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第1部 特集 「スマートICT」の戦略的活用でいかに日本に元気と成長をもたらすか
第1節 新たなICTトレンド=「スマートICT」が生み出す日本の元気と成長

(1)G空間情報を巡る現状

ア G空間情報利用の現状
(ア)民間におけるG空間情報利用の現状

G空間情報は既に国民生活の幅広いシーンで活用が進んでいる。1980年代からカーナビゲーションシステム(以下、「カーナビ」)の普及が進んでいるが、近年ではスマートフォンの普及により、地図を用いたアプリケーションや乗換・歩行案内のアプリケーションが広く浸透するとともに、GPSの位置情報や地図を用いた位置情報サービスが多数普及している状況である。ソーシャルメディアの普及により、お互いの位置情報を交換しあう「チェックイン」と呼ばれる行為も、広く普及している。

産業の視点で見ると、電子地図の活用は電気、ガス、電話等のライフライン管理の分野から普及が始まっている。現在では、ライフライン管理のほか、宅配便やタクシーなどの物流・交通分野、小売店や飲食店の出店や広告戦略を検討するエリアマーケティングの手段として広く使われている。近年では、市民が持っているスマートフォンの位置情報やアプリケーションと組み合わせて、新しい購買活動に生かすO2O(Online to Offline)のサービスが登場しつつある。

(イ)行政におけるG空間情報利用の現状

行政機関については、多様なG空間情報が活用されている。ほとんどの部署において、住宅地図が活用されているほか、住所や土地の権利関係を示す地図として、住居表示台帳や地番現況図・家屋現況図等の地図が使われており、ライフラインの管理では道路や橋梁、河川を管理する台帳付図に地図が使われている。

これらの地図はGISを通じて電子化されて管理されているケースがあり、行政機関の情報システムの重要な構成要素となっている。

このように行政では、主に地方自治体において上下水道や道路等のインフラの管理においてG空間情報の利活用が先行し、GISも所管する部局単位で導入されてきた。このような状況の下、2001年7月に総務省より「統合型の地理情報システムに関する全体指針」及び「統合型の地理情報システムに関する整備指針」が公表され、部局横断的にG空間情報を利活用することのできる「統合型GIS」の導入が推奨された。

また、これと時期を同じくして、住民等への地図をベースにした情報提供が行われるようになってきており、災害、防犯、交通安全などの安心安全に関わる情報や、施設案内、観光等の情報提供が行われている。

政府においても、阪神・淡路大震災での教訓を元に地震防災情報システム(DIS)の導入が図られ、内閣府において被害想定などのシミュレーションに用いられるなど、G空間情報を用いた政策立案が行われていた。

イ G空間情報を取り巻く産業の姿

G空間情報を生成、利活用する様々な事業体をその機能によって整理した(図表1-1-2-1)。

図表1-1-2-1 G空間関連産業の構造
(出典)総務省「我が国のG空間関連産業に係る調査研究」(平成25年)

位置情報や地図の元となる情報を生成するのが測量事業者である。測量事業者は測量や空撮等により、測量データや空撮データなどを作成している。

次に様々な目的別に地図を作成しているのが地図調製事業者である。地図調製事業者は、測量事業者から入手したデータに加え、独自に調査した情報などを元に地図データを作成している。地図データは、次に述べるプラットフォーム事業者やサービス事業者/GISソリューション事業者を経由し、あるいは印刷物などとして一般の消費者にも販売・提供されている。

地図情報を電子的なサービスとして提供する事業者がプラットフォーム事業者である。ウェブポータル事業者などがこれに該当する。これらの事業者は地図調製事業者より入手した地図を自社のポータルサイトや専用アプリを通じて地図サービスとして利用者に提供している。

実際にG空間情報を活用したサービスを提供しているのがサービス事業者/GISソリューション事業者である。これらの事業者は地図調製事業者から入手した地図データやプラットフォーム事業者が提供しているAPIなどを利用して、個別のサービスを作り上げ、利用者に提供している。

一方、G空間関連のサービスは、最終的にはデバイスを通じて、利用者(個人、法人)に提供されている。これらのデバイスを開発、製造、販売しているのがデバイス事業者である。デバイスはハードウェアに限らず、ブラウザ経由での利用や、スマートフォンの場合にはアプリケーションがプリインストールやアプリケーションストアなどからダウンロードされる形で利用されている。

ウ G空間情報の利活用に係る環境の変化

今まで述べてきたように、G空間情報は以前から活用されてきたが、近年利用の範囲が急速に拡大してきている。その理由としては、G空間情報を生成、利用する技術、中でも第1節第1項で述べたようにスマートフォンなどモバイル通信の高度化、クラウドサービスの普及といったICTの最新トレンドによる利活用環境の整備が挙げられる。ここでは、関連するICTの発展について述べる。

(ア)G空間情報を活用できる端末の普及

自らの位置を知る測位は、従来は目標物や天体等の位置に基づく手法や電波測位や自立測位による他はなかったが、衛星測位の出現によって、衛星測位信号が受信できる範囲であればどこでも一定程度の精度で測位をすることが可能になった。衛星測位信号の受信機はその初期では専用の機械が必要でかつ高額であったが、2007年に改正事業用電気通信設備規則の施行により、電気通信事業者が緊急通報(110、118及び119)を扱う際に、発信者の位置情報等を通知する機能等を義務づけられたことから、これ以降発売される携帯電話端末の多くにGPS測位機能が搭載された。このことにより、GPS受信素子の価格が低下するとともに急速に普及することとなった。また、カーナビゲーションシステムの普及もこれに貢献している。

また、測位した結果やGISに格納された情報を閲覧する上で、地図を表示する端末の普及も利用活用の上では重要である。2008年前後のスマートフォンの発売以来、大画面で地図アプリケーションを搭載した携帯端末が普及することにより、いつでも、どこでも地図を閲覧することができるようになった。平成24年通信利用動向調査によれば、家庭外でスマートフォンを主たるインターネット利用端末として利用する層は、地図情報提供サービスの利用率が39.6%と、他の端末利用より格段に高くなっている。このため、スマートフォンの普及が我が国のG空間社会の浸透に果たした役割は大きいと言えるだろう。

また、G空間情報を活用する主な端末としては、スマートフォンのほかにカーナビゲーションシステムがあるが、2012年12月末時点で5,400万台を超える17など、普及が進んでいる。

(イ)ワイヤレス・ブロードバンドの整備

G空間情報をいつでも、どこでも利活用する上では、いつでも、どこでもインターネットに接続できる環境が求められる。その意味で高速で安定したワイヤレス・ブロードバンドの整備がG空間情報の利活用環境の向上に及ぼす影響は大きい。我が国においては、平成22年12月より3.9世代携帯電話サービスの提供が開始されたこと等を受けて、急速に移動系超高速ブロードバンドサービスの基盤利用率(契約数が全人口に占める割合をいう。)が増加している。その一方で、移動体データ通信の利用料金は、同一の価格水準を維持したまま高速化が図られており、ワイヤレス・ブロードバンドへのアクセスが容易なG空間社会の基盤整備が進んでいるといえるだろう。

(ウ)クラウドサービスの普及

G空間社会における様々なサービスの提供に当たっては、地図情報が不可欠であるが、地図情報の「鮮度」を維持することが重要な課題である。また、日本全国をカバーする地図情報は膨大であり、地図情報データベースをどこに保存するかは、サービスの提供に当たっての課題といえる。カーナビゲーションシステムでは光磁気ディスクに地図を格納してディスクを交換することにより、地図情報の鮮度を保っていた。

このような課題については、地図アプリ提供事業者がデータセンター等で地図情報を一元的に管理し、利用者がクラウドサービスを利用して常に鮮度の高い地図を必要な箇所だけアクセスするクラウドサービスの利用が有効である18。利用者にとって、クラウドサービスを通じて、地図情報等のG空間情報を利活用しやすい環境が整ってきており、G空間社会の成長を下支えしていると言えるだろう。

(エ)地図アプリ

先述したとおり、スマートフォンの多くがGPS機能を有しており、スマートフォンユーザーの7割以上が位置情報サービスを利用している。Google、Yahoo!、Microsoft、Apple等のプラットフォーム事業者は、地図調製事業者から調達した地図をポータルサイト等で地図アプリとして提供している。また、地図調製事業者自身も地図アプリを独自に提供している。

一部のスマートフォンでは、端末の位置情報を重要な情報としてとらえ、測位機能、位置情報、地図アプリをOSレベルで統合している。その結果、端末の位置情報に基づく渋滞状況を地図アプリで提供するなどの新たなサービスが生まれている。

また、サービス事業者はプラットフォーム事業者又は地図調製事業者から入手した地図アプリを活用して、独自の情報を重畳する等して、観光ガイドや店舗案内、ゲームなどの多様な位置情報に関連するサービスを提供している。



17 (社)電子情報技術産業協会(JEITA)データに基づく。

18 ただし、インターネットに常時、災害時を含め、廉価に接続できる環境が整備されているとも限らないため、地図をダウンロードするニーズも当然存在する。

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