(1)ネットワークインフラの更なる高度化とサービスの多様化 ア DSLから光ファイバーへ 固定通信網は2000年代初頭から、長く続いたメタル回線から光ファイバーを主体とした通信網へと急速に変わっていった。とりわけ、「ラストワンマイル」と言われるアクセス網については、国際的にみても他に例を見ないほど積極的な光ファイバーへの転換が行われた。2006年度には、DSL契約数は初めて前年比減に転じた一方、FTTH契約数は前年比61.3%増の880万契約と大きな伸びを示すなど、FTTHの利用が急速に拡大し、DSLからFTTHへの乗り換えが進んだ。これにより、固定系ブロードバンドの主流がFTTHへ移行していき、2008年度にはFTTHが総契約数においてDSLを抜き、2013年度で2,500万回線を超える契約数を誇る。電話回線は最大で6,000万加入の規模を持っていたが、2013年度末現在、その半数以上、3,600万弱がブロードバンド回線(光ファイバー、DSL、ケーブルインターネットの合計)になっており、その半数以上が光ファイバーを利用している 45 。 イ 急速に高速化するモバイルネットワーク ブロードバンド化の波は固定通信網に限られない。携帯電話のネットワークも、デジタル化が完了した後は、高速化・広帯域化が図られた。3G、3.9Gと積極的な設備投資によりネットワークの高度化を実現し、2Gから3G、3.9Gへの移行が順調に進んだ結果、3Gの加入者数が携帯電話加入者全体に占める割合は、2005年度末には半数を超え、2013年度には、ブロードバンド契約数のうち、3.9Gの契約数の割合が最大となっている(図表1-1-3-1)。 ウ 世界最先端のブロードバンド環境の実現 ブロードバンドの利用可能エリアの拡大が進んだのもこの時期である。我が国のブロードバンド利用可能世帯率 47 (サービスエリアの世帯カバー率)は、2007年時点では95.2%であり、FTTH等の超高速ブロードバンド 48 に限ると83.5%であった。それが、2014年時点では、超高速ブロードバンドは99.9%、ブロードバンドは100%となっている(図表1-1-3-2)。民間事業者を中心に積極的なネットワーク投資が行われた結果、大都市圏だけでなく日本全国のほとんどの地域でブロードバンドが利用可能になった 49 。 以上のような我が国のブロードバンド環境は、諸外国と比較した場合どのように位置付けられるのだろうか。OECD加盟諸国の間での単位速度(1Mbps)当たりのブロードバンド料金を比較すると、2014年9月時点で、我が国の1Mbps当たりのブロードバンド料金はOECD加盟諸国中で最も低廉となっている(図表1-1-3-3)。このように我が国のブロードバンド環境は、速度と料金を総合してみた場合、世界最高水準にあると言える 51 。 図表1-1-3-3 単位速度当たりブロードバンド料金(出典)2015 OECD Digital Economy Outlook エ クラウドの登場とWeb2.0 ブロードバンドの普及は、企業のICT利活用の在り方に質的な変化をもたらした。それまでは社内システムを構築し「所有」する形が主流であったが、社内システムを、ネットワークを介してサービスとして「利用」するという新たなトレンドが現れた。クラウドサービスがその代表である。クラウドサービスは、当初はアプリケーション部分を主に提供するSaaS(Software as a Service)として注目され、その後、アプリケーション実行用のプラットフォームまで提供するPaaS(Platform as a Service)や、ハードウェアやインフラとしての機能まで提供するIaaS(Infrastructure as a Service)が登場した。 個人のICT利活用の在り方もこの時期大きく変化した。ブログやSNSを利用することで、HTML等の特別な知識のない人でも簡単にインターネット上で情報を発信することが可能となった。また、インターネット上で写真や動画を共有できるアプリケーションの利用も急速に普及した。個人の情報発信と情報共有を容易にする様々な技術群が発達した結果、個人はオンラインサービスの受動的な消費者としての役割だけでなく、能動的なクリエイターとしての役割も担っているとの評価が一般化していった。 オ IP電話の発展 IP電話サービスは、DSL等のブロードバンドサービスの付加サービスとして広く提供されるようになり、その料金の安さによって、急激に加入数を伸ばしていった。その結果、2013年度には、「050型」と「0AB〜J型」の契約数が固定通信の契約数(東・西NTT加入電話、直収電話及びCATV電話の加入契約数の合計)を上回った。これにより音声通信についてもIP化が定着したと言える。 カ IPv6の推進 2011年、世界各地域にIPアドレスを分配するIANA(Internet Assigned Numbers Authority)は、IPv4アドレスの在庫をすべて払い出した。また、同年、アジア太平洋地域にIPアドレスを分配しているAPNIC(Asia Pacific Network Information Centre)においても、通常の申請により分配可能であるIPv4アドレスの在庫が枯渇した。また、我が国のIPアドレスを管理しているJPNIC(Japan Network Information Center)も通常の分配を終了した。この結果、我が国の通信事業者等においては、早期のIPv6導入が重要となった。 総務省は、円滑なIPv6導入方策に関する検討を行うとともに、関連団体と連携して官民共同の導入推進体制である「IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース」を構築し対応を進め、インターネット関連事業者向けアクションプランの策定、インターネット関連事業者に対する広報戦略の策定・実行、IPv6技術に関する教育プログラムの作成等を実施した。その結果、大手のインターネット接続事業者、アクセス回線事業者を中心に対応が進展し、2011年頃から本格的なIPv6サービスが開始された。 こうした状況を踏まえ、総務省では、「IPv6によるインターネットの利用高度化に関する研究会」において、IPv6対応に係る現状の課題とその対応策について検討を行い、2011年に「第三次報告書」を取りまとめた。また、同報告書において指摘された諸課題の進捗状況を検証するとともに、今後の対応に向けた基本的な考え方(IPv6インターネット接続サービスのデフォルト提供、早期の課題解決に向けた関係事業者間の協力等)について検討を行い、2012年に「第三次報告書プログレスレポート」を、2013年に「第二次プログレスレポート」取りまとめた。併せて、IPv6アドレスを付与したセンサー等が収集するエネルギー需給、気温、湿度等の環境情報をクラウドに集約することにより、高度な管理・制御への応用が期待される環境クラウドサービスについて、その提供を促進するため、「環境クラウドサービスの構築・運用ガイドライン」を取りまとめ、公表した。 45 NTTは2010年までに光3,000万回線という中期計画を発表(2004年)し、光化を推進した。光回線だけで3,000万回線には現在も届いていないが、ブロードバンド回線合計では、2008年度に3,000万回線を達成している。 46 http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban04_02000092.html 47 推計の都合上、ここでのブロードバンドは、3.9世代携帯電話(LTE)、BWA、FWA、CATVインターネット、DSL、FTTHのほか、衛星インターネット及び3.5世代携帯電話を含む。 48 超高速ブロードバンドとは、FTTHとLTEのほか、CATVインターネット、FWA、BWAのうち下り30Mbps以上のものを意味する。 49 ただし、中心部にブロードバンド基盤が整備されている自治体であっても、中心部から離れた地域(山間部等)は未整備となっているケースがある。また、海底光ファイバーが敷設されていない離島等では、LTEが整備されていても、中継回線がボトルネックになり超高速ブロードバンドが利用できないケースがある。 50 http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/broadband/broadbandstrategy/seibi.pdf  http://www.soumu.go.jp/main_content/000306018.pdf 51 ITUが2003年9月に公表したレポート(ITU Internet Report 2003: Birth of Broadband)によると、同年7月時点で、日本の単位速度(100kbps)当たりのブロードバンド料金は世界61か国中で最安となっており、我が国のブロードバンド環境が早くから高水準にあったことがわかる。