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第1部 特集 「スマートICT」の戦略的活用でいかに日本に元気と成長をもたらすか
第2節 ICT産業の「革新」とグローバル展開

(5)インフラ輸出によるグローバル展開

昨今の新興国を中心とした急速な都市化と経済成長により、交通・石油・建設・発電・水道等のインフラ需要のニーズは世界的にも拡大している。我が国としては成長戦略の一環として、積極的に我が国の成長に向けてこれを取り込むことが求められている。

ア 世界のインフラ市場の動向

世界におけるインフラ需要市場は拡大傾向にあり、世界の上位225社のコントラクター48の売上高をみると、2011年の時点で1.2兆ドルを超えるほどの大きな市場となっている。そのうち自国以外の海外での受注額は約4,500億ドルと全体の4割近い規模に達しており、その内訳としては交通が最も多く、次いで石油・建設・発電・工業・水の順となっている(図表1-2-2-60)。

図表1-2-2-60 世界の上位225コントラクターの売上高推移における自国内/海外別の推移
(出典)Top 225 Intnational Contractors 2012

その海外受注額の地域別の内訳では、アジア地域においては中国・欧州・米国企業、中東地域では米国・韓国・中国企業、アフリカでは中国企業が台頭している。そのような状況のなか、我が国は近隣であるアジア圏であっても1,122億ドル中105億ドルと10%前後、その他地域も数%台にとどまっている。(図表1-2-2-61)。

図表1-2-2-61 世界のインフラにおける地域別の海外受注内訳(億ドル:2011年)
(出典)Top 225 Intnational Contractors 2012より作成
イ インフラ輸出戦略の策定・公表

我が国としては成長戦略の一環として、積極的にこのような新興国を中心とするインフラ需要を取り込み、我が国の力強い経済成長につなげていく必要がある。このためには、我が国企業による機器の輸出のみならず、インフラの設計、建設、運営、管理を含む「システム」としての受注や、事業投資の拡大など多様なビジネス展開が重要であると考えられる。

加えて、インフラシステムの海外輸出は、受注企業の直接的な裨益のみならず、日本企業の進出拠点整備やサプライチェーン強化など複合的な効果を生み出し、また、我が国の先進的な技術・ノウハウ・制度等の移転を通じ、環境、防災等地球規模の課題解決に貢献し、我が国の国際的地位の向上にも貢献することが期待される。

一方、我が国企業は個別の製品や要素技術では世界的に高い技術を有するものが多いが、国際競争の熾烈さに加え、海外展開を支える体制の未整備や人材、ノウハウ・ブランディング力の不足等を背景に、受注実績で大きく欧米・中国・韓国等の競合企業に差をつけられているのが現状である。また、新興国へのインフラ輸出は初期投資が膨大で事業リスクが高く、輸出先政府の影響も大きいという課題があるため、政府と民間企業が連携し、官民一体となって取組を推進する必要がある。

また、インフラシステム輸出支援に際しては、相手国の発展段階や日本企業の進出度合いに応じメリハリをつけつつ、政府開発援助等の経済協力と緊密に連携を図ることが重要であり、エネルギー・鉱物資源の海外からの安定的かつ安価な供給確保について、インフラシステム輸出や経済協力と連携して、官民一体となって働きかけを行う必要がある。

これらのことを踏まえ、我が国企業によるインフラシステムの海外展開や、エネルギー・鉱物資源の海外権益確保を支援するとともに、我が国の海外経済協力(経協)に関する重要事項を議論し、戦略的かつ効率的な実施を図るため、内閣官房長官を議長とする経協インフラ戦略会議が本年3月に設置され、我が国企業が熾烈な国際競争に勝ち抜き、官民連携により施策を強力に推進することによって、2020年に約30兆円(事業投資による収益額含む:現状約10兆円)のインフラシステムを受注することを目指し、本年5月に「インフラシステム輸出戦略」が政府より発表された49

ウ ICTにおけるインフラ市場の動向

インフラ市場におけるICTの位置づけとして、既存の通信インフラに加え、我が国の利用企業が優位性を有する社会インフラ(鉄道、電力、水、農業など)にICTを組み込んで高度化し、グローバル展開を行う戦略が想定されている。この場合、ICTは重電企業が保有するインフラシステムの高付加価値化を実現する不可欠な要素として位置づけ、鉄道、電力、水、世界等の社会インフラに関する日本企業のプレゼンスを考慮すると、当該市場を取り込むこともICTサービスのグローバル展開のモデルを考える上でも重要な役割を担うことが考えられる。

それらの市場成長性を見てみると、前述(3)でも述べたとおり通信インフラ市場は年平均2.1%の市場成長率が見込まれており2017年には1.8兆ドル規模に成長すると予測されている(図表1-2-2-16)。

また、スマートタウンの市場規模予測としては2012年現在は60億ドル強であるが、2020年には約3倍の200億ドル市場まで成長が見込まれており、世界で年平均16.2%という高い成長が予測されている(図表1-2-2-62)。その地域別で見ると、欧州、アジア・太平洋圏で特に高い成長が示されており、分野別においては2012年時点ではエネルギーの比率が最も高いが、交通・建設・政府の成長率が19%前後と高く、2020年にはエネルギー・交通・建設の3分野が45〜55億ドル規模に拡大することが見込まれている(図表1-2-2-63)。

図表1-2-2-62 世界のスマートタウンにおける地域別市場規模予測
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年)
Pike Research
図表1-2-2-63 世界のスマートタウンにおける分野別市場予測50
(出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年)
Pike Research
エ 総務省の取組

これらの状況を踏まえ、総務省においても我が国の優れたインフラシステムの輸出を成長戦略の要と位置づけている。インフラシステム輸出においては、相手国の歴史や文化、地政学的な状況まで視野に入れた地域毎のニーズを汲み取り、国内各省庁とも連携して取り組むことが重要である。

特に、ICTはいわば社会インフラシステムの神経系であることから、我が国の先進的なICTシステムを他の社会インフラシステムを活かした国際競争力のある提案を行うことが重要であると考えられる。すなわち、水資源不足や食料危機など世界的な資源問題、急速に進む高齢化といった社会的課題について、センサーネットワークやビッグデータ活用などを用いて解決する先進的モデルを「ICTインフラシステム」として同様の問題を抱える国々に展開し、当該国の課題解決に貢献するとともに、我が国産業界の国際競争力の強化を図る、「社会的課題の解決に資するICTインフラシステムの海外展開」を促進することが求められている。また、都市・生活インフラ(住宅、建築物、ライフライン)、産業・エネルギーインフラ(石油・天然ガスプラント)、ICTインフラの組み合わせを促進することも有益であろう。

このような認識のもと、我が国企業の進出意欲も旺盛なASEAN地域等への展開を意識した上で、総務省では次のような分野に対し取組を行っている51

(ア)ICT分野52

総務省では、社会インフラシステムを輸出する際に、我が国の先進的なICTシステムを組み込むことを前提とした様々な取組を行っている。

例えば、ASEAN諸国においては、域内共通のブロードバンド基盤整備と公的ICTシステム(防災、環境、医療等)をセットにした「ASEANスマートネットワーク構想」を推進している。国別に見ると交通渋滞に悩まされているタイにおいては、地理空間情報とICTを組み合わせた交通情報システムの提案・実証実験を行い、実サービスとして開始されている。また、持続的な経済成長により自然環境や都市環境の改善が急務となっているベトナムにおいては、ICTを活用して環境・防災情報のリアルタイムでの収集や分析を可能とするセンサーネットワークシステムの導入を推進している。

今後の取組においても、行政、社会インフラ、健康、医療、農林水産、環境、エネルギー、交通、観光、教育などの複合的課題の解決や防災対策のため、ICTを社会実装した新たな街づくり(ICTスマートタウン)に関する我が国先行モデルの海外展開等も検討されている。

(イ)セキュリティ

ASEANを中心とした成長に伴い都市化が進む地域においては、インターネットの普及が加速している。しかし、国家の情報ネットワーク化が進めばサイバー攻撃等に晒されるリスクも増大するため、我が国の取組や成功事例を発信し、制度、情報共有に関する国際協力を推進することは重要な意味を持っている。そのため、総務省では国際的なサイバーセキュリティ確保に向けた取組として、平成25年9月に日ASEANサイバーセキュリティ協力に関する閣僚政策会議が予定される等、政府間での情報共有を行う様々な取組を推進している。

(ウ)防災分野

阪神・淡路大震災、東日本大震災等、様々な大規模災害が多い我が国では、消防防災インフラシステムが世界でも類を見ないほど進んでおり、例えば地震波検知後数秒程度で発表する緊急地震速報や、約三分の津波警報・注意報に加え、衛星を活用し速報や警報等を全国一斉に配信するアラートシステム等も備わっている。それらを支える制度、技術、人材育成などを組み合わせて、経済発展・都市化に伴い災害リスクが増大している新興国に展開していくことは、我が国のICTの展開のみならず、展開先国の生命・インフラを守るといった非常に重要な意義を持っている。

特に、我が国と同様に地震、津波、洪水等の自然災害が多いASEAN諸国への、我が国の知見・経験を生かした災害ICTシステムの展開はニーズが高い。

平成25年4月には、総務大臣がインドネシアを訪問し、インドネシア通信情報大臣や国民福祉担当調整(防災担当)大臣と会談を行い、防災ICTシステムの早期導入等に向けて、実現可能性調査の実施等双方で取り組んで行くことで合意した。

今後は、インドネシアにおける実システムの早期の導入を目指すとともに、他のASEAN諸国への展開を図って行く。

総務大臣とティファトゥル通信情報大臣との会談
総務大臣とアグン国民福祉担当調整(防災担当)大臣との会談


48 建設事業等の請負業者。

49 「インフラシステム輸出戦略」平成25年5月17日 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keikyou/dai4/kettei.pdfPDF参照。

50 政府:公共の安全管理、社会的ケア、遠隔医療、電子教育、スマート街路照明、市民ポータル、廃棄物収集等の分野/建設:公共部門のエネルギー管理プログラム、再生可能エネルギー、電気自動車の充電ステーション、照明・廃棄物・水管理等の分野/交通:交通量の監視・管理、電気自動車の充電システム、緊急連絡システム、公共情報システム、スマート駐車場、統合された交通信号管理などの分野/水:センサーと通信ネットワークなどを活用した水の監視・管理システム(スマート水道メーター)等の分野/エネルギー:スマートメーター・スマートグリッド等のエネルギー効率化を目的としたシステム等の分野

51 第5章第8節第9節も参照。

52 郵便分野においても、新興国を中心に郵政事業の近代化・高度化に向けた投資も活発化していることから、日本の郵便の優れた業務ノウハウや関連技術の提供を通じて、相手国の社会経済の発展に伴う両国間の関係強化を図り、国内関連企業の新規ビジネス展開に繋げていくことを目指している(第5章第9節2(2)参照)。

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