(3) データ流通量と経済成長との関係性分析 それでは、データが流通し企業で活用されることが我が国経済のパフォーマンスにどのように影響しているか、データ流通量が我が国全体の実質GDPに寄与しているかどうか、今回推計したデータ流通量の産業別データを使って検証した。 検証のアプローチとして、平成19年版情報通信白書で分析がなされている情報資本のネットワーク外部性を明示的に取り入れた生産関数モデルをベースに分析を行った 11 。以下にモデルを示す。 ここで、Yは実質GDP、Aが全要素生産性、Kallが総資本ストック、Lが労働投入量、Kiが情報資本ストック、Dataがデータ流通量を示す。総資本ストック及び労働投入量の生産要素に対しては規模に関して収穫一定であるが、情報資本ストックに対してネットワーク外部性が働き、経済全体として規模に関して収穫逓増となるモデルである 12 。 なお、情報資本に対してデータが多く流通することによって、実質GDPにプラスの影響を与えることを仮定し、ネットワーク外部性を示す情報資本ストックの項にデータ流通量を乗じている。 検証に用いるデータセットは、期間が2005年から2012年までの8年分、産業がデータ流通量を推計した9産業 13 のパネルデータであり、サンプルサイズは72である。線形回帰モデルを適用できる形に(1)式を変形し、一般化最小二乗法(GLS)を用いて推定した 14 。 ここで、tは年、iは産業を示すサブスクリプション、εは誤差項を示す。検証を行うデータ流通量(Data)には、推計したデータ流通量のメディア合計を使うと共に、各メディアの流通量を利用した。 推定結果を図表3-1-2-8に示す。γの係数推定値がプラスに有意であれば、そのメディアは実質GDPにプラスの効果を持つことを示す。この推定結果を見ると、データ流通量にメディアの合計を使った場合には、データの効果を確認できない。ただし、メディア毎の推定結果では、実質GDPにプラスの効果を持つメディアと効果を持たないメディアに推定結果が分かれる。 図表3-1-2-8 生産関数モデルを用いたデータ流通量と経済成長との関係性分析の推定結果 (出典)総務省「ビッグデータ時代における情報量の計測に係る調査研究」(平成26年) 顧客データや経理データ、POSデータ等の従来から活用されているメディアや、通話音声データや電子メール等の通信メディアが実質GDPに対してプラスの効果が見られる。一方で、データとして近年注目を集めているセンサー系及びM2M系のメディアにおいては、GPSデータで効果が見られるものの未だ効果が見られていないメディアが存在する。 現状は、ビッグデータとして注目されたことで各企業はこれらのデータを活用し始めた段階と言える。企業でデータが有効に活用され付加価値を生み出すまでには、相応の時間が必要と考えられる。今回の分析では、活用方法が習熟された従来型のメディアに実質GDPへの効果が見られる結果となり、また、比較的新しいセンサー系、M2M系のメディアでは、一部のメディアに効果が見られるにとどまった。今後、センサー系やM2M系のメディアが、企業の試行錯誤のうえ活用が進み、さらには従来型のメディアと組み合わされて活用されることで、日本経済に大きなインパクトをもたらすことが期待される。 企業における各メディアの活用度の推計 今回、新たな試みとして、各メディアについて業種毎にどの程度活用されているかを「活用度」として推計を行った。活用度の推計方法は、企業を対象に実施したアンケート調査において、メディア毎に活用目的(9種類)について、当該目的でのメディアの活用の有無を尋ねた。「活用あり」と回答した数の和を当該メディアを利用する企業数×9で除した比率に100を乗じて指数化した値をここでは当該メディアの活用度と定義し、業種別に算出した(図表1)。なお、この活用度はあくまで活用目的の広がりを示す指標であり、活用しているデータ量を示す指標ではない点に留意が必要である。 図表1 各メディアの活用度の推計式 (出典)総務省「ビッグデータ時代における情報量の計測に係る調査研究」(平成26年) 2013年における各メディアの活用度を業種毎に推計を行った結果が図表2である。なお、今回の推計結果においては数値の絶対値にはあまり意味がなく、他の業種との比較でみていくと、商業は他の業種に比べて高い活用度を示すメディアが多い結果となった。 図表2 各メディアの活用度(業種別) (出典)総務省「ビッグデータ時代における情報量の計測に係る調査研究」(平成26年) また、業種間における活用度の高低をわかりやすく示すために、活用度を偏差値化した上で分布図にしたものが図表3である。いずれのメディアでも上は70前後、下は30〜40の範囲で散らばっており、業種間での活用度の差が小さいメディア(その場合、偏差値の分布が50前後に集まる)は見受けられない結果となった。この分布図を見ていくと、多くのメディアにおいて商業または不動産業が高い偏差値を示す一方、建設業または運輸業の偏差値が低くなる結果となった。 図表3 各メディアの活用度偏差値(業種別) (出典)総務省「ビッグデータ時代における情報量の計測に係る調査研究」(平成26年) 今回、業種ごとの各メディア活用度については、試行錯誤の結果、一つの見方を示したが、今後、データ量の増大と実質GDP等のマクロ経済指標の関係性を分析するにあたり、データ流通量の内数として実際に活用しているデータ量の把握は重要な要素であると考えている。活用度の推計方法については、引続き検討する予定である。 11 今回使用した生産関数モデルは「ユビキタス化効果検証モデル」(平成19年版情報通信白書P.7参照)をベースとしており、ユビキタス指数に代えてデータ流通量を変数として用いている。 12 情報資本ストックが外部効果を持つ生産関数モデルについては、日本経済研究センター「日本経済の再出発II―IT革新の衝撃とその評価―」を参照のこと。 13 製造業、建設業、電気・ガス・水道業、卸売・小売業、金融・保険業、不動産業、運輸業、情報通信業及びサービス業の9産業。 14 各産業の固有の効果を取り除くことができる固定効果モデル・変量効果モデルで推定することが望ましいが、2005年以降のデータであり時系列方向のサンプルが少なく、時系列に対してデータの変動が小さいことから、プーリングデータに対してGLSを適用した。なお、景気変動等の要因を取り除くため、時間効果ダミーを各年に加えている。