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第2部 情報通信の現況・政策の動向
第11節 海外の動向

第11節 海外の動向

1 海外の情報通信政策の動向

(1) 米国の情報通信政策の動向

ア 「ConnectED」イニシアティブ

オバマ政権の第1期に当たる2009年から2012年にかけては、情報通信分野における主要な課題は普及の遅れや速度面で課題のあったブロードバンド網の整備であった。再選を果たしたオバマ政権の第2期では、学校・図書館への高速ブロードバンド接続を充実させるための施策として、2013年6月に「ConnectED」イニシアティブが発表された。同イニシアティブは、5年以内に米国の99%の生徒が次世代高速ブロードバンド(下り速度の目標1Gbps、最低100Mbps)等を学校や図書館で利用できる環境の整備、教員のスキル向上及び教材のデジタル化等を柱とする取組である。

このイニシアティブに基づき連邦通信委員会(FCC)は、2014年2月、ユニバーサルサービス基金で運用されている学校等でのインターネット接続費用への補助プログラム(E-rate)の見直しを行い、今後2年間で15,000以上の学校及び2,000万人の学生を高速ブロードバンドでつなぐために20億ドルの頭金を拠出すると発表した。

また、米国の情報通信関連主要企業が、総額7億5,000万ドル以上の額に相当する寄付とともにこの取組に協力することが、ホワイトハウスのファクトシートで公表された。主なものは以下のとおり。

  • アップル 1億ドル相当のiPad、Macbook等の製品を学校に寄付
  • AT&T ミドルスクールに無料インターネットアクセスを提供するため3年間で1億ドル拠出
  • マイクロソフト 公立学校に対し、ウィンドウズOSやウィンドウズ搭載機器を安価で提供
  • スプリント 今後4年間に50,000の低所得世帯の高校生に無料で無線サービスを提供
イ サイバーセキュリティ政策

オバマ政権第2期で力を入れている情報通信政策の一つが情報セキュリティ対策の強化である。米国におけるセキュリティ対策の法的枠組みとしては、2002年の「連邦情報セキュリティ管理法(FISMA)」があるものの、セキュリティ対策強化のための改正が求められていた。連邦議会では、2012年から2013年にかけて、FISMA改正関連法案を複数審議したもののいずれも成立しなかった。そこで、オバマ大統領は、2013年2月「重要インフラのサイバーセキュリティ強化に関する大統領令」を発出、大統領令のもとでのセキュリティ強化を図っている。同大統領令では、重要インフラとして通信、エネルギー、金融、運輸、政府施設、原子炉等の16分野の施設を指定、重要インフラの所有者・管理者との間での情報共有強化、リスク対応標準を開発・実践するパートナーシップの推進、プライバシーと市民的自由の確実な保護を求めている。

さらに、同大統領令に基づいて、2014年2月に米国商務省国立標準技術研究所(NIST)が、重要インフラのサイバーセキュリティを強化する基本枠組を発表した。同基本枠組は、重要インフラを有する企業や組織に対し、サイバーセキュリティのリスク管理のための指針を提供するもので、各組織が管理レベルの現状把握や目標設定を行い、改善を図れるよう支援することを目的とする。同枠組みは、ワークショップの開催やパブリックコメント等を通じ、重要インフラを保有する事業者及び業界団体等の民間部門から多くのインプットを得て策定されたが、企業等における採用は任意で、政府関係者もこれが新たな規制を課すものではないとしている。

ウ FCC新委員長の就任とFCC改革の推進

米国における通信・放送分野の規制監督機関である連邦通信委員会(FCC)のトム・ウィーラー委員長は、2013年11月の就任直後、FCCの手続き改革に着手すべくワーキンググループを設置した。2014年1月に、同ワーキンググループは、FCCの効率性や効力、反応を向上させるための100項目以上の勧告案をまとめた報告書を作成した。勧告には、説明責任の向上、諸手続きの内部見直し作業の効率化、バックログの削減、免許交付制度の見直し、消費者からの苦情処理手続きの現代化、政策文書草稿プロセスの改善、ITインフラやウェブサイト上の機能の改善などが含まれている。

エ IPベース・ネットワークへの移行政策

ウィーラー委員長は、IPベース・ネットワークへの転換を掲げており、具体的な移行に向けたトライアルを実施する予定であるが、米国では、既存の固定回線網は通信法第II編の規定の範疇にあり、相互接続や緊急通話提供等の様々な規制が課されていることから、IPベース・ネットワークになった際に、現行規則がどの程度適用されるかは不明な点も残されている。

FCCでは、2013年12月にIPネットワークへの移行について、消費者の利益やネットワークの価値の維持を念頭に置いた広範なトライアルを開始する計画の概要について討議、2014年1月に、IP移行トライアル実施を採択した。その際、回線交換方式からIPベースの電気通信網に移行することが公共安全、ユニバーサルアクセス、市場競争、消費者保護にどのような影響を与えるかを探るIP移行トライアルを実施することが満場一致で採択された。

オ ネット中立性規則に関する動き

2010年12月にFCCが制定したネット中立性規則を巡っては、1996年電気通信法第706条に基づくFCCの規制権限の有無、ブロッキング禁止と非合理的な差別的取扱い禁止に関する規定に関し、ベライゾンが、ブロードバンドネットワークやサービス、インターネット自体に不要な規制を設けるものだとして2011年に提訴し、ワシントンDC地区連邦控訴裁判所は、2014年1月、FCCの規制権限は認めたものの、ブロッキングの禁止と非合理的な差別的取扱い禁止規定については無効として、FCCへ差し戻す旨の判決を出した。

同判決を受け、同年2月、FCCウィーラー委員長は今後の対処方針として、上告はせず新規則の提案を検討する旨のステートメントを発表し、5月15日にはネット中立性に関する新たな規制制定案告示(NPRM)を採択し、7月15日まで意見公募が行われることとなった。

新規則案は、1996年電気通信法第706条を規制根拠とし、①透明性の確保(開示すべき情報の追加、具体化などの義務を強化)、②ブロッキングの禁止、③商業上の不合理な慣行の禁止(従来の非合理的な差別的取扱い禁止規定は廃止)、④執行及び紛争解決手段が主な内容となっている。

意見募集では併せて、現在「情報サービス」として分類されているブロードバンドインターネットアクセスサービスを、電気通信法第II編のコモンキャリア規制が適用される「電気通信サービス」に再分類することの是非や、この再分類に関して第II編に基づく一部規制のみが適用される、いわゆる「第三の道」についても意見募集が行われている。

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