(1)消費者余剰 ア 事例 (ア)音楽・動画視聴サービス 音楽・動画視聴サービスは、インターネット経由で音楽・動画を視聴できるサービスである。無料サービスと有料サービスがあり、有料サービスにおいては毎月一定の金額で音楽が聴き放題になる音楽のストリーミング・サービスがある。「Sportify(スポティファイ)」はヨーロッパ12ヵ国とアメリカでサービスが展開されており、有料会員2,000万人、ユーザー数7,500万人(2015年6月時点)の世界最大手のサービスである。国内では、LINE「LINE MUSIC」、KDDI「うたパス」、Amazon「Prime Music」、Google「Google Play ミュージック」、AWA(サイバーエージェントとエイベックス・デジタルの共同出資会社)「AWA」等がサービスされている。 動画配信サービスでは、国内での利用者数は「YouTube」がPCからが1,923万、スマートフォンからが3,580万人(ニールセンが2015年9月に発表 5 )と、最も多い。音楽と同様に、定額制サービスが提供されており、NTTドコモ「dTV」、U-NEXT「U-NEXT」、Amazon「Amazonプライム・ビデオ」、HJホールディングス合同会社「Hule」、米NetFlix「Netflix」等がある。 (イ)電子書籍 電子書籍サービスは、インターネット経由で電子書籍をダウンロードし、デジタル化された書籍、出版物を閲覧できるサービスである。スマートフォンやタブレットユーザーの増加を背景に、広告宣伝などにより認知度が高まり、利用者数が増加している。Amazon「Amazon Kindle」、楽天「Kobo」、紀伊国屋書店「Kinoppy」、イーブックイニシアティブジャパン「eBookJapan」、BookLive「BookLive!」、2Dfacto「honto」LINE「LINE マンガ」等がある。 イ アンケート結果の分析 消費者余剰を定量的に把握する事例として、音楽・動画視聴サービスを取り上げ、アンケート調査を行った 6 。まず、現状の利用プランについて尋ねた(図表1-4-2-1)。有料ユーザーの割合は20代、30代がやや高くなったが、年代によって大きな違いはみられず2割程度となった。また、無料ユーザーについては有料化されても利用を続けるという無料ユーザー@と有料化されたら利用をやめるという無料ユーザーAに区別した。無料ユーザーAはどの年代でも7割程度となり有料・無料という利用プランからは年代による違いがみられなかった。 図表1-4-2-1 ユーザー属性(音楽・動画視聴サービス) (出典)GDPに現れないICTの社会的厚生への貢献に関する調査研究 無料ユーザー@に対して、有料化されても利用を続ける主な理由を尋ねた(図表1-4-2-2)。どの年代でも「自分の好みにあうコンテンツがあるから」の割合が最も高くなった。 図表1-4-2-2 無料ユーザー@の音楽・動画視聴サービス利用理由 (出典)GDPに現れないICTの社会的厚生への貢献に関する調査研究 無料ユーザーAに対して、どのようなサービス・機能であれば有料でも使いたいかを尋ねた(図表1-4-2-3)。どの年代も7割弱が「お金を払って利用することはない」と回答しているが、それ以外をみると「自分の好みにあうコンテンツがあるサービス」の割合が最も高く、次いで「実店舗に行くよりも少ない手間や費用で視聴できるサービス」となった。また「実店舗に行くよりも少ない手間や費用で視聴できるサービス」については50代、60代で回答割合がやや高くなった。 図表1-4-2-3 無料ユーザーAの音楽・動画視聴サービス利用理由 (出典)GDPに現れないICTの社会的厚生への貢献に関する調査研究 最後に、音楽・動画視聴サービスを利用することによって消費者がどの程度余剰を感じているのかを推計した(図表1-4-2-4)。アンケート調査で支払意思額と実際に支払っている金額を尋ね、下図のようにその差を消費者余剰として求めた。20代の場合では実際に支払っている金額の平均値は約146円/月であり、これを元に消費者余剰を推計すると1人あたりおよそ204円/月という結果となった。 図表1-4-2-4 1人あたり消費者余剰の推計例(音楽・動画視聴サービス、1ヶ月あたり、20代) (出典)GDPに現れないICTの社会的厚生への貢献に関する調査研究 各年代で1人あたりの消費者余剰を推計すると、利用者は1ヶ月あたり150円〜200円程度の余剰を得ている。年代別では20代が最も大きく、30代及び40代が小さく、以降は年代が高くなるにつれて余剰額も大きくなる傾向となった。 図表1-4-2-5 1人あたり消費者余剰(音楽・動画視聴サービス、1ヶ月あたり、年代別) (出典)GDPに現れないICTの社会的厚生への貢献に関する調査研究 1人あたり消費者余剰額(1ヶ月あたり)を用いて、我が国における年間の消費者余剰額を推計した(図表1-4-2-6)。具体的には、 ネット利用人口 7 ×「音楽・動画視聴サービス」利用率×1人あたり消費者余剰額(1ヶ月あたり)×12 によって年間の消費者余剰額を推計すると、年間およそ1,100億円という結果となった。 図表1-4-2-6 年間総消費者余剰(音楽・動画視聴サービス) (出典)GDPに現れないICTの社会的厚生への貢献に関する調査研究 5 http://www.netratings.co.jp/news_release/2015/09/Newsrelease20150929.html 6 調査仕様の詳細は、巻末の付注2参照。 7 「人口推計」(総務省統計局)平成28年3月1日現在(概算値)における年齢(5歳階級)、男女別人口に平成26年通信利用動向調査における男女別年齢階層別インターネットの利用状況(個人)を乗じた値をネット利用人口とした。