(2)生活資源問題とICT ア 新たなICTトレンドの生活資源対策への活用 ICTは、生活資源の生産・流通・消費・維持・管理といったそれぞれのフェーズにおいて、距離や時間の制約を超え、情報のリアルタイムな入手、共有、発信、蓄積、解析、制御等を容易にし、効率性の高い、安心・安全で持続可能な社会の実現に貢献することが期待される。 また、老朽化が進展する社会インフラの異常検知から予知・予防、最適な運用計画に至るまでICTが果たす役割がますます重要になると予想される。 ICT分野においては、近年、センサー、ビッグデータ、M2M、クラウドに関する技術が新たに進展・普及しつつあり、このようなICT技術の生活資源対策への活用が期待される。 イ 海外におけるICTを活用した生活資源対策の取組例 世界規模の課題である生活資源問題の解決へのICTの活用については、諸外国においても様々な取組が行われているところ、以下に活用事例を紹介する。 (ア)食料資源問題の解決に資するICT活用事例 農業の産業競争力の向上を図るため、主に生産段階においてICTの徹底した利活用を進め、農業の生産性向上・高付加価値化を実現する取組が行われている(図表2-2-2-15)。 図表2-2-2-15 諸外国における資源問題解決に資するICT活用事例(食料資源) (出典)総務省「ICT生活資源対策会議報告書」 豪州では、センサー、GPSを搭載した首輪を牛に取り付け、個々の牛の位置や行動をモニタリング。首輪から警告音や刺激を与えることで牛の行動範囲を制限し、フェンス等を設置することなく牛の行動を管理している。 また、人工衛星に搭載したセンサーを用いて取得したデータを気象データ等と紐付けて分析し、牧草地の成長率を予測。地域ごとの牧草地の成長具合や供給量に関する情報を提供し、牧草地の効率的な利用に貢献している。 米国では、個々の干し草(塊)にICタグを取り付け、GPS機能やセンサーで読み取った重量、含水量、防腐剤量等の様々な情報を保存。これまで品質情報が管理されていなかった干し草を体系的に管理することで、クライアントのニーズに最も適した干し草の提供を可能とし、家畜の効果的な生育に貢献している。 中国では、温室内に温度、湿度、日射量等を計測できるセンサーやカメラを設置し、リアルタイムで温室内の農作物の生育、病虫害の発生等を監視測定を行い、遠隔から作物の生育状況に応じた機器のオペレーションの実証実験が行われている。 (イ)エネルギー資源問題の解決に資するICT活用事例 エネルギーの無駄な利用を排除するため、電力の需給バランスの調整や使用効率の最適化をICTの活用により実現する取組が行われている(図表2-2-2-16)。 図表2-2-2-16 諸外国における資源問題解決に資するICT活用事例(エネルギー資源) (出典)総務省「ICT生活資源対策会議報告書」 ドイツでは、通信ネットワークを通じて、地域全体の電力の需給能力や需要量の変動をリアルタイムに収集し、効率的な送電や電力需給バランスの調整を実施。各家庭では、電化製品等を宅内ネットワークで接続し、個々の製品の電力使用状況を可視化するとともに、インターネット等からの遠隔操作や需給状況の変動に関する情報等に合わせて消費電力をコントロールする実証実験が行われている。 オランダでは、センサーとネットワークを用いて車の往来に対応して点灯・消灯する街灯の設置等、ICTの技術焦点をこれまでの「車」から「道路」自体に当て、交通網エネルギーの効率的使用を実現する“スマート・ハイウェイ”の実証実験が行われている。 また、EU全体では、製品製造時の各工程における電力消費状況を可視化し、部品調達や設計の段階からの電力消費シミュレーション等を通じて、製造工程を見直すことにより、電力使用効率最適化を実現する実証実験が行われている。 (ウ)環境資源問題の解決に資するICT活用事例 CO2排出量の削減など環境負荷の軽減をICTの活用により実現する取組が行われている(図表2-2-2-17)。 図表2-2-2-17 諸外国における資源問題解決に資するICT活用事例(環境資源) (出典)総務省「ICT生活資源対策会議報告書」 スウェーデンでは、市街地の出入口18カ所に課金ポイントを設置し、交通量に応じて時間帯ごとに変動課金を実施し、交通量の削減と、それに伴う渋滞の緩和により、CO2排出量削減に貢献している。 米国では、保有している多数の自動車の運行状況を収集・解析することにより、走行経路の最適化や必要最小限の車両台数での運行を可能とし、CO2排出量を削減している。 英国では、ロンドン市内に数百メートル間隔で設置されたステーションで自転車を借り、市内のどのステーションにでも返却可能なレンタサイクルサービスを展開。自動車に代わる環境負荷の少ない交通環境を整備している。 フランスでは、道路の映像情報やプローブ情報等の交通情報を即時に統合して交通状況を予測。交通状況に応じた信号制御や交通情報表示による交通の円滑化を実現している。 (エ)鉱物資源問題の解決に資するICT活用事例 鉱物の生産効率の向上や採掘作業の効率向上、作業の安全性確保のためにICTを活用している事例が存在する(図表2-2-2-18)。 図表2-2-2-18 諸外国における資源問題解決に資するICT活用事例(鉱物資源) (出典)総務省「ICT生活資源対策会議報告書」 豪州では、鉱石の積み込み場において、GPS、障害物検知センサー等を搭載したダンプトラックが中央管制室からのルート設定に基づき無人走行を実現している。完全無人稼働によるダンプトラック運行システムにより作業効率の向上を図っている。 また、鉱山で稼働するブルドーザ等の機械にセンサーを取り付け、衛星通信経由でデータを収集・解析して機器・部品の稼働状態を把握。機械の故障を予測して未然に防止することにより機器の稼働率を上げ、鉱物の生産効率を向上させている。 さらに、都市部にある遠隔操作センターより1000km以上離れた鉱山で稼働している砕石ハンマー等の重機を遠隔操作し、採掘作業の効率を向上させている。 チリでは、鉱山坑道において、掘削作業により発生した坑道の変形を、坑道に張り巡らせた光ファイバに加わる圧力等で検知し、岩盤崩落等の兆候を未然に把握し、坑道内における作業安全に貢献している。 (オ)水・廃棄物資源問題の解決に資するICT活用事例 水資源の効率的な活用や廃棄物の削減をICTの活用により実現している(図表2-2-2-19)。 図表2-2-2-19 諸外国における資源問題解決に資するICT活用事例(水・廃棄物資源) (出典)総務省「ICT生活資源対策会議報告書」 マルタでは、スマートメーターを活用して収集した貯水量や使用量等の情報を基に、最適な給水箇所の設定等を行い水の流通経路を制御するとともに、漏水や盗水の早期発見・防止に貢献している。 モルディブでは、水道管路図面等の管路情報や大口消費顧客データを、地理情報システム(GIS)を活用してデータベース化して可視化し、最適な管路設備設計や管路設備保全管理の効率化を実現している。 米国では、流通用の梱包箱にICタグを張り付け、梱包箱の個体管理により出荷先を把握し、梱包箱を再利用する体制を構築。梱包箱の再利用により、廃棄物の削減に貢献している。 カナダでは、ビル等の建造物にひずみセンサーや水分センサー等を取り付け、多量のデータを収集して解析することにより、建造物の経年劣化の箇所・進み具合を適切に把握。必要箇所の補強により建造物全体の寿命を延ばし、廃棄物の削減に貢献している。 以上のように、海外では様々な生活資源問題の解決にICTを活用しているところであるが、我が国においても、生活資源問題の解決に貢献するとともに、取組の成果を先進的な課題解決モデルとして、積極的に海外に展開し、我が国のICT産業の国際競争力の強化に資するべく、諸外国に先駆けて、ICTを活用した生活資源対策の取組を加速させていく必要がある。