(2)中国における通信サービス 中国の通信サービスは基礎通信サービスと付加価値通信サービスの2種類に分かれている。民間企業による付加価値通信サービス(コールセンターやオンライン・サービスなど)の提供は以前から許可されているのに対して、音声通話をはじめとする基礎通信サービス市場への参入は厳しく制限され、原則として、同サービスの提供は国有企業の中国移動、中国電信、中国聯通の3社に限られている。 基礎通信サービスのうち、特に移動体通信が著しい成長を見せており、2014年末における移動電話の加入者数は既に12億8,000万を超え、人口普及率では94.5%に達したが、年間伸び率は鈍化してきた。このように、今後の市場成長には数量の拡大だけではなく、よりきめ細かな消費者ニーズに対応することが不可欠となってきている。そのため、国務院(=内閣)の指示に従い、通信分野の監督機関である工業・情報化部は、小売料金設定の自由化や、民間資本による基礎通信サービス分野への参入条件の緩和といった規制の見直しに加え、FDD方式免許の付与や新産業の育成を通じた新サービスの推進などにも取組み、消費者の多様なパーソナルニーズへの対応を促そうとしている。 ア 小売料金設定の自由化 中国では、通信サービスの小売料金の設定方法について、2002年以降、プライスキャップ制の導入や携帯市内電話自主価格化のトライアルなど、緩和に向けての見直しが行われた。 2014年1月、国務院は「行政審査の廃止及び下部委譲に関する国務院の決定」を発出し、小売料金規制を撤廃するとした。これを受け、同年5月、工業・情報化部と国家発展改革委員会は「電信業務料金の市場価格の実施に関する通告」を公表し、固定電話や携帯電話、ショート・メッセージ、データ通信などすべての通信サービスの価格設定は市場原理に委ねられることになった。 イ ブロードバンド・アクセス網の開放 ブロードバンド・アクセス網の開放について、工業・情報化部は2014年12月、「ブロードバンド・アクセス市場の民間資本への開放に関する通告」を発表した。同通告では、 @民営企業がアクセス網サービスに必要なインフラを構築し、自社ブランドでユーザに対しブロードバンド・アクセス・サービスを提供することを奨励する A民営企業が資本提携やサービス代理、保守代理等の形式で基礎通信事業者と協力し、収益を共有することを奨励する Bインターネット・アクセス・サービス(ISP)経営許可証を有する民営企業が、基礎通信事業者からアクセス網の資源を借用し、自社ブランドでユーザにアクセス・サービスを提供することを奨励する とした三つの民営企業参入方式を採用している。 この中で、特に方式@については、「ブロードバンド・アクセス網開放試行方案」を規定した。試行都市として、初回は太原・瀋陽・ハルビン・上海・南京・杭州・寧波・アモイ・青島・鄭州・武漢・長沙・広州・深?・重慶・成都の16都市が採用され、期間は2015年3月からの3年とされている。 ウ FDD-LTE免許付与 工業・情報化部は2015年2月、中国電信と中国聯通に対してFDD-LTE免許を付与した。同部は2013年12月に中国移動を含む3社に対して、TD-LTE免許を付与しており、2014年末現在、TD-LTEはほぼすべての都市部と県レベル都市を連続的にカバーする一方、経済の進んでいる郷・鎮や農村をスポット的にカバーしている。基地局数は75万8,000に、ユーザ数は約1億にそれぞれ達し、業界予想を上回っている。 FDD-LTE免許は中国電信と中国聯通だけに対して付与した理由について、同部は、2014年から2社に56都市ずつのLTE混合網試験を実施させ、2社はネットワーク・カバーや相互通信、干渉解消等においてノウハウを積み上げてきており、混合網の商用化条件が整ったことを挙げている。また、混合網の構築の意義については、TD-LTE/FDD-LTE技術の優位性を総合的に生かし、TDD/FDDの周波数資源を十分に活用するとともに、LTE網として一つのコア・ネットワークとTD-LTE/FDD-LTEという二つの無線アクセス方式を含むことから、ネットワークの全体的な容量を最大限引き出すものであるとした。 エ クラウド・コンピューティング産業育成の支援策 政府は、クラウド・コンピューティングを推進するため、民間部門と連携し2013年11月に中国クラウド体系創新戦略連盟を設立した。また、2015年1月には国務院がクラウド・コンピューティング産業支援策を発表し、クラウド産業の革新的な発展を通じて、情報産業の新たな業態を育成することとし、2020年までに国際競争力を備えた基幹企業を育て上げるという目標を示した。 国務院がクラウドに的を絞った支援策を発表するのはこれが初めてであり、政府のクラウド産業支援の姿勢を明確に示したものといえる。金融・税制支援や投融資環境の整備、業界基準の体系化などを進めることも明示しており、同産業の急速な拡大が期待されている。