読者参加コラム ICTの戦略的活用でいかに日本に元気と成長をもたらすか 昨年に引き続き、平成25年3月から5月にかけてFacebookに開設したご意見募集ページ「みんなで考える情報通信白書」でご意見募集を行い、多数のコメントをいただいた。 今年の全体テーマは「ICTの戦略的活用でいかに日本に元気と成長をもたらすか」。ICTは、21世紀の産業や社会に大きな変革と成長をもたらすエンジンだといえる。特に、まちづくりやものづくりの分野で、ICTの新たな活用が注目を集めている。ICTの利活用はこれらの分野にどのような変化を生み、どのような未来をもたらすのだろうか。また、ICTの利活用がもたらす変化を日本の活性化と成長につなげるには、どのような取組が必要だろうか。「みんなで考える情報通信白書」に寄せられた、様々なご意見をもとに考えてみる。 1. ICTベンチャーの活性化には? ICTは、21世紀の産業や社会に大きな変革と成長をもたらすエンジンだといえる。この「エンジン」の開発と活用で重要な役割を担うのがICTベンチャーだ。特にここ数年は、スマートフォン普及やビッグデータ活用の本格化等、ICTベンチャーのビジネスチャンスには事欠かない状況になっている。 このテーマを「みんなで考える情報通信白書」で投げかけたところ、特に多くの意見・コメントをいただいた。投稿していただいたのは、ベンチャー企業の経営者や起業を考えている人たち、あるいはこれから日本の産業を担う大学生が多く、その投稿コメントで多く挙げられたのが、ICTベンチャーの担い手の幅を広げる努力が必要という指摘である。 ・大手企業の多くでは、何らかの形でベンチャー企業や彼らが生み出した新鮮なアイディアや新しいビジネスモデルを取り入れられないかと考えていると感じます。大企業とベンチャー起業家達が、双方に足りないものをお互い補いあうような形で共存するという考え方は現実的ではないかと考えます。ただしそれらを実現するためには、大企業側に「本気で」イノベーションを起こしたいと切望し、フットワークのよいリーダーがいることが必須となります。そんな彼らをどう引っ張り出すかが鍵になると思います。 ・若い人だけでなく、あらゆる年代・あらゆる業種の方がベンチャー企業に挑戦できる仕組が必要では。大学に期待することとしては、社会人の大学再入学による知識の再構築が重要だと思っています。 ・自身が実現したいプランを描く支援・教育が必要です。とかくIT技術に着目しがちですが、ITはあくまで手段だと思います。自身がやり遂げたいと思う気持ちや意欲、実現に導いていくための支援が必要だと思います。2つ目には、企業後のマネジメントの知識とスキルの教育が必要です。組織の運営、企業としてのマネジメントに関する知識とスキルを、効率的・効果的に学ぶことも必要です。 ICTは若者にとって起業しやすい分野のはずだが、残念なことに日本の若者の起業意欲は諸外国に比べて低いと言われている。この点については、大学生・大学院生を中心に起業して成功する確率の低さ等の多くのご意見をいただいた。確かに、起業はリスクを伴うチャレンジだが、その困難さばかりがクローズアップされて若者の起業意欲を損なっているとしたら、とても残念なことではないだろうか。一方で、「事業に失敗しても、それで終わりではないことを知ってもらいたい」というコメントも寄せられた。成功例の情報だけでなく、誇張のない失敗の体験談もまた、起業予備軍にとっては重要な情報になる。 ・ベンチャービジネスによる起業は成功率が低く、3年以上残っている会社はほんの数パーセントというのもよく聞く話です。今以上に若者の起業を盛んにするためには、倒産した企業に身を置いて働いていた経営者や従業員などの雇用の保障が最優先かと思います。「一度会社を潰せば人生を棒に振ってしまう」という考えが、起業に踏み出したい若者の障害になっていると考えられます。 ・起業し、残念ながら倒産してしまった方たちのその後の人生にクローズアップした番組なり、コラムなり、ブログなりを発信してゆく、ということが一つの道としてあるかと思います。現に僕の知り合いも起業後、残念ながら倒産してしまいましたが、今も元気に毎日楽しそうに過ごしてらっしゃいます。倒産したらそこでおしまい!というわけではないことも知っていただきたい。 起業という行為やICTベンチャーをもっと前向きに評価し受け入れてほしいという意見・要望も、学生層からばかりでなく、起業家や社会人の方々から多くいただいた。起業の社会的価値を認め、ICTベンチャーの活動を積極的に評価する社会であってほしい、というのが多くの関係者に共通する願いであるように思われる。そのような社会であってこそ、ICTベンチャーからの前向きな情報発信が増え、次のビジネスチャンスや次世代起業家の奮起につながる長期的な好循環が生まれるのではないだろうか。 ・「起業する(商売にする)」ことについて日本人は閉鎖的な観念を持っていると感じます。商売にするって言うのは、本来、人の役に立つことを長期安定的に持続することなんですけどね。面白いことを考えたら、すぐ実行できる環境を作ることと、考えだす風土を育成すると良いかも。 ・今や日本のインフラは非常に整っており、起業環境は十分満足できるもの。あとは人件費が高すぎることぐらい。問題は労働市場の流動性にあるような気がします。起業をして経営者になることは雇用を生み出すという非常に価値の高い活動なので、称賛されるような仕組やサポートが欲しいですね。 2. ソーシャルメディアは「まちづくり」の活性剤となるか? インターネット上で人と人とをつなぐソーシャル・ネットワークの発達は、多数の人の意見を瞬時に集め、議論することを可能にした。こうした新しい情報基盤やICTは、「まちづくり」や地域活性化にどのように役立つのだろうか。「みんなで考える情報通信白書」には、全国各地でICTの普及・活用や地域の活性化に取り組む方々から多くの投稿をいただき、高齢者のICT利用をサポートし、ICTの楽しさを知ってもらうための地道な活動の重要性も指摘された。 ・昨今のICTの利用は、かなり一般的になっています。先の震災での利用も記憶にあるところです。しかしその利用は、場当たり的であったと思います。あらかじめ地域の防災など、ある程度手順を決めて、組織的な訓練をしたらもっと有効活用できるように思います。 ・我々が住む島嶼部では、いまだにISDN環境の整備のみに留まっている地域が多く存在します。高速環境に触れたことがない方が大半で、都市部との格差が加速度的に広がっています。今後のクラウドによる各種サービスをストレスなく利用するためにも、都市部と変わらない通信環境の整備を進めて欲しいです。 ・山形で、80代の女性農業者にフェイスブックを教えたら、その場で岡山と青森からコメントがつき大喜び!こういう地べたを這うような布教活動が裾野を広げる一助になると考えています。 まちづくり、地域づくりでのICT利活用が期待されるところだが、「ICTありきではなく、どのような地域を作りたいのかをまずはっきりさせるべき」といった、しっかりしたスタンスを持って地域活性化に取り組む方々からのご意見も多くいただいた。こうした地域人材の交流や意見交換の場づくりにもSNSの活用が有効だと感じた。 ・まず何をどうしたいのか徹底的に詰めて、その結果ICTの活用が必要、とならなければ真の効果は期待できない。新しい街づくりのためには、妥協しないことが大事。 ・新しい「まちづくり」を広げていく鍵は、まずその街をどうしたいのか、その街に「集う人」にとってどんな街にしたいのか、日本のビジョンとどう整合性をとるのか等を決めることだと思います。それが決まってから、それを実現するために、どうICTを利用できるかアイディアを募るのが鍵だと思います。 3. 3Dプリンタは、私たちの暮らしを変える「ドリームマシン」になるか? 「みんなで考える情報通信白書」のアンケートで「印象に残ったICT関連ニュース」(後述コラムの中のコラム参照)の上位に入ったのが3Dプリンタの普及開始である。このテーマについても多くのご意見をいただいた。3Dプリンタの可能性については、現在の3Dプリンタの機能では用途は限られるが、様々な製品の3次元設計図データがネット上で簡単に入手できるサービスをはじめ、味や食感等も含めた「五感データ」を使ったものづくり等、ユニークなアイディアが寄せられた。 ・ソーシャルネットと組み合わせて、一般の人々によってさまざまな使い方が掲載されるクックパッドの3Dプリンタバージョンのようなサービスがあったら面白いです。 ・3Dプリンタが普及するには、使える素材をもっと身近なものに対応させていく必要があると思います。多様な素材をひとつにまとめて提供できるサイトやシステムがあれば、3Dプリンタを求める傾向を強めることができるのではないかと思います。 一方、3Dプリンタの負の側面を予見し、対策の必要性を指摘する投稿も多かったが、これらについての適切なルールの整備、成型素材を含めたエコ設計が必要との意見も多かった。 ・3Dプリンタでは他の作品やデザインをまねやすいので、関連する法律や規則を作ることが大事。 ・使用済みのペットボトルなどを3Dプリンタの材料にすることが可能になれば、ランニングコストが低下し、さらにゴミの削減にもつながるのではないかと考えます。 3Dプリンタに関する意見で印象的だったのは、造形素材の多様化やゴミ問題等、3Dプリンタの周辺要素に関する指摘や意見が多かったことである。現在は3Dプリンタそのものの可能性に注目が集まっている段階だが、「素材」や「環境」は日本が得意とするテーマでもある。周辺要素に目を向けたこれらの指摘は、この分野で日本の競争力を高めるヒントにもなるのではないだろうか。 4. 人間をやさしく助けてくれる次世代ロボットに期待! 3Dプリンタと並んで期待が大きい次世代ICT製品が、私たちの身近なところで生活を助けてくれる次世代ロボットである。今後、様々な用途・形状のロボットが製品化され、無線ネットワークで外部とつながって、家庭をはじめとする様々な場所で、多様で高度なサービスを私たちに提供してくれるようになるだろう。10年後、どのようなロボットの普及を期待するかを「みんなで考える情報通信白書」で尋ねたところ、特に高齢者の介護や生活の手助けをしてくれるロボットに期待する意見が多く集まった。 ・身体機能を補うようなロボットスーツ、介護の補助になるようなロボットの普及が進んでくれることを願っています。このようなロボットこそ、過疎高齢化の進む地域から配置することが望まれます。 ・普及して欲しいのは、ペットロボット。昔AIBOが出た時、未来を実感できた。ペットロボットに各種センサーとWiFiの通信機能を備えて、子どもや老人家庭での見守りや通報と防犯に役立てる。 ・災害時の救助や、危険な場所での工事などにおいて、遠隔操作できるロボットがあれば、多くの人の助けになると思います。しかし、最後に必要になるものは、人間の判断だと感じます。ロボットを効率的に使えるよう、より人の決断力や、意思が重大なものとなる気がします。 また、ロボットが広く社会で活用されるための課題の指摘もあった。そのためにも私たちの身近で活動するロボットの課題やリスクを積極的に把握し対策を講じるといった取組が求められている。 ・ロボットが普及し、各家庭に一台ないしはそれ以上ある、といったような状況を想定した時、例えば何か誤作動で物理的な被害が出てしまうといったことが起こりうると思います。それを出来るだけ防ぐためには、自動車免許の様な制度が整えられるべきだと考えます。 ・みんなが夢に描いていたロボット時代がもうそこまで来ていると実感!ロボット特区などができて実用化研究が更にすすむと良いですね。 今年の「みんなで考える情報通信白書」では、ICTの利活用が私たちの社会、産業、暮らしを変革し「元気と成長」をもたらす可能性について、注目度の高いキーワードにフォーカスしてご意見をいただいた。集まったご意見を振り返ってみて感じるのは、次世代ICTおよびその周辺領域には、日本にとって数多くのチャンスがある、ということだ。また、それぞれのテーマでICTがもたらすメリットだけでなく、課題や問題の発生を予想するご意見をいただいた。しかしその多くは、「だから進むのをやめよう」という意見ではなく、「その問題を起こさないために、何をしておけばよいか」という提案につながっていた。実は、こうした課題や問題にいち早く気付いてその解決・改善に取り組むことが次世代ICT実用化の鍵であり、日本にとって大きなチャンスになるのではないか。 「ICTの戦略的活用で日本に元気と成長をもたらす」とは、実はこのようなことなのではないだろうか。ぜひ、日々の暮らしの中で、あるいは仕事の中で、新しいICTを積極的に取り入れ、利用しよう。行動のないところに、進歩は生まれないのだから。 コラムの中のコラム  アンケート「2012年、一番印象に残ったICT関連ニュースは?」 2012年も、ICT関連では様々な動きやできごとがあった。「みんなで考える情報通信白書」で昨年の主なニュースや話題を挙げて、一番印象に残ったものを尋ねたところ、200件以上の回答をいただいた。 回答の集計結果は「遠隔操作ウィルス騒動」が第1位だった。ちょうど、アンケート実施時期にこの事件の報道が多かったこともあるが、インパクトの強い事件だったことがうかがえる。2位と3位は「LINE急成長」と「3Dプリンタの普及はじまる」で、6位の「ビッグデータ関連ビジネスが広がる」も含め、ICTを活用した新しいサービスや産業進化への期待の高さが感じられる。 コラムの中のコラム アンケート結果