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第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第4節 広がるICT利活用の可能性

(2)我が国のICTインフラ輸出

総務省では前述のようにICT分野の海外展開を重要施策と位置づけ、官民一体となった取組を積極的に実施している。ここではその具体的な取組内容について、日本方式の地デジの海外展開、JICTによる支援、実証事業等を中心とした海外展開の事例を紹介する。

ア 地デジを核としたICTインフラの海外展開

2006年にブラジルで日本方式の地デジが海外で初めて採用されて以来、官民連携による働きかけを進めた結果、日本方式の地デジは2017年3月現在、19カ国(日本含む)で採用されている17

政府による2017年5月の「インフラシステム輸出戦略(平成29年度改定版)」では、「2016年に日本方式の地デジ(ISDB−T)を採用した国々に対して、引き続き地デジを核として日本で培われたICT・サービス(防災ICT、光ファイバ等)の国際的な普及に向けた啓発・協力等の活動を民間企業等と連携して重点的に実施」とされており、日本方式の地デジを導入した国々との協力関係を生かして、社会的課題に資するICT利活用の海外展開を官民一体となって進めている。

(ア)地デジ×道路交通情報配信システム:フィリピン

フィリピンは2013年11月に日本方式の地デジを採用した。2016年10月、高市総務大臣は総務省とフィリピン大統領府広報部との間でICT分野における協力に係る覚書に署名した18図表4-4-2-5)。覚書では、フィリピン共和国の国営放送における今後のデジタル放送の移行促進や緊急警報システム(EWBS)の普及のほか、地上デジタル放送を活用した道路交通情報配信システムの開発に関する協力を推進していくこととされている。フィリピンでは、都市部での交通渋滞が年々激化しており、最新の渋滞状況を把握できるICTシステムの利用に対する強いニーズを有している。日本方式の地デジには、情報を広範囲に伝達するデータ放送機能があり、データ放送を活用した道路交通情報配信システムの開発について、日本・フィリピンで協力して行っていくものとしている19

図表4-4-2-5 総務省とフィリピン共和国大統領府広報部との間の覚書の署名
(イ)地デジ×広域防災システム:ペルー

ペルーは2009年4月に、ブラジルに次ぐ世界で2番目の国として日本方式の地デジを採用した。ペルーでは、日本方式の地デジのメリットの一つである緊急警報放送(EWBS:Emergency Warning Broadcast System)の機能を備えた広域防災システムを実用化した。

ペルーは、我が国と同様、自然災害の多い国であり、近年では2001年にはモーメントマグニチュード8.4、2007年にモーメントマグニチュード8.0の地震が発生し、大きな被害が生じている。日本方式の地デジを採用後、JICA専門家派遣等の支援により総務省とペルー運輸・通信省との間では放送分野における継続的な協力関係が構築され20、EWBSの機能を備えた広域防災システムを実用化した。日本方式の地デジの放送送信設備を防災拠点7か所に整備することで、災害に関する情報伝達能力を強化し、人的被害の軽減を図るものである。EWBSを備えた広域防災システムの実用化は、日本方式の地デジ採用国のうち、日本を除きペルーが世界初となっており、日本方式の地デジを採用する近隣諸国への同システムの展開が期待される2122

イ JICTを活用したICTインフラの海外展開支援

株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)は、株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構法に基づいて、2015年11月25日に設立された通信・放送・郵便分野の官民ファンドであり、我が国の事業者に蓄積された知識、技術及び経験を活用して海外において通信・放送・郵便事業を行う者等に対し資金供給その他の支援を行うことを目的としている。JICTは、2017年1月に光海底ケーブル事業23、2017年3月にMVNO事業24に対する支援をそれぞれ決定しており、総務省では、引き続きJICTと連携して、我が国事業者によるICTインフラの海外展開を積極的に支援していくこととしている。

ウ 実証事業、人材育成支援等によるICTインフラ等の海外展開事例

官民協働による日本方式の地デジの海外展開、およびJICTを活用したICTインフラの海外展開支援の取組以外にも、各国における実証事業や、人材育成支援等を通じた海外展開が行われている。

(ア)ワンセグ放送を利用した防災システム:インドネシア

インドネシアにおいて、コミュニティワンセグを活用した防災情報提供に関する実証実験を日立製作所グループが実施し、デジタルディバイド解消に有用であることを確認した。本成果をもとに、総務省は同国での本格導入・事業化に向けた取組を積極的に支援している。

(イ)準天頂衛星システムを利用した精密農業:オーストラリア

日立製作所、日立造船、ヤンマーは、オーストラリアで、準天頂衛星システムから配信される高度測位信号を利用した精密農業に関する取組を行った。従来のGPS衛星の測位信号を用いた場合の測位精度は約10〜20cmが限界であったが、準天頂衛星を利用した新しい測位方式により測位精度が6cmまで向上したため、自律走行型トラクターによる農作業をはじめとする高効率営農が可能になった。また、2016年度には、トラクターやドローンを使った農地・標高データの収集による3次元マップの生成と、ドローンの自動飛行による作物の植生情報の収集等、営農作業の効率化に向けて実証実験を実施している25

(ウ)モバイルと固定通信サービスにおける高品質なサービス提供:ミャンマー

MPT(ミャンマー国営郵便・電気通信事業体)は、KDDIと住友商事によって設立された合弁企業と共同で移動体通信事業を展開している。官民連携による通信インフラの整備や人材育成支援を通して、KDDIと住友商事は、モバイルと固定通信サービスにおいて世界最高水準の品質を誇る「日本品質」のサービスを提供する26。2016年5月にはMPTの移動電話の累計加入者数が2,000万に達している。

(エ)放送分野、ICT分野における人材等の協力:マレーシア

2017年1月、総務省とマレーシア政府の間での情報通信分野の協力に関する覚書の署名が行われた(図表4-4-2-6)。覚書では日本とマレーシア間の外交関係樹立60周年となる2017年において両国間の関係をさらに強化する観点から、放送分野とICT分野(防災ICT、サイバーセキュリティ、モバイル決済システム、5G、IoTを含む)に関する両国間の関係を一層推進していくことを確認した。

図表4-4-2-6 総務省とマレーシア通信マルチメディア省との間の覚書の署名

日本とマレーシア間の国際協力は様々な分野で行われており、例えば放送分野においては、総務省による「放送コンテンツ海外展開総合支援事業」27の一環としてマレーシアのテレビ局と日本のテレビ局により共同でテレビドラマが制作、マレーシア国内で放送された。

また、ICT分野に関する協力として、2017年1月に日本電気株式会社(NEC)による総務省事業の一環として、マレーシアの政府関連機関の職員を対象にした「実践的サイバー防御演習」28が行われた。本演習にはマレーシアの通信マルチメディア省の関連機関である通信マルチメディア委員会、及び科学技術革新省の関連機関であるサイバーセキュリティマレーシアの職員約20名が参加しており、増大するサイバー攻撃に対応する能力の向上を目的としている。

(オ)ICT分野、郵便分野における協力:ロシア

2016年12月、総務省とロシア連邦通信マスコミ省との間でICT分野及び郵便分野における協力に係る覚書の交換が行われた29。覚書では日本とロシアの間で政策・法制度の情報交換、インフラの開発、企業間協力、共同科学研究の促進、人材育成などについて協力及び交流を促進することを確認している(図表4-4-2-7)。

図表4-4-2-7 総務省とロシア連邦通信マスコミ省との覚書の交換
(出典)内閣官房内閣広報室提供

総務省とロシア連邦通信マスコミ省との政府間の覚書とは別に、日露両国の研究機関、企業等の間でも覚書等への署名が行われており、情報通信研究機構(NICT)とロシア無線通信研究所(NIIR)との間でのデジタル・ディバイドを解消する電波資源開拓先進技術(ホワイトスペース技術)等を含む情報通信分野に関する包括的な研究協力に対する合意や、日本郵便株式会社とロシア郵便との間での郵便事業における協力に係る覚書などが含まれている。



17 日本方式の地デジの普及については、第7章7節を参照

18 総務省「高市総務大臣とフィリピン共和国広報業務担当大臣との会談等の結果」(2016年10月26日)
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin08_02000068.html別ウィンドウで開きます

19 総務省「フィリピンにおける地デジ日本方式を活用した道路交通情報配信システム開発の協力に係る覚書の署名」(2017年1月12日)http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin08_02000074.html別ウィンドウで開きます

20 総務省「ペルー共和国とのICT分野における共同プロジェクトに関する覚書を締結」(2016年11月21日)
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin08_02000069.html別ウィンドウで開きます

21 JICA「日本の地デジ技術でペルーの災害リスクを軽減――海外で初、日本の緊急警報放送システムを導入」(2016年1月28日)
https://www.jica.go.jp/topics/2015/20160128_01.html別ウィンドウで開きます

22 在ペルー日本国大使館「「広域防災システム整備計画」供与式」
http://www.pe.emb-japan.go.jp/jp/Ceremonia_entrega_equipos_EWBS.html別ウィンドウで開きます

23 総務省「株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構の対象事業支援決定の認可(香港・グアム間光海底ケーブル事業)」(2017年1月20日)http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin01_02000213.html別ウィンドウで開きます

24 総務省「株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構の対象事業支援決定の認可(MVNO及び端末のパッケージ提供による海外モバイル通信事業)」(2017年3月28日)http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin01_02000220.html別ウィンドウで開きます

25 日立造船、日立製作所、ヤンマー「稲の立毛時期において自律走行型ロボットトラクターを用いた無人作業に成功 精密農業の実現へ オーストラリアにおける準天頂衛星システムの精密農業への利用可能性調査を受託」(2015年1月14日)
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2015/01/0114.html別ウィンドウで開きます

26 KDDI、住友商事「ミャンマー連邦共和国における通信事業への参入について」(2014年7月16日)
http://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2014/07/16/501.html別ウィンドウで開きます

27 「放送コンテンツ等海外展開支援事業」はASEAN地域において放送コンテンツの海外展開のため平成27年度補正予算で15事業が採択、実施された。マレーシア以外のASEAN地域での事業を含む各事業の概要については総務省「「放送コンテンツ等海外展開支援事業」事業成果報告会の開催」(2017年4月10日)http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu04_02000065.html別ウィンドウで開きますを参照のこと。

28 NEC「NEC、マレーシアの政府系機関に「実践的サイバー防御演習」を提供」http://jpn.nec.com/press/201703/20170307_02.html別ウィンドウで開きます

29 総務省「高市総務大臣とロシア連邦ニキフォロフ通信マスコミ大臣との会談等の結果」(2016年12月16日)
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin08_02000072.html別ウィンドウで開きます

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