(2)現在起きているICTの特徴的変化 前章までの検討を踏まえた場合、現在起きているICTの特徴的な変化は、大きく3点に整理することができる。 まず、端末分野では、インターネットにつながるモノ(IoT端末)の数の急速な拡大が生じている。第5章第4節でみたように、センサーの小型化・低廉化・高機能化・省電力化等を背景として、あらゆるモノがネットワークにつながるIoT時代が本格的に到来しつつある。IoTで想定されている接続されるモノは、パソコンやスマートフォン等の従来型の通信機器だけでなく、車や家電、産業用設備など、従来通信機能を備えていなかった機器や、様々な日用品にまで拡大している。人を介さずモノとモノが直接通信するM2M通信が一般化する結果、IoT端末の数は、これまでのICT端末と異なり、「人口1人当たり何台」といったレベルをはるかに超えて増大していくと予想されている(図表6-1-1-4)。 次に、ネットワーク分野では、データ流通量の爆発的な増加が生じている。IoT時代には、人間を含めた現実社会に存在するあらゆるモノの形状や状態、動作がセンサーにより自動的にデジタルデータ化され、ネットワークに流入するようになる。センサーを通じて取得される情報は、網羅性と多様性を高めつつあるとともに、取得頻度のリアルタイム化も進みつつある。その結果、ネットワークを流通するデータ量は、人がマニュアルでデータを入力していた時代とは比べ物にならないほど増大すると予想されている(図表6-1-1-5)。 図表6-1-1-5 国際的なデジタルデータ量の増加予測(出典)IDC’s Digital Universe, 「The Digital Universe of Opportunities:Rich Data and the Increasing Value of the Internet of Things」Sponsored by EMC(2014年4月)等により作成 また、かつて分析可能なデータは整理された構造化データに限られていたが、データ解析技術の進展により、一見無秩序な非構造データから法則性を抽出することが可能となった。その結果、従来は見過ごされていた様々なデータの潜在的価値が発見され、データの取得・蓄積に要するコストの低下とも相まって、企業がデータを収集するインセンティブが著しく高まっている。このことも、データ流通量が急速に拡大する要因となっている。 最後に、コンピューティング分野では、アルゴリズムの高度化が顕著である。特に、コンピュータによって人間の思考と同じ機能を再現することを目指す人工知能(AI: Artificial Intelligence)の分野では、2006年にトロント大学のジェフリー・ヒントン(Geoffrey E. Hinton)氏らの研究グループが、脳科学の仮説をニューラル・ネットワーク 4 に応用したディープ・ラーニング(深層学習) 5 という画期的手法を提案して以降、応用への期待が急速に高まっている(図表6-1-1-6)。 図表6-1-1-6 ディープ・ラーニング(深層学習)のイメージ(出典)総務省「ICT先端技術に関する調査研究」(平成26年) AIの具体的な研究分野としては、人間が入力したゆらぎのある文章を理解する「自然言語解析」、人間が話しかけた声を解析しその内容を判別する「音声解析技術」、画像等から何が描かれているか判別する「画像解析技術」等があり、それぞれ既に、自動翻訳機能や音声操作機能、顔認識技術等として実用化が始まっている。また、近年注目が高まっているロボットや自動走行車、ドローン(無人航空機)等は、AIが判断した結果を外界に対して作用させるためのアクチュエーター(駆動装置)としての機能を担っている 6 。 4 人間は学習を行うことによって、脳の神経細胞(ニューロン)のネットワークを絶えず変化させ学習した内容を記憶したり応用したりできるようになるが、その概念をAIに組み込み、データの特性に合うように計算上の人工ニューロン(ノード)のネットワークを変化させ、計算を最適化していく手法。 5 何層にも重なるニューラル・ネットワークを用い、データの集合から段階的に特徴を抽出することで、最終的にデータ全体を定義できるような特徴を効率よく探し出す手法。 6 ロボットや自動走行車、ドローン(無人航空機)等は、@外界の状況を観測するセンサー機能、AAIにより判断するデータ処理機能、B外部への作用を行うアクチュエーター機能、Cロボット間やクラウド等の情報システムと通信を行うためのネットワーク機能が一体化したものと理解することができる。