(3)メリットと課題 芝麻信用による「信用の可視化」で、中国社会で不正防止やマナー向上といった変化が起きることが期待されている。無人コンビニで盗難被害がほぼゼロであったり、無料レンタルの雨傘がきちんと返却される、サービス提供後の事後支払いでも問題が起きない、といった改善も見られている。 一方で課題もある。芝麻信用のスコア情報はネットショッピングや決済、振り込みなどのアリババグループの電子取引データなどから得たデータをもとに算出したという。モバイル決済が普及し、監視が厳しい中国では、こうしたデータの集約は個人のプライバシー侵害になるのではないかという懸念の声が上がっている。 スコアを高めるために手段を問わず行き過ぎた行動に出てしまう人も少なくない。芝麻信用の仕組みは、基本的にアリババ系企業を利用すればするほど「評価」される。データの取得先はいずれも系列企業または提携企業である。例えば、点数化基準の一つである「行為偏好」(消費の特徴や振り込みなど)は全体評価の25%を占めている。そこで、アリババ傘下の淘宝(タオバオ)で商品を購入する、支付宝で水道光熱費を支払う、アント・フィナンシャルで貯蓄や債券を購入するなどの行為によってスコアが確実に上がる。つまり、系列企業以外での消費行為が「評価」されないという仕組みである。 個人情報保護意識が高まっていることや評価の仕組みに加えて、以下のような課題も浮き彫りになっている。これらの課題について今後どのように解決していくかが問われることになる。 データの過剰収集になる可能性がある スコアをアップするため履歴を偽る(例:高級車の購入歴を偽装するなど) 農民などは銀行やクレジッドカードの履歴がない 高学歴、高所得層、官僚などのスコアが高くなる一方、所得の低い人は社会的信用があってもスコアが高くなりにくい