(4)ドイツ 第3次メルケル政権は、経済と社会のデジタル化を推進することで、ドイツが世界経済をけん引することを目指しており、そうした中で、包括的IT戦略である「デジタル・アジェンダ2014-2017」が策定された。ドイツのICT産業は、伝統的な製造業に次ぐ重要産業として成長が期待されており、またICTは産業界全体のデジタル変革を強力に支援するものと考えらえている。 デジタル・アジェンダと国内ITサミット(後述)は連携しており、デジタル・アジェンダで示された具体的な行動計画の成果や課題などが、国内ITサミットで広く議論された。また、同サミットは、国家プロジェクトとして産学官が総力を挙げて取り組んでいる「インダストリー4.0」を国内外にアピールする重要な機会となっている。 ア デジタル・アジェンダ2014-2017 デジタル・アジェンダ2014-2017は、2014年から2017年までの4年間における、ドイツのIT戦略の指針であり、連邦経済エネルギー省(BMWi)、連邦交通デジタルインフラ省(BMVI)、連邦内務省(BMI)により策定された。同アジェンダは、ドイツがデジタル化の促進によって生まれる技術革新を積極的に導入することにより、欧州におけるデジタル最先進国となることを目指している。 同アジェンダにおいて、「経済成長と雇用の拡大のために、ドイツの強みである製造業の技術革新を推進」、「全国的な高速ネットワークの整備と、すべての世代におけるメディア・リテラシーの向上」、「ネット上の信頼性の改善と情報セキュリティの強化」という3本の柱が設定され、その実現に必要な重点項目として、@デジタルインフラ、Aデジタル経済と雇用、B革新的な国家、C社会におけるデジタル環境の形成、D教育、科学、研究、文化とメディア、E社会と経済のセキュリティ、防御と信頼性、F欧州及び国際的な次元でのデジタル・アジェンダ、が挙げられた。 この中で、「@デジタルインフラ」では、2018年に少なくとも下り50Mbpsの高速ブロードバンド網による人口カバー率100%の達成を目標としているほか、700MHz帯オークションによるモバイル・ブロードバンドの展開促進及び売上げのブロードバンド整備への投資、2×30MHz幅の移動業務への割当、自動走行車の推進、公衆無線LANの利用促進など、ブロードバンド網の整備を進める方針が示されている。また、「Aデジタル経済と雇用」については、産業拠点としてのドイツの優位性を確固たるものとすべく、製造技術を情報通信技術と融合させ、工場のスマート化を進めようとする「インダストリー4.0」が中心に据えられている。 イ 国内ITサミット ドイツ連邦政府は2015年11月、ベルリンで「第9回国内ITサミット」を開催した。同サミットは、ドイツのIT技術を世界最高水準にすることを目的に、メルケル首相主導のもと2006年から年1回開催されている。今回のテーマは、デジタル化された未来をデザインすることが、将来のドイツ経済の競争力を左右する重要なファクターであるとの認識の下、「新たな起業家の誕生、インダストリー4.0と労働の未来を創造、インフラのイノベーションの加速、デジタルコンテンツの価値向上、行政のデジタル化、デジタルテクノロジーにおけるセキュリティ及び信頼性の改善」等が含まれており、特に注目されたのがインダストリー4.0であった。 インダストリー4.0については、ドイツ国内の産官学が連携して、国際標準化活動から技術研究開発、ITセキュリティとプライバシー保護、未来の労働の在り方まで、幅広い議論を行っている。 また、5G技術も主要テーマの1つに挙げられており、メルケル首相は、5G研究競争に乗り遅れてはならないとし、研究成果を迅速に事業化に結び付ける必要性を強調した。5G技術は2020年の市場導入が見込まれており、インダストリー4.0やヘルスケア、スマートグリッド、自動走行車を実現するためのキーテクノロジーとして考えられている。 特に自動走行車は、交通事故の減少や渋滞の緩和・解消、CO2排出量削減などが期待されており、5Gの通信技術が車車間通信や路車間通信に活用されようとしている。 今回のサミットの内容は、「ベルリン宣言」 32 としてまとめられており、同宣言は、@デジタル変革及びインダストリー4.0、Aデジタルネットワーク及びモビリティ、Bデジタル革新及び現代的な規制の枠組み、Cデジタル主権−安全・保護・信頼、Dデジタル国家及びデジタル行政、E展望、の6章で構成されている。 ウ ブロードバンド戦略 政府は、2018年までにドイツ全土で少なくとも50Mbps以上のブロードバンドを整備する目標を掲げており、これにより地域間の情報格差解消を目指している。このため、連邦運輸デジタルインフラストラクチャー省(BMVI)では、「ブロードバンド事務局」 33 を設置して、ブロードバンド敷設を必要としている自治体に対して、事業化に向けての技術的・財政的支援を行っている。 都市部では、ドイツテレコムなどの大手通信事業者が光ファイバやLTEセクターへの投資を増加させていることにより、ブロードバンド展開が急速に進展している一方で、地方の過疎地などでブロードバンド展開の遅れが顕著となっている。BMVIが発表したブロードバンド整備状況 34 によると、2015年半ばにドイツ全世帯における50Mbps以上のブロードバンド利用可能世帯の割合は68.7%に達しているが、地方での割合は26.1%(都市部では85.3%)にとどまっており、こうした地域間の情報格差を解消するため、BMVIによる26億EUR規模のブロードバンド助成プログラムが、2015年10月ドイツ内閣に承認された。 32 http://www.bmwi.de/BMWi/Redaktion/PDF/IT-Gipfel/it-gipfel-2015-berliner-erklaerung,property=pdf,bereich=bmwi2012,sprache=de,rwb=true.pdf 33 http://www.breitbandbuero.de/ 34 http://www.zukunft-breitband.de/SharedDocs/DE/Anlage/Digitales/breitband-verfuegbarkeit-mitte-2015.pdf?_blob=publicationFile