4 防犯分野 (1)警備におけるICT活用とボランティア連携 ア サービス概要・背景 綜合警備保障株式会社(ALSOK)では、ウェアラブルカメラやスマートフォン等を警備員に装備させる「ALSOKゾーンセキュリティマネジメントR」と呼ばれるサービスや、ウェアラブルカメラを装着した警備員がボランティアスタッフと連携して警備にあたる「ボランティア連携警備」の仕組みを検証している。 図表3-3-4-1 ウェアラブルカメラを装備した警備員 (出典)ALSOK提供資料 背景には、人口減少・労働力不足、テロ対策、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催がある。 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会によると、東京オリンピックでは広範囲に点在する複数会場を警備するために、14,000人もの警備員が必要とされているが、警備業界では人手不足が課題となっている。そこで、少人数の警備員で質の高い警備を提供する仕組みを構築することが期待されている。 イ ICT利用の例・特徴 <映像の収集・分析> ウェアラブルカメラから得られた映像は、監視カメラ、警備ロボット、警備ドローン等からの映像や信号と共にコントロールセンターで一元的に収集される。コントロールセンターでは情報を解析し、解析結果に基づいて、警備員への指示や、警備機器の制御を行う。 映像の分析には人工知能(AI)の一種であるディープラーニング技術が活用されており、不審物を置き去りにする様子や急病でうずくまる様子等の異常をプログラムが検知し、付近の警備員を駆け付けさせることができる。さらに、不審人物や悪意を持っている人物に特有の行動パターンを検出し、犯罪(万引き・置き引き等)を未然に防ぐことが期待される。これは所謂「ベテラン警備員の第六感」をプログラムによって再現していると言える。ディープラーニングの技術が進展し、映像認識の精度が高まったことで、高度なサービスを提供できるようになってきている。 図表3-3-4-2 ウェアラブルカメラ等からの映像の収集・分析 (出典)ALSOK提供資料 <ウェアラブルカメラ導入の工夫点> ウェアラブルカメラの効果的な導入のために、同社はいくつかの工夫を行っている。例えば、ウェアラブルカメラの装着箇所は警備の形式によって使い分けており、特定の場所にとどまって警備する場合には、警備員の頭に装着するが、移動しながら警備を行う場合は、歩行による映像のブレを抑えるため、体幹に近い肩付近に装着する。また、オフィスでウェアラブルカメラを装着する場合には、突然装着し始めると周囲の人々に不安感を与えてしまうため、事前にビルの管理会社を通してウェアラブルカメラを着用する旨を周知する、必要以上の撮影は控える等、運用に気を使っている。 <ボランティアスタッフとの連携> 同社では、警備員の人手不足をカバーするために、警備員とボランティアスタッフが連携して警備を行う仕組みを検証している。ボランティアスタッフは自身の保有するスマートフォンに専用アプリをインストールし、異常を発見した際に、状況を画像と共に報告する。ボランティアスタッフからの第一報を受けて警備員が出動し、状況に対処する仕組みである。同社は、ボランティアスタッフのセキュリティ意識を向上させ情報の集約を行うことで、人手不足の課題を補うことに加えて、警備コストが削減されるメリットもあるとしている。このようなサービスが可能となった背景には、スマートフォンが広く普及し、付属のカメラから画像を撮影し、簡単に共有できるようになった点が挙げられる。同社は、今後もボランティアスタッフとの連携を強化していく方針を掲げており、特に、大学において、危機管理学部が新設され、セキュリティに対する意識が高まる動きがあるため、大学や学生ボランティアとの連携を強化していく予定である。 ウ 今後の展開〜データの利活用とつながりによる価値創出の可能性 同社は、警備と同様の仕組みを救急医療に応用する取組も検討している(図表3-3-4-3)。情報のコントロールセンターで医師に待機してもらい、警備員のウェアラブルカメラの映像やボランティアスタッフから報告された画像から、外傷、顔色等を確認し、処置の指示を仰ぐ仕組みである。心肺停止から対処が1分遅れる毎に救命率が7〜10%低下する 15 ことが広く知られているが、早期の処置ができれば救命率の向上に寄与すると考えられる。 図表3-3-4-3 情報のコントロールセンターで映像を確認する医師 (出典)ALSOK提供資料 15 日本ACLS協会(http://www.acls.jp/ipn_bls_data.php)