(7)上位レイヤーのグローバル展開 上位レイヤーは、ICT産業の中でも企業の「新陳代謝」が顕著であり、比較的短期間のうちにベンチャー企業から新たな「スター企業」に成長するなど、グローバル市場においてダイナミックな市場環境を形成している。上位レイヤー産業で成功し、グローバル展開している事業者の多くはプラットフォーム事業者と呼ばれ、上下レイヤーの産業を巻き込んだエコシステムを形成することにより、高い収益性と雇用創出力を有している。  プラットフォームレイヤーはその発展過程でおおむねネットワーク効果が生じており、プラットフォーム事業者がさらにグローバル展開を図ることにより、エコシステムに組み込まれた上位レイヤーに相当するコンテンツ・アプリ事業者が数億人規模の利用者を対象としたグローバル市場でのビジネス機会を得ることが可能になる。また、当該レイヤーはグローバル市場で活躍するコンテンツ・アプリ事業者から新たなプラットフォーム事業者が生まれ、Google、Facebook等のように既存のビジネスモデルを塗り替えるような新興企業が誕生する可能性を秘めている。 過去15年間において誕生した上位レイヤーの主要事業者と現在の事業規模を見ると、1990年代にアプリケーション、電子商取引、ビデオ配信等の新興企業が登場し、2000年代以降にSNSやクラウドソーシング等の領域における新興企業が登場しており、現在のAmazonやGoogleのように売上高1兆円を超えるグローバル企業に成長している事例も存在する。日本企業では、楽天、DeNA、GREE等が存在しており、昨今ではグローバル展開を積極的に推進している(図表1-2-2-85)。 図表1-2-2-85 過去15年間における主要な上位レイヤー企業の設立と現在の事業規模 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) ア 上位レイヤーの市場動向 上位レイヤーは、グローバル市場における有線及び無線のブロードバンド環境の整備と企業の自由競争を背景として、急速にその市場規模を拡大している。上位レイヤーは米国企業が中心となっているが、リーマンショック後も順調にその市場(主要事業者の売上高合計)を拡大している(図表1-2-2-86)。 図表1-2-2-86 米国の主なプラットフォーム事業者の業績推移 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) また「Gang of Four」とも称されるApple/Google/Amazon/Facebookにおいては、昨今の営業利益率を見るとやや鈍化しているものの、当該レイヤーの企業は、特にデジタル・コンテンツを中心に、今もなお成長性や収益性の面でICT産業全体を牽引する存在感があることがわかる(図表1-2-2-87)。米国を中心に次々と生み出されてくるグローバル・ネットビジネスの潜在能力の高さがうかがうことができ、産業の活性化を促すという意味でも上位レイヤーの企業が重要な役割を担っていることが推察される。 図表1-2-2-87 米国における主なICT上場企業の業種別評価 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) イ 日米中の主な上位レイヤー企業の成長性と海外展開 日米中の主な上位レイヤー企業の成長性と収益性をみると、成長性の観点では、世界的にユーザー数を伸ばしているFacebookやGrouponが注目される。他方、収益性の観点では、日本のGREEやDeNA、中国Baiduが、Appleよりも高いなど、高収益体質であることがわかる。NetflixやZyngaは、国内外の投資(M&A)を続けており、直近では営業利益の水準が低くなっている。 海外展開の観点からみると、米国の上位レイヤー事業者は、売上の40%〜60%が海外事業に基づくものであり、規模の拡大において海外事業が重要な役割を担っていることがわかる。なお、DVDレンタルというローカルサービスからスタートし、ストリーミング事業へシフトしつつあるNetflixは、現時点では海外売上比率は低い状況である(図表1-2-2-88)。 図表1-2-2-88 日米中の主な上位レイヤー事業者の成長性と海外展開の関係 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) さらに米国の上位レイヤー事業者の海外売上比率の推移をみると、約10年間で、Appleは40%台から60%台へ、Google/Amazonは30%台から40%〜50%台へと海外事業への依存が高まっていることがわかる。他方、Facebook、Zynga、Grouponは、設立間もないにも関わらず、積極的に海外展開を図っていることから、既に30%〜50%の海外売上比率を誇っている。前者の4社と比べると、売上規模はまだ小さいため変動しやすいものの、上位レイヤーであるほど、短期間のうちに海外展開による売上増が見込めることを示唆している。前述のとおり、ストリーミング事業へ注力し、ローカルからグローバルへのシフトを進めているNetflixも、2年間で海外売上比率が急激に伸びていることがわかる(図表1-2-2-89)。 図表1-2-2-89 米主要上位レイヤー企業の海外売上比率の推移 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) ウ 上位レイヤーのグローバル展開モデル 国内外の主要上位レイヤー事業者の主な海外展開事業を整理すると、主に特定の分野(ゲーム・SNS)に特化して事業を展開している事業者(NHN Japan、Cyber Agent、GREE、DeNA、Zynga、Facebook)と、多角化と垂直展開を追及し、自らエコシステムの拡張を図っている事業者(楽天、Amazon、Google、Netflix、Apple)に大別されるだろう。加えて、主要グローバルプレイヤーのユーザー数を見てみると、多くの企業で億レベルのユーザー数を抱えており、上位レイヤーの成功にはグローバル展開による規模の拡大が重要であることが見て取れる(図表1-2-2-90)。 図表1-2-2-90 主要上位レイヤー企業の海外展開事業の類型 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 一方、上位レイヤー事業者のグローバル展開については、@ベンチャーから成長したプラットフォーム事業者が、国内で構築したエコシステムをグローバルに水平展開し、将来的にグローバル市場でのクロスセルプラットフォームの構築を指向するモデル「プラットフォーム展開」と、Aグローバルに通用するアプリケーションを有するコンテンツ・アプリ事業者が、プラットフォーム事業者の支援・流通基盤を利用してグローバルに展開してくモデル「コンテンツ・アプリ展開」の2つが想定されるだろう(図表1-2-2-91)。 図表1-2-2-91 上位レイヤー企業のグローバル展開モデル (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) 以下、グローバル市場での競争が激化する中で日本企業が一定の地位を確保している例として、ソーシャル・ゲームアプリを取り上げその動向を見てみる。 (ア)ソーシャルアプリ・プラットフォームの海外展開 ソーシャルアプリ・プラットフォーム事業者のDeNAとGREEは、国内での成功を基盤に、グローバル展開を推進している。現在の両社の海外展開体制は図表1-2-2-92であり、DeNA は、2014 年度にグループ売上高 4,000〜5,000億円を目指すこと、そのうち 50% は海外売上にすることをビジョンとして掲げている。 図表1-2-2-92 DeNA とGREEの海外展開状況(上段:DeNA、下段:GREE) (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) また、両社のグローバル展開においては、2010年末から現在にかけて競い合うように海外現地企業との資本提携・業務提携を加速させており、大型買収にも踏み切っている。このように海外展開を目指すプラットフォーム事業者にとって、海外向けコンテンツの開発拠点の確保、デベロッパーとの提携は、グローバル市場におけるエコシステムを形成する上で、重要な意味を有していることがうかがえる。(図表1-2-2-93)。 図表1-2-2-93 DeNA とGREEにおけるM&A・提携の事例 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) (イ)ソーシャル・ゲームアプリの海外展開 上位レイヤーにあるソーシャル・ネットゲーム業界においては、世界的な傾向として、買収・提携を通じた「開発者囲い込み」や「開発者の奪い合い」が起きている。Digi-Capital社によると、2012年における世界のゲーム業界におけるM&Aは過去最高額の40億ドルを超えたと報告している。(図表1-2-2-94)。特に直近の買収事例を見てみると、ソーシャル・カジュアル系ゲームの金額が高く、件数ではモバイルゲームが牽引しており、日本の他、米国・中国・韓国・ヨーロッパの間で、業界内の再編が進みつつある(図表1-2-2-95)。 図表1-2-2-94 ソーシャル・ゲームアプリのM&A等に関する動向 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) Dgi-Capital 図表1-2-2-95 グローバル・ゲーム市場におけるM&A事例 (出典)総務省「ICT産業のグローバル戦略等に関する調査研究」(平成25年) エ 上位レイヤーにおけるグローバル展開の展望(まとめ) 前述したプラットフォーム展開においては、成功しているのは一部事業者に限定される。またコンテンツ・アプリ展開については、より上位のレイヤーになるほど、各国・地域でのローカル最適化に対する要求が強いことが想定されることから、グローバル展開に際しては現地の同業他社をM&Aや戦略的提携により獲得し、現地での顧客基盤を確保しながら、国内で培ったエコシステムのノウハウを現地化していくケースが増えていくものと推察される。 また、上位レイヤーにおいては、グローバル展開が他レイヤーと比較して迅速かつ容易に可能であることが特徴であり、その成功によって大きな雇用機会を生み出す可能性がある。さらに、この市場における成功企業は元々ベンチャーを起源にしていることが多く、本節第1項(4)「ベンチャーとICTの動向」でも述べたとおり成功したプラットフォーム事業者が、ベンチャー起業環境の整備に貢献しているケースも増えている。 このようにベンチャー支援環境の拡充を図り上位レイヤー産業が更に発展することは、当該レイヤーのプラットフォーム化の促進に繋がり、一層のグローバル展開に波及していくことが期待されるところである。