(3)産業連関表からみる「産業の情報化」 先述のとおり、「産業の情報化」とは、様々な産業の生産活動の中で情報に関連した労働や中間投入が増加することであり、「産業の情報化」をさらに細分化すると、情報化投資、ICT投入額、企業内情報活動がある。まず、情報化投資について、産業連関表の付帯表の固定資本マトリックスを基に取り上げた後、ICT投入額について取引基本表を活用してみていく。企業内情報活動については、(4)にて雇用マトリックスを用い取り上げる。 なお、本節の以降の分析は、1995年、2000年、2005年、2011年の産業連関表を、2011年の統合大分類の産業分類(37部門)を基本に、付加価値額、ICT投入額(内訳を含めた4系列)、情報化投資額(内訳を含めた3系列、雇用(就業者数合計とその中の情報通信職と内訳の7系列)のそれぞれについて集計したものを用い、グラフ化して表すにあたっては紙面の制約に応じ一部業種を集約している 3 。産業分類に関しては統合大分類のものを基本的に用いているが、1995年、2000年、2005年、2011年の経年比較、また、取引基本表、固定資本マトリックス及び雇用マトリックス間の整合性を極力確保するため、産業分類を一部修正している 4 。 ア 情報化投資 固定資本マトリックスを用い、1995年から2011年の部門別の情報化投資をみていく。ここでは、情報化投資を、大きくソフトウェア 5 とハードウェア 6 に分け、業種別にグラフで示している(図表3-4-2-3)。 図表3-4-2-3 業種別情報化投資(ハードウェア・ソフトウェア別)の推移 (出典)総務省「IoT時代におけるICT経済の諸課題に関する調査研究」(平成29年)における集計データより作成 全体的に、ハードウェアが減少し、ソフトウェアが増加している傾向がみてとれる。 業種別にハードウェア投資の額をみると、対事業所サービスが2000年で2.9兆円、2011年で1.4兆円と大きい。これは、電子計算機・同関連機器賃貸業が含まれ、例えば法人用のパソコンのリースなどがあるためである。なお、ここでの投資額は名目値であり、1995年から2011年の間ICTのハードウェアは性能の指数関数的向上とともに価格が下落していった点には留意が必要である。 業種別にソフトウェア投資の額をみると、いずれの業種も1995年から2005年にかけて増加し、2005年から2011年にかけて停滞又は微減となっている 7 。情報通信以外にも、金融・保険、商業、電子・通信機器の規模が比較的大きく、これらの産業でソフトウェア投資が比較的活発に行われてきたことがうかがわれる。 金融においては、1995年から2000年頃にかけ、ポスト第三次オンライン化、インターネットホームトレード/ホームバンキングに関する投資や情報サービスの投入が行われるとともに、2000年頃以降も金融サービスの多様化に伴うソフトウェア投資が増加したことが、情報化投資額の伸びの内訳と考えられる。 商業は、大きく卸売業と小売業とに分かれるが、1995年頃から電子商取引システム(EDI、POS等)の導入が情報化投資額の伸びの背景と考えられる。 産業連関表は原則5年に1度の公表であり、2017年時点で利用可能であるのは2011年のデータである。産業連関表での直近のデータの利用には制約はあるが、近年の動きとして回線の大容量化・低廉化、自前でシステムを構築するよりも低コストであること、セキュリティ面、事業継続計画(BCP)の必要性等を背景にクラウドサービスの利用が進んでおり、情報化投資を広くとらえると、ハードウェアからソフトウェア、さらにサービス利用へという動きがあると考えられる 8 (図表3-4-2-4)。 図表3-4-2-4 クラウドサービスの利用状況 (出典)総務省「通信利用動向調査」 イ ICT投入 ここまで情報化投資についてみてきたが、次に費用としてのICT投入額の推移をみていく。ここではICT投入額を電気通信投入額、情報サービス投入額、インターネット附随サービス投入額と定義し 9 、1995年〜2011年までの産業連関表を基に業種別にその推移をみる。 業種別のグラフを基に、1995年からのICT投入額をみると、情報通信業の他にも、商業、金融・保険、対事業所サービスにてICT投入額が増加している(図表3-4-2-5)。 図表3-4-2-5 業種別のICT投入額推移 (出典)総務省「IoT時代におけるICT経済の諸課題に関する調査研究」(平成29年)における集計データより作成 ICT投入額を、1995年から2011年まで電気通信、情報サービス、インターネット附随サービスの類型別にみると、電気通信投入額が2000年から減少している一方、ソフトウェア、情報処理などの情報サービスの投入額が増えていることがわかる(図表3-4-2-6)。 図表3-4-2-6 ICT投入額の内訳推移 (出典)総務省「IoT時代におけるICT経済の諸課題に関する調査研究」(平成29年)における集計データより作成 3 分析に用いた産業連関表を集計したデータは、平成29年(2017年)版情報通信白書の調査研究報告書のホームページに掲載。 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/link/link03_h29.htmlなお、ホームページ掲載分のデータは、統合大分類を再集計したデータに加え、統合中分類を再集計したデータ、統合小分類を再集計したデータも記載。 4 具体的には、統合大分類(37部門)の部門のうち、電子部品及び情報・通信機器を電子・通信機器とし、汎用機械、生産用機械及び業務用機械をはん用・生産用・業務用機械とし、統合大分類改34部門としている。詳細は脚注3で言及している資料参照。 5 ここでのソフトウェアの定義は、2011年産業連関表における定義にならい、日本標準産業分類の小分類391「ソフトウェア業」の活動を範囲としている。 6 ここでのハードウェアの範囲は、パーソナルコンピュータ、電子計算機本体(パソコンを除く)、電子計算機附属装置、有線電気通信機器、携帯電話機、無線電気通信機器(携帯電話機を除く)、その他電気通信機器とし、それぞれ2011年産業連関表における定義にならい、日本標準産業分類の対応する分類の生産活動を範囲としている。詳細は脚注3で言及している資料参照。 7 2011年の投資が伸び悩んだ理由として、2008年に起こった世界的な経済危機の影響が残っていたこと、2011年には東日本大震災があった影響が考えられる。 8 ただし、新しいサービスや国境を越えた動きを数値化し統計でとらえることは困難も伴う。今後、産業連関表においてクラウドサービスについて把握することが期待される。 9 ICT投入額の詳細な定義は脚注3で言及している資料参照。 グラフでは2011年の粗付加価値が5兆円未満の第二次産業の業種は、「第2次産業その他計」として合算。2011年のICT投入額が2500億円未満の業種は、数値ラベルの記載を省略