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第2部 基本データと政策動向
第8節 ICT国際戦略の推進

第8節 ICT国際戦略の推進

1 国際政策における重点推進課題

(1)ICT海外展開の推進

総務省では、我が国のICT産業の国際競争力強化及びICTを活用した世界の課題解決の推進を目的に、ICT分野の海外展開支援等の活動を行っている。

ア 総務省におけるICT海外展開の戦略的な推進

未来投資戦略等の政府全体の方針を踏まえ、総務省は、ICT分野の海外展開推進を重要な政策課題とし、地上デジタル放送(地デジ)日本方式の採用や同方式の普及活動、地デジで培った協力関係をICT分野全体への協力へ拡大していくための働きかけ、通信・放送・郵便システム、防災/医療ICT、セキュリティ、無線システム等のICTインフラや放送コンテンツの海外展開に係る日本企業への支援等に精力的に取り組んできている。具体的には、トップセールス等の戦略的広報活動や現地における実証実験への支援等を通じて、案件の発掘、提案、形成を推進するほか、株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)1や関係機関と連携し、我が国ICTの特徴・強みを生かしたICTインフラを相手国とのニーズに応じてパッケージで提案したり、人材育成・メンテナンス・ファイナンス等を含めたトータルな売込みを推進したりしている。

政府全体として、「質の高いインフラ」投資を国際的に定着させるための取組を進めている。「質の高いインフラ」は、一見、値段が高く見えるものの、使いやすく、長持ちするもので、長期的に見れば高い経済性を有し、経済発展・社会課題解決に貢献するものであり、日本が強みを有するものである。総務省は、ICT分野における「質の高いインフラ」の概念の国際的な普及、各国のインフラ事業の質の向上を図るため、「『質の高いICTインフラ』投資の指針」を2017年(平成29年)7月に策定・公表し、在外公館等を通じて各国のICT政策立案者や調達管理者・担当者への共有を図っている。

政府が策定した「インフラシステム輸出戦略(平成29年度改訂版)」においては、我が国企業が2020年に約30兆円のインフラシステムを受注2することを政府目標として掲げており、当該目標の実現に向けて、電力、鉄道、情報通信、医療、宇宙、港湾、空港等の主要産業又は重要分野における所要の海外展開戦略を策定することとされた。これを踏まえ、2017年(平成29年)10月、総務省において、情報通信分野の海外展開戦略を経済産業省とともに策定した。本戦略においては、情報通信分野における国内・海外の市場動向や我が国の強み、競合国の動向等を踏まえ、我が国として注力するべき重点領域3を整理し、今後の海外展開の取組の方向性を示している。

また、総務省は、ICT、郵便のみならず、消防、統計、行政相談制度、地方自治等といった幅広い分野で海外展開を推進している。これらの取組を総合的・戦略的に推進し、更なる海外展開の強化を図るため、総務省では2018年(平成30年)2月に「総務省海外展開戦略」を策定した。本戦略を踏まえ、総務省では、海外展開案件間の連携強化等を通じて、ICT分野の海外展開の更なる推進に努めている。

イ 日本方式の地上デジタルテレビ放送の海外展開

地デジ放送分野においては、官民連携で日本方式(ISDB-T)の普及に取り組んでおり、2006年(平成18年)に日本方式を採用したブラジルと協力しながら、日本方式採用を各国に働きかけてきた。日本方式には、①国民の命を守る緊急警報放送、②携帯端末でのテレビ受信(ワンセグ)、③データ放送による多様なサービスといった、他方式にはない強みがある。日本方式の地デジ放送の海外展開では、この強みを相手国に示してきたことで、2017年(平成29年)1月に日本方式を採用したエルサルバドルを含め、合計19か国(2018年(平成30年)3月現在)にまで採用国が拡大するに至っている(図表6-8-1-1)。

図表6-8-1-1 世界各国の地上デジタルテレビ放送の動向

モルディブでは、2016年(平成28年)10月に地デジ放送システムの整備目的の無償資金協力に関するモルディブ政府と日本政府の間の書簡の交換が行われた。また、フィリピンでは、我が国の企業が納入したデジタルテレビジョン送信機により、2018年(平成30年)1月にマニラ首都圏及びその周辺地域で本格的な日本方式の地上デジタル放送が開始された(図表6-8-1-2)。さらに、2016年(平成28年)1月には、ペルーで、地デジを活用した緊急警報放送(EWBS)の機能を備えた広域防災システムが実用化され、今後、地震・津波等の自然災害の多いチリやエクアドル等近隣諸国にも導入が検討されている。

図表6-8-1-2 地上デジタル放送開始スイッチを押す野田総務大臣
ウ 防災ICTの海外展開

我が国は、ICTを活用した災害情報の収集・分析・配信による効率的・効果的な災害対策を可能とする防災ICTシステムについて、世界で最も進んだ技術・ノウハウを有する国のひとつである。総務省では、国土交通省・気象庁などの防災に関係する各府省と連携しながら、防災ICTシステムの海外展開を推進しており、各国政府へのトップセールスを契機に、相手国と協力方針・プロジェクトを協議する政策対話、防災ICTソリューションの現地での適用可能性を確認する調査や実証実験等を実施し、アジア、中南米諸国等で我が国の防災ICTシステムが採用されるなどの成果を上げている。

エ 各国ICTプロジェクトの展開
(ア)アジア地域

アジア地域は、堅調で安定した経済成長が続いており、経済成長に伴い中間層も拡大している。更に、域内の貿易自由化や市場統合などを通じ成長加速を目指す「ASEAN経済共同体(AEC)」が2015年(平成27年)末に設立され、我が国企業にとって成長市場としての魅力が更に増している。経済成長と生活の質の向上は、膨大なインフラ需要を生み出しており、ICTインフラもその例外ではない。また、都市交通や環境、防災などの分野において多くの社会的課題が生じており、ICTを活用した解決に期待が寄せられている。

A インドネシア

インドネシアについては、2015年(平成27年)9月にインドネシア通信情報大臣が来日し、総務大臣との間で、ICT分野における日本・インドネシア両国の協力を一層強化する目的で、「情報通信分野における協力に係る覚書」等を結んだ。

本覚書等に基づき、ルーラル地域の無電化村等におけるデジタル・ディバイドや放送波が届かない地域の解消に向けた通信・放送インフラの整備技術の協力、防災情報収集・伝達システムの導入等をはじめとした我が国ICTの海外展開に係る取組を実施している。

B フィリピン

フィリピンについては、2017年(平成29年)3月にフィリピン情報通信技術大臣が来日し、総務大臣との間で、ICT分野における日本・フィリピン両国の協力を一層強化する目的で、「情報通信技術分野の協力に関する覚書」を結んだ。

本覚書に基づき、地上デジタル放送への円滑な移行、ブロードバンド網の整備、防災ICTシステムの活用をはじめとしたICTの海外展開に係る取組を実施するなど、協力関係の強化を進めている。

2018年(平成30年)1月には、総務大臣がフィリピンを訪問し、大統領をはじめとするフィリピン政府要人に対して「日フィリピンICT総合協力パッケージ」を提案し、ICT利活用(防災、交通、サイバーセキュリティ等)の基盤となるICTインフラ(ブロードバンド網及び地上デジタル放送)の整備について両国で協力して進めていくことを確認するなど、フィリピンの社会的課題の解決及び経済成長並びに日本企業の海外展開の後押しにつながる取組を実施した。

C ミャンマー

ミャンマーについては、2016年(平成28年)10月に、2016年3月に誕生した新政権のミャンマー運輸・通信大臣が初めて来日し、総務大臣との会談を実施して、情報通信分野における両国間の更なる協力関係の強化を確認した。

これまでは、MPT(国営電気通信事業体)とKDDI・住友商事の共同事業に加え、外資系通信事業者2社がモバイル通信事業を行っているが、2017年(平成29年)1月に更にもう1社にライセンスが付与され、2018年(平成30年)3月よりサービスを開始した。こうした状況の中、日本政府は急速に拡大する通信需要に応えるため、円借款「通信網改善事業」(供与限度額105億円)により通信インフラの整備を支援している。

D ベトナム

ベトナムについては、2016年(平成28年)9月に「情報通信分野における協力覚書」等の更新にあわせて日越ICT政策対話を開催し、4G及び5Gなどの電波政策、サイバーセキュリティ、IoTについて意見交換を実施するなど、協力関係の強化を進めている。

2017年(平成29年)3月にはベトナム情報通信大臣が来日し、総務大臣との会談を実施して、情報通信分野における両国間の更なる協力関係の強化を確認するとともに、「日本国総務省とベトナム社会主義共和国情報通信省との間の協力を促進するための合同作業部会の設置に関する共同議事録」に署名した。本議事録に基づき、2018年(平成30年)1月に第1回日ベトナムICT共同作業部会を開催し、サイバーセキュリティ、電波監視及びスマートシティ分野における今後の日越間協力について協議を行っていくこととなった。

(イ)中南米地域

中南米地域は、ブラジル、メキシコといった巨大な人口と大きな潜在成長力を誇る国々や、ペルー、コロンビアといった近年安定した成長を見せる国々を擁しており、成長性のある市場である。

現在、中南米諸国においてデジタル網の整備が進むのにあわせ、これを活用した遠隔教育、遠隔医療、防災、防犯、スマートシティなどの各分野でのアプリケーションにかかる政策ノウハウ、維持管理技術、人材育成などを組み合わせた展開と、同地域での共通課題、解決方策にかかる連携を各国と強化している。

2017年(平成29年)にエルサルバドル共和国が日本方式の地デジを採用し、中米諸国でも採用が広まっている一方、南米諸国では、日本方式の地デジを採用してから10年を迎える国も多い中、日本方式の地デジ採用を契機としたICT分野全体の国際展開の強化に取り組んでいる。

A ブラジル

ブラジルでは、2006年(平成18年)6月に、海外で初めて日本方式の地上デジタルテレビ放送が採用された国である。2016年(平成28年)10月のテメル大統領訪日時に署名された日本国及びブラジル連邦共和国との間のインフラ分野における投資及び経済協力の促進のための協力覚書においても情報通信技術分野が協力範囲として含まれており、総務省とブラジル科学技術通信省は、協力プロジェクト等を通じて引き続き協力を進めていく。

B ペルー

ペルーでは2009年(平成21年)4月に地デジ日本方式が採用され、2019年(平成31年)には、地デジの協力が10年目になる。方式採用以降、JICA専門家派遣等の支援により総務省とペルー運輸通信省との間では放送分野における継続的な協力関係が構築されている。2016年(平成28年)11月に安倍総理大臣がペルーを訪問した際に出された共同声明では、光ファイバなどインフラ整備、物流や医療などの分野でのICT協力の一層の進展への期待が表明された。また、首脳会談直後に両首脳立ち会いの下、総務省と運輸通信省との間で共同プロジェクトを進める覚書を締結した。本件覚書の共同プロジェクトを具現化するため、2017年(平成29年)2月には外務省と連携し、運輸通信大臣一行を日本へ招へいし、日本のICT関連政策・経験の共有を通じた政府間協力関係強化及び日本国内のICTの活用事例の紹介を行った。また、2018年(平成30年)3月には総務省とペルー運輸通信省と共催で「ICTとブロードバンドに関する国家政策提言に向けた貢献」国際フォーラムを開催し、各分野における共同プロジェクトのロードマップ具体化、今後の取り組みを加速化することを確認した。

C コロンビア

コロンビアでは、デジタル網整備に関する日本政府とコロンビア政府との協力に関し、首脳レベルでの関心事項となっており、2014年(平成26年)7月の安倍総理大臣のコロンビア訪問時に発出された共同声明にも盛り込まれている。コロンビア政府は、情報技術・通信省を中心にデジタル網の整備・利活用を進める「Vive Digital」政策を推進しており、総務省は日本が有するFTTH技術に関する技術講習会の実施及び、日本の技術FTTH技術の高さを実証するフィールドトライアルを行ってきた。

今後は、光ファイバや無線網の全国整備だけでなく、ICTを利用したコロンビアの社会課題の解決に貢献するため、スマートシティ、農業等の分野でICT利活用に関する共同プロジェクトを実施し、引き続き協力関係を強化していく。



1 株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構法(平成27年法律第35号)に基づき、平成27年11月25日に設立された官民ファンド。我が国の事業者に蓄積された知識、技術及び経験を活用して海外において通信・放送・郵便事業を行う者等に対し資金供給その他の支援を行うことにより、我が国及び海外における通信・放送・郵便事業に共通する需要の拡大を通じ、当該需要に応ずる我が国の事業者の収益性の向上等を図り、もって我が国経済の持続的な成長に寄与することを目的としている。

2 事業投資による収入額等を含む。

3 海底ケーブルシステム、セキュリティ・セーフティシステム(生体認証システム等)、放送システム(地デジ等)、ブロードバンド網整備(光ファイバ等)、郵便システム・関連システム、電波システム、防災ICTシステム、サイバーセキュリティ、医療ICTシステム、通信衛星システム・準天頂衛星システム、エネルギー・マネジメントシステムの各領域。

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