(3)インターネット普及の更なる拡大に向けて ア 低所得国でのインターネット普及に向けた課題 インターネット普及の最後のフロンティアはアフリカ諸国を中心とした低所得国であると考えられている。アフリカでのインターネットの接続は2014年で1億7,200万人であり、2005年からの10年間で約10倍に増加している。しかし、アフリカの人口は約11億人であることから、5人に1人程度しかインターネットにアクセスすることが出来ていない(図表2-3-2-15)。 低所得国でのインターネット普及への課題は通信料金の高さであり、通信料金をいかに低廉化するか(Affordabilityをいかに高めるか)が焦点となっている。2013年12月、A4AI(Alliance for Affordable Internet)は新興国でのインターネット接続の状況をまとめた「Affordability Report 2013」を発表した 21 。それによると1日2ドル以下で生活している人にとって、エントリーレベルのブロードバンドの費用は月収の40%にも相当することが明らかになった。ジンバブエではブロードバンドへのアクセス費用は月収の90%にも相当する 22 。インターネットにアクセスする料金がネックとなり世界で数十億人がインターネットにアクセスできない状況にいることが明らかになった(図表2-3-2-16)。 図表2-3-2-16 1日2ドルで生活する人にとってブロードバンド費用が月収に占める割合(出典)Affordability Report 2013を元に作成 イ インターネットアクセス拡大に向けた上位レイヤー企業の取組 このような状況を踏まえ、FacebookやGoogleといったグローバルな上位レイヤー企業が低所得国でのインターネットアクセス確立に向けた取組を活発化させている。これらの企業の積極的な取組の背景は、インターネット普及の最後のフロンティアである低所得国において、将来的な市場の成長も見越して、できるだけ早く人々にインターネット関連サービスの提供を始めたいとの各社の意図があるものと考えられる。 (ア)Facebookの取組:「Internet.org」 Facebookは2013年8月、全世界にインターネット環境をもたらすことを目指す団体「Internet.org」の設立を発表した 23 。インターネットに接続していない世界の約50億人の人々を対象にした試みである。Internet.orgの設立メンバーにはFacebookのほか、Samsung、 Ericsson、 MediaTek Inc.、Opera Software ASA、Nokia、Qualcommの6社が名を連ねている。 そして、Facebookは2014年7月31日、「Internet.org」の取り組みとして、Facebookを含む13のサービスをデータ課金なしで使えるモバイルアプリ「Internet.org」を発表し 24 、まずはアフリカのザンビア共和国で公開した。 「Internet.org」では、データ通信料が無料でFacebookやGoogle検索、Wikipediaなど13のサイトにアクセスが可能である。アプリは、Androidとフィーチャーフォン向けで、ザンビアの通信キャリアAirtelに加入するユーザーによって「Internet.org」のサイト(www.internet.org)、Android版Internet.orgアプリ、あるいはAndroid版Facebookアプリ経由でインストールできる。 FacebookのザッカーバーグCEOによると、アプリ提供開始より1年足らずで10億人が一連の基本サービスを使えるようになった 25 。 2015年5月現在、ザンビア、タンザニア、ケニア、ガーナ、マラウィのアフリカ5か国、中南米のコロンビア、グアテマラの2か国、アジアではインド、フィリピン、バングラデシュ、インドネシア、パキスタンの5か国の世界12か国で現地の通信事業者と提携して「Internet.org」アプリを提供している(図表2-3-2-17、図表2-3-2-18)。 図表2-3-2-17 Facebookの「Internet.org」での主要な取組(Facebook発表資料 26 及びフィリピンSMART社リリース 27 より作成) 図表2-3-2-18 Facebookの「Internet.org」(出典)Facebook提供資料 (イ)Googleの「Project Loon」 Googleは2013年6月、気球を利用したインターネット接続環境構築プロジェクト「Project Loon」を発表した 28 。同プロジェクトは、世界人口の3分の2が快適なインターネット環境を得られていない現状を改善することを目的としたものであり、廉価で高速なインターネット接続を世界中に提供することを目指している。 「Project Loon」は、旅客機の高度よりはるかに高い、地表から約20キロメートル離れた成層圏に気球を漂わせて、地上に向けて電波を発信し、現在の3G網の通信と同等もしくはそれ以上の速度のインターネットアクセスを提供するという構想である。南半球の偏西風に気球を乗せることで、アフリカ、南アジア、南米等の新興国が多い地域にインターネットアクセスを提供することが計画されている。Googleは2013年6月にニュージーランドのカンタベリー地方で、気球30個を使用し、ユーザー50人に対してインターネットアクセスを提供する実験を行ったのを皮切りに、世界各地で試行的な取組を行っている(図表2-3-2-19)。 図表2-3-2-19 Googleの「Project Loon」(出典)Google提供資料 21 A4AI(2013) 7th Dec 2013, “Affordability Report 2013 launched”  http://a4ai.org/affordability-report-2013-launched/  http://a4ai.org/wp-content/uploads/2014/01/Affordability-Report-2013_Final-2.pdf 22 “Affordability Report 2013” P8 23 Facebook(2013) 21st Aug, 2013, “Technology Leaders Launch Partnership to Make Internet Access Available to All”  http://newsroom.fb.com/news/2013/08/technology-leaders-launch-partnership-to-make-internet-access-available-to-all/ 24 Facebook(2014) 31st Jul 2014, “Introducing the Internet.org App”  http://newsroom.fb.com/news/2014/07/introducing-the-internet-org-app/ 25 マーク・ザッカーバーグCEOのFacebookへの投稿より(2015年5月28日)  https://www.facebook.com/zuck/posts/10102151420722421?pnref=story 26 Internet.org  https://internet.org/press 27 SMART(2015) 18th Mar 2015,” Facebook’s Internet.org app debuts in Southeast Asia with Smart’s Talk ‘N Text”  http://smart.com.ph/about/newsroom/press-releases/2015/03/18/facebook-s-internet.org-app-debuts-in-southeast-asia-with-smart-s-talk-n-text 28 Google(2013) 14th Jun 2013, “Introducing Project Loon: Balloon-powered Internet access”  http://googleblog.blogspot.jp/2013/06/introducing-project-loon.html 29 「火星の人」巻末文「ハードSFの新星」(中村融)