トピック 災害に強い情報通信ネットワークの実現に向けて 総務省では、情報通信ネットワークは国民の生命や財産を守る重要な社会インフラの一つであることから、平成24年3月、総務省・独立行政法人情報通信研究機構(NICT:National Institute of Information and Communications Technology)・民間企業・東北大学をはじめとする研究機関からなる産学官連携プロジェクトを発足し、災害に強い情報通信技術を実現するための研究開発(図表1)を実施している。 図表1 災害に強い情報通信技術の実現に向けた研究開発 本研究開発では、大規模災害が発生した際の課題について「避難誘導」、「安否確認」、「早期復旧」、「情報提供」という4つの段階(図表2)に整理し、それぞれに対する解決策として各種の研究開発を実施している。また、NICTが東北大学内に整備するテストベッドを活用した研究開発を行い、災害に強い情報通信技術の実現に向けて産学官で取り組んでいる。 図表2 大規模災害が発生した際の4つの課題 【具体的な取組事例】 1 「避難誘導」 東日本大震災では、大津波警報に伴う津波の高さが数度更新されたが、現場では更新された後の情報(より高い津波が来襲する等の情報)が得られず、住民にも発信できなかった。 このような課題を解決するため、放送局に集まる地域ごとの詳細情報を、スマートテレビをはじめとするスマートフォンやタブレットなど、様々な端末で視聴できる技術の開発を進めている。このように通信手段が増えることで、被災地において重要な避難の情報がより多くの方々に行き渡ることになる(図表3)。 図表3 スマートテレビによる被災情報の提供 他にも、地方自治体が災害情報を入力すると、自動的に市民が利用するさまざまなデバイス、サービスにあわせたコンテンツに変換し、配信する技術を開発した。このシステムを利用すれば、地方自治体は1画面の入力で、送信ボタンを1回押すだけで、情報を様々な媒体に送信できるようになり、地方自治体は緊急時の作業軽減と時間短縮が図れ、住民はいつでもどこでも、スマートフォン、ワンセグ、防災無線など何らかの方法で避難情報・災害情報が得られることができる(図表4)。 図表4 多様な手段による避難情報の伝達 2 「安否確認」 東日本大震災の発生に伴い、被災地域のみならず首都圏などでも、公衆網に大規模な通信混雑が発生し電話がつながらなかった。また、被災3県を中心に、地震及び津波の影響で通信施設(局舎等)の倒壊、流出等の被害が発生し、更に、広域停電が長引いたため、通信設備(機器等)が機能不全に陥った。 このような課題を解決するため、通信混雑状況下においても必要となる通信を可能な限り確保するべく、他のサービス向けの設備の処理能力を「音声通話」「メール(ウェブ含む)」などの基本通信サービスに割り振ることができる、通信処理リソースの動的制御技術を開発した。このシステムを利用すれば、災害時に通信混雑により携帯電話がつながりにくくなった場合でも、早期に混雑状況を緩和させ、安否確認がしやすくなる(図表5)。 図表5 携帯電話の通信混雑の緩和 他にも、通信環境が悪化しても、避難所や災害現場の状況をクリアな映像で送ることができる技術を開発し、より高画質なのに重くない映像圧縮技術を実現した。これにより、災害情報を確認するための必要な情報がよりスムーズに地方自治体や住民に提供できるようになる(図表6)。 図表6 高精細な映像を少ない遅延時間で伝送 3 「早期復旧」 東日本大震災発生に伴い、地震による設備の倒壊、津波による流失や広域停電の長期化などで、電話だけでなく衛星携帯電話や防災無線などの設備が使えなくなり、「設備の復旧」に時間がかかった。 このような課題を解決するため、NICTにおいて、インターネットへの接続が失われても相互の安否確認や情報共有を可能とする、災害に強い耐性を持った自律分散ワイヤレスメッシュネットワーク技術、および、小型無人航空機を利用したネットワークの回復技術の開発を進めている。通信の断絶した被災地上空に遠隔操作による小型航空機を飛行させることで、航空機に搭載した無線中継装置がメッシュネットワークの1つのノードとして機能して、通信が確保できるようになる(図表7)。 図表7 小型無人航空機中継局 他にも、持ち運びできる小型の衛星通信地球局で、誰でもボタン一つ押すだけで、自動で衛星を探し、すぐに衛星回線を利用できる技術を開発した(図表8)。 図表8 誰でも操作できる小型の衛星通信用基地局 また、広範囲にわたって通信が途絶した地域であっても、電話局や自治体行政システムなどの機能を持ったトラックが駆けつけ、災害対策本部や警察、消防などを結ぶ自営網を復旧したり、「音声通話」、「メール」等ができるようにする技術を開発している(図表9)。 図表9 移動式の電話局設備 4 「情報提供」 東日本大震災発生に伴い、地震による設備の倒壊、津波による流失や、広域停電の長期化などで、避難所等において電話だけでなく衛星携帯電話や防災無線などの設備が使えなくなり、また、情報入手手段が限定されたため、避難所などで必要とされる生活情報(生活物資の配給等)が得られなかった。 このような課題を解決するため、災害時の限られた電力や通信経路を有効活用することで「音声通話」、「メール」等をより長く使い続けることができる技術開発した。具体的には、災害により携帯電話がつながらない場所でも情報共有を実現させるため、無線LAN基地局を可搬型基地局として持ち運びできるように改良し、避難所のように、たくさんの人が一斉に通信を行うような状況でも確実にデータ通信ができる技術を開発した(図表10)。 図表10 避難所に持込可能な、可搬型無線LAN基地局 また、NICTでは、災害時に発生するインターネット上の大量の災害関連情報を収集・蓄積・分析し、独自の情報分析エンジンで処理してユーザーに提供するシステムの研究開発を進めている。このシステムを活用することで、例えば被災地において何が不足しているかというような情報を、デマなどを回避しつつ、より迅速・正確に入手することが可能になる。更に、地図情報などに表示することで、例えば被災者は炊き出しの場所などの情報を入手したり、地方自治体は救援物資の配送計画に役立てたりすることも可能になる(図表11)。 図表11 ネット上の情報から災害関連情報を分析抽出 【事例の周知広報】 総務省とNICTでは、上述の研究成果を早急に普及させるため、平成25年3月25日〜26日には仙台市で「耐災害ICT研究シンポジウム及びデモンストレーション」を開催し、実際の利用方法の案内や実機を用いたデモンストレーション等を通じて、研究成果の利用者となる地方自治体、通信事業者、放送事業者、機器ベンダの方々などに広く周知した。 また、総務省では、研究成果の利用者(地方自治体等)に向けた「つながる!こわれない!災害に強い情報通信技術のご案内」(図表12)に上記のような取組をとりまとめ、研究開発の概要をまとめた動画とともに公表した。 図表12 「つながる!こわれない!災害に強い情報通信技術のご案内」