4 ICTによる生産性向上の効果 前項までみてきたICTによる生産性向上方策を対象として、その効果について定量的に整理する。具体的には、国内企業向けアンケート調査結果に基づき、これまでのICTによる生産性向上の実績を実証的に評価した。算出方法としては、全企業を対象に、1)ICTによる生産性向上の方策を実施している企業と、2)ICTによる生産性向上の方策を実施していない企業、の2つの企業グループ4にわけ、両グループの過去3年間における労働生産性の伸び率の平均値を、各方策について計算した5。両グループの労働生産性の伸び率の比を、ICTによる労働生産性の上昇効果として定量化した。なお、ここでは、労働投入量の増加に係る方策については対象外とした。 定量化の結果、いずれの方策についても、ICTによる労働生産性の上昇効果が見られ、ICTの導入・利活用が企業の経営課題解決においてプラスに寄与していることが明らかになった。各方策について比較すると、「業務の省力化」(1.1倍)や「業務プロセスの効率化」(2.5倍)よりも、「製品・サービスの高付加価値化」や「新規製品・サービスの展開」(4.0倍)といった、ビジネスモデル改革等に基づく付加価値向上という「攻めの」ICTの労働生産性の上昇効果が大きいことが分かった6。これは、過去3年間の結果であることを踏まえると、図表3-2-3-2でみたとおり、我が国企業においてはプロセスに係る取組が先行していたことも要因として考えられる。この点からも、業種や企業規模等によって、既存の取組状況等の前提条件が異なるため、必ずしも一様に効果が見込まれるものではない。しかしながら、今後企業が直面する様々な経営課題に対しては、ICTによる解決領域を多面的に捉えるとともに、組織改革(第4節参照)をはじめ、効果を最大化する取り組みを行っていくことで、継続的に生産性向上を図ることが望ましい。 図表3-2-4-1 ICTによる生産性向上の効果 (出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年) 4 ICTの利活用状況や経営課題の解決に係る実施状況に関するアンケート調査結果に基づき、下記基準に基づき、グループを仕分けた(括弧内は、500サンプル中に占める1)グループに該当するサンプル数)。 〇「業務の省力化」:「業務の省力化」の実施有無(114サンプル) 〇「業務プロセスの効率化」:「業務プロセスのスピードアップ」の実施有無(37サンプル) 〇「既存製品・サービスの高付加価値化」「新規製品・サービスの展開」:ICTの自社製品・サービス開発への活用の実施有無(77サンプル) 5 労働生産性の伸び率に関する設問の回答結果に基づき加重平均値を算出した。労働生産性は、原則として回答企業の売上高総利益を従業員で割ったものとして定義した。そのため、各方策に要した費用などの投入条件については、売上原価に含まれ、総利益から除外されていると想定している。 6 それぞれの群の3年間の労働生産性の伸び率は以下の通り。 「業務の省力化」:該当(3.32%)、非該当(3.10%) 「業務プロセスの効率化」:該当(6.71%)、非該当(2.71%) 「既存製品・サービスの高付加価値化」「新規製品・サービスの展開」:該当(7.78%)、非該当(1.96%)