年)  では、実際、収集した津波情報によって避難行動にどのように影響を与えているのだろうか(図表3-1-1-6)。浸水地域の回答者においては、66.1%が避難行動を取っている。インタビューコメントをみると、「大津波警報の6mという情報で判断を間違えた。」というように、入手した情報により避難行動についての意思決定をしていたことが考えられる。 図表3-1-1-6 津波情報収集と避難行動 (出典)総務省「災害時における情報通信の在り方に関する調査」(平成24年)  津波に対する避難実施の決定を行う際に利用した手段をみると、その他(37.1%)として「経験則」を挙げる回答者が最も多くなっている。他方、浸水有無別に意思決定手段をみると、浸水地域では、「経験則」に次いで「防災無線」や「目視」で得た情報によって意思決定を行ったという比率が高くなっている。また、津波に対する避難実施の意思決定手段について避難有無別にみると、津波で避難した回答者ほど「防災無線」や「目視」によって収集した情報が意思決定に関与した比率が高くなっている。一方、インタビューコメントをみると、「揺れが大きかったので自主的に避難した。」「情報というよりも揺れ自体でやばいぞという感覚があった。」など、地震が発生した際、情報収集手段に頼らず、揺れの大きさから異常を感じ、経験則で避難したという回答者もいた。津波に対する避難行動において、避難途中に行先の変更があったかどうかをインタビューコメントから分析したところ、「ワンセグで他地域の津波の大きさを知り、より高層のビルを目指した。」というように、収集した情報で意思決定をしたケースなど、津波からの避難において行先を変更した割合が37.0%に達していた。 イ 安否確認  被災地域においては、津波の襲来により、多くの人が避難行動をとったこともあり、多くの人が安否確認行動を行っている。安否確認行動の実施状況について、インタビューコメントを分析すると、発災直後に安否確認行動が行われたケースが多く、79.5%の人が発災直後に行い、時間が経過した避難後に行った割合は64.4%と減少している。安否確認の対象も発災直後は家族・親戚が77.6%と際立っていたが、避難後には職場の人が28.6%になるなど、時間の経過とともに変化していった(図表3-1-1-7)。安否確認の手段をみると、発災直後には携帯電話が一番多く65.1%、次に携帯メールが48.5%で続いているが、「携帯電話のアンテナ表示は3本ほど立っていたが、何回か送って相手に届くような状態だった。」など、通信状況が安定していたわけではないことがわかる。その後、「津波が来て圏外表示になった。」というように、避難後には携帯電話・携帯メールの割合が減少し、直接確認など他の方法が増加している。インタビューコメントをみると、「ブログに自分の安否情報を発信した。」や「友人が自分の安否情報をGoogle Person Finderにあげてくれた。」など、直接確認以外にも安否確認手段が多様化したことがわかる。 図表3-1-1-7 安否確認手段の変化 (出典)総務省「災害時における情報通信の在り方に関する調査」(平成24年) ウ 行政情報の収集  行政情報収集で得られた情報について、その充足度をみると、「十分だった」が30.2%だったのに対し、「不十分だった」が53.8%と過半数を超えている(図表3-1-1-8)。具体的なインタビューコメントをみると、「行政は広報活動が不十分だったのではないだろうか。」「認知度自体が低かったように思う。」など、十分に情報が伝達されていなかったことがうかがえる。  行政情報の収集手段についてみると、「直接訪問」の比率が最も高く、次いで「近隣住民の口コミ」「インター ネット」「ラジオ」と続いている。停電による端末の充電問題をかかえ、直接訪問や口コミの利用などのICTを活用しない手段や、乾電池が利用できるラジオなどの利用が多かったと推察される。  行政情報収集の充足度とその手段の関係をみると、充足度の高い回答者では、「直接訪問」や「インターネット」を利用している割合が多いことがわかる。インタビューコメントをみると、「さいがいFMではストリーミング配信を行っていた。市民から地域に密着した情報が得られて役に立っていると言われていた。」「震災初期、ホームページでの情報発信ができなくなったため、職員が携帯からも発信可能なTwitterやFacebookを活用した。」など、インターネットを活用した事例が見られるが、これらの手段の活用が行政情報収集の充足度に繋がっていたことが考えられる。 図表3-1-1-8 行政情報の収集状況 (出典)総務省「災害時における情報通信の在り方に関する調査」(平成24年)