(5)総括 ICTを利活用した事業を実施している地方公共団体は各分野で増加傾向にあり、多分野でのICT利活用が進展している。今後、地域の抱える様々な課題を解決していくためには、多様化するニーズや変化する環境に対応しつつICT利活用を進めていくことが必要であると考えられる。その際に、地方公共団体ではICT利活用人材やノウハウ不足をどのように補っていくかが1つの課題である。 第3章 まとめ 以上、ICTが地域活性化や「地方創生」に果たしうる役割を、様々な角度から検証してきた。 第1節でみたように、地域の住民を対象にサービスを提供する企業や地域資源に依存した企業はそれ以外の企業に比べて全般にICT利活用が遅れているが、これは伸び代が大きいということでもあり、一部で見られる先進的取組を参考にしてICT利活用に取り組めば、生産性の向上ひいては地域における「雇用の質」の改善につながるだろう。 第2節でみたように、一般に、企業におけるICT利活用の進展には雇用を減らす側面と増やす側面の双方があるが、中長期的には生産性の低い雇用を代替し生産性の高い雇用を創造することで経済全体の生産性を高めていく効果がある。地域におけるICT利活用の進展は、この点でも、「雇用の質」の改善に貢献すると考えられる。 さらに、地域経済活性化のためには、「雇用の質」の改善を通じた定住人口の回復・増加に加えて、観光客をはじめとする交流人口の増加を図ることが有効である。この点第3節でみたように、ICTは地域と地域外との情報の交流、モノの交流を活発化させ、ヒトの交流を増加させる。交流人口の増加は、定住人口回復のきっかけともなるだろう。 地方創生に資する「地域情報化大賞」 現在、全国各地でICTを利活用して地域の再生・創造を図る取組が行われているところであるが、総務省では、地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会の創生に寄与するため、地域課題解決におけるICT利活用を普及促進していくことを目的に、総務省は、平成26年度に初めて地方創生に資する「地域情報化大賞」を実施した。 「地域情報化大賞」表彰事例として、平成26年10月31日から11月28日までの間、自治体や地域団体、民間企業等による地域情報化に関する事例の募集を行った。 その結果、全体で94件の応募があり、有識者による審査会を経て、平成27年1月23日に「地域情報化大賞」表彰事例が決定され、同年3月6日に表彰式を行った同賞の概要及び表彰事例は以下のとおり。 ●募集対象 自治体やNPO、地域団体、民間企業等が、地域の自律的な創意・工夫に基づいて、ICTを利活用し、地域課題の解決に取り組んでいる先進的な事例 ●募集部門 ・地域活性化部門(公共部門):自治体やNPO等が、ICTを利活用して行う地域活性化に資する公共的な取組事例 ・地域サービス創生部門(民間部門):民間企業等が、ICTを利活用して行う新たな地域サービスやアプリの創出を通じた地域経済の好循環に資する取組事例 ●表彰の種類 ・大賞(最も優れた事例)、部門賞(各部門で特に優れた事例)ほか ●表彰事例 20 ■ 大賞/総務大臣賞 ○「ポケットカルテ」及び地域共通診察券「すこやか安心カード」(NPO法人 日本サスティナブル・コミュニティ・センター(京都府京都市)) ○フォレスタイル 森の恵みに満ちた暮らし方提案ウェブサイト(岐阜県東白川村) ■ 部門賞 ・地域活性化部門 ○日本の田舎をステキに変える「サテライトオフィスプロジェクト」 等(NPO法人 グリーンバレー(徳島県神山町)) ・地域サービス創生部門 ○ICTを用いた広島県呉市における「データヘルス」の取り組み支援 (株式会社データホライゾン(広島県広島市)) ■ 特別賞 ○センサーネットワークによる鳥獣被害対策 (長野県塩尻市) ○地域の埋もれた魅力を浮上させる青森県観光モデル (NPO法人 地域情報化モデル研究会(青森県青森市)) ○石巻市におけるGIS,AR技術を利用した「防災まちあるき」 (一般社団法人みらいサポート石巻(宮城県石巻市)) ■ 奨励賞 ○ICT利活用による次世代型水産業の実現 (愛媛県愛南町) ○教育の情報化を基盤とした誇りと夢と元気を生み出す人づくり町づくり (熊本県高森町教育委員会) ○ちばレポ 市民と行政をつなぐ新しいコミュニケーションツール (千葉県千葉市) ○WorkSmart@豊後高田市 (株式会社デジタルブティック (東京都港区)、大分県豊後高田市) ○住民ディレクター発!NHK大河ドラマ追走番組プロジェクト(東峰テレビ(福岡県東峰村)、一般社団法人八百万人(東京都杉並区)) ○e-MATCHによる奈良県の救急医療体制改善への支援 (バーズ・ビュー株式会社(東京都文京区)) 〈表彰事例の例〉 ○「ポケットカルテ」及び地域共通診察券「すこやか安心カード」(NPO法人日本サスティナブル・コミュニティ・センター(京都府京都市)) 医療機関毎に管理されている住民の医療履歴を自ら時系列に集約管理できる仕組み作りと、医療機関数の減少や負担増という地域課題に対処するため、地域共通診察券発行や健康医療福祉履歴管理・医療圏リソース管理を統合的に提供。その結果、「ポケットカルテ」の登録者数は約4万5千名に拡大(H26年10月末)する等、地域の医療資源を一つの仮想巨大医療機関とみなして有効活用し、安心・安全な地域医療提供体制の確立に寄与している(図表1)。 大幅に減少した村内全工務店の木造建築受注数を改善するため、村役場が主体となりユニークな専用ウェブサイトを通して“東白川の家づくり”を提案する仕組みを6次産業化に展開して構築。その結果、官民協働で運営している信用度の高さと自由な間取り設計、建築にかかる費用が明瞭となるシステムを特徴として顧客を拡大、受注量の回復(事業開始時から85%増加)や村民の雇用確保・収入安定に貢献している(図表2)。 ○日本の田舎をステキに変える「サテライトオフィスプロジェクト」 等(NPO法人 グリーンバレー(徳島県神山町)) 町内全域に敷設されている「高速ブロードバンド環境」を活用して、「創造的過疎」を提唱し、「人」に焦点を当てた魅力的な人材誘致や、集落内の古民家や遊休施設を首都圏のICT企業等に貸し出す「サテライトオフィス」の誘致を推進。その結果、11社のICT企業等の誘致、29名の地元雇用の創出、32名の移住に成功して人口転入超過を達成する等、新たな働き方や地域の活性化を実現している(図表3)。 ○ICTを用いた広島県呉市における「データヘルス」の取り組み支援 (株式会社データホライゾン(広島県広島市)) レセプトデータを独創的なICT技術で分析し、分析結果をもとにした医療関連情報サービスを提供することで、呉市の保健事業をICTの面から支援。この「データヘルス」の取組は、「医療費適正化」や「被保険者の健康度向上」といったアウトカム(成果)だけでなく、「国保健全運営」や看護師等の「雇用創出」、「健康寿命延伸」による「生産年齢人口の確保」といった地方創生への波及効果を生み出している(図表4)。 20 表彰事例の概要:http://www.soumu.go.jp/main_content/000336052.pdf ICTを活用した街づくり ●ICT街づくり推進事業 我が国は、東日本大震災の経験を踏まえた防災・減災や少子高齢化対策、雇用の創出等、各地域において様々な課題を抱えており、分野横断的な横串機能を有するICTを活用し、こうした課題を解決するとともに、自立的・持続的な地域活性化を推進していくことが期待されている。 このため、総務省では「ICT街づくり推進会議」(座長:住友商事(株)岡 素之 相談役) 21 における検討を踏まえ、平成24年度より、「ICT街づくり推進事業」として、地域の自主的な提案に基づくモデル事業(委託事業)を全国27ヶ所において実施し、農業(鳥獣被害対策)、林業、防災等をはじめとする分野において成功事例を構築してきた(図表1)。 成功事例の一つである「センサーネットワークによる鳥獣被害対策」(長野県塩尻市)(図表2)では、かつて水田の耕作面積の8割以上がイノシシをはじめとする有害鳥獣による被害を受けていた地域を対象として、水田周辺に獣検知センサーや罠捕獲センサーを設置し、獣検知・罠捕獲情報を地元の農家や猟友会にメールで配信する仕組みを構築することで、効率的・効果的な追い払いや捕獲が可能となり、2年間で被害が0となり、稲作収入の増大が見込めるようになった。 また、「クラウドとロボットセンサーを活用した森林資源の情報共有等」(岡山県真庭市)(図表3)では、地域の主要産業である林業において、地番現況図を共通IDとした森林林業クラウドを導入し、行政機関と森林組合等との情報共有を促進することで、従来は2人がかりで終日(8時間程度)要していた作業を簡易な画面上の操作(1分程度)で完了させることが可能となり、業務の大幅な効率化を実現した。 ●ICTまち・ひと・しごと創生推進事業 今後は、前述の「ICT街づくり推進事業」における成功事例の自立的・持続的な事業運営(事業化)や普及展開を推進することとしており、平成26年度補正予算において「ICTまち・ひと・しごと創生推進事業」として、成功事例の横展開に取り組む自治体や民間事業者等の初期投資・継続的な体制整備等にかかる経費(機器購入、システム構築及び体制整備に向けた協議会開催等に係る費用)の一部の補助を実施している。 21 ICT街づくり推進会議:http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ict_machidukuri/index.html