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第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長
補論 欧米の事例

(3)航空機製造における例

IICは、既にマーケティング分野にて様々なデータを統合・分析するためのプラットフォームが整備されていると指摘した上で、生産現場でも同様のプラットフォームの整備が進んでいくと予測している。2017年11月に発表したIIC会報誌に掲載された論文で、マーケティング分野でDMP(データ・マネージメント・プラットフォーム、様々なデータを一元管理及び分析した上で広告配信などを最適化するプラットフォーム)が活用されているのと同じように、今後は生産現場においても「ビジネス向け生産用DMP」が生まれるとしている。その例として、欧航空機製造企業のエアバス社3がPalantir社と開発し、自社に導入したオープンデータ・プラットフォーム「Skywise」がある。

Skywiseについて、Airbus社へのインタビューを行った。

【インタビュー】

エアバス・ジャパン株式会社
バイス・プレジデント フランク・ビニョン氏

2015年に立ち上げられたSkywiseは当初、社内の様々な部署が所有するデータの共有を図るためのプロジェクトだった。異なる部署が保有しているデータを使って、「フル・データ・コンティニュイティー(データ継続性の確保)」を実現したいと考えていた。この概念には、飛行機の設計、運航、引退までに至る過程をデータとして統合するといった意味合いがある。その後、エアバス製の航空機を運航する航空会社も利用できるオープン・プラットフォームへと転換した。そして2017年にSkywiseというブランド名の下で正式にこの事業を立ち上げるに至った。現在、航空機の部品供給会社や整備会社なども含めた約30社が利用する航空産業向けの汎用的なプラットフォームとして、民間航空産業、防衛・宇宙産業、ヘリコプターなどの業界の顧客への展開を図っている。2019年には事業領域を拡大し、サード・パーティーのICT事業者をも巻き込みたいと思っている。

Skywiseはエアバスの自社開発ではない。このプラットフォームを構築するためには、ビッグデータ分析に強みを持つ企業と連携する必要があり、Palantir Technologies と提携することにした。Skywiseは同社が開発した「Palantir Foundry」にエアバスが保有するデータを統合し、カスタマイズしたものである。Skywiseは航空機に取り付けたセンサーが収集するデータだけでなく、ERPパッケージ(企業資源計画の統合型ソフトウェア)内で処理されるデータも統合することができ、生産管理や予防保守、さらには新規ビジネスのためにビッグデータを活用することが可能となっている。汎用的なプラットフォームではあるものの、データのアクセス範囲や用途は各ユーザー企業によって異なり、エアバスはプラットフォーマーであると同時にユーザーでもある点に特徴がある。

エアバス機を運航する各航空会社は主に運用管理や保守作業のためにSkywiseを利用しており、やがては乗組員の労務管理や研修プログラム開発などの目的にも活用される見込み。プラットフォーマーでもあるエアバスは、それらに加えて航空機の設計や生産を起点とする広範なビジネス・プロセスに役立てている。各航空会社はデータの公開・非公開の設定をすることが可能で、非公開情報にエアバス従業員はアクセスできない仕組みになっている。

Skywiseにより、エアバス社の生産現場における品質管理のトラブルを約30%低減できた。また、トラブルの原因特定にかかる時間を平均2カ月から平均2週間へと短縮することができた。ユーザーである航空会社においては、品質管理に関する報告書を作成するのに3週間かかっていたのが2日以内で完了するようになった。ただ、今でもそれらのデータをどう読み取るかという作業は人間が行っていて、決して人間が不要になるものではない。

我々は現在IICのメンバーではないが、目指すべき方向は一致している。IICに限らず、様々なコンソーシアムと連携する可能性について検討している。



3 Airbus社は2018年3月時点でIICのメンバー企業ではない

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