(2)現実社会でのつながりを補完するICT ICTは、オンラインコミュニティを支えるとともに、オフラインのつながりを補完し、他の人に対して抱く「信頼」や、持ちつ持たれつなどの言葉で表現される「互酬性の規範」によって構築される社会関係資本(ソーシャルキャピタル)の蓄積を支援する役割もある。 オフラインコミュニティにおける相互の信頼度は2008年度調査に比べて低下傾向にある(図表4-3-5-3)。オフラインコミュニティに関して、ほとんどの人は信頼できるという回答率は、「そう思う」と「ややそう思う」とを合わせて2008年度調査は40.7%であったものが、2017年度調査では33.8%に低下している。また、自分は信頼できる人と信頼できない人を見分ける自信があるという回答率は、「そう思う」と「ややそう思う」とを合わせて2008年度調査では51.2 %であったものが、2017年度調査は37.0%に低下している。現実社会の関係性がより希薄化して、社会関係資本が低下してきていることが伺える。ただし、先に述べたように、「オンラインコミュニティのみ参加」は必ずしもオンラインでのみつながっていることを意味しているのではなく、オフラインでも従来型のコミュニティにあてはまらない、ゆるやかなつながりを持っている場合もあり得る。このような「弱い紐帯」4により、社会的距離を越えて、新たなつながりが創り出される可能性がある。 図表4-3-5-3 オフラインやオンラインで知り合う人の信頼度 (出典)2008年度調査は総務省「ユビキタスネット社会における安心・安全なICT利用に関する調査」(2009)、2017年度調査は総務省「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究」(2018) オンラインコミュニティの強化は、こうした現実社会のつながりを補完し、社会関係資本を回復させる役割が期待される。平成21年版情報通信白書(2008年度調査)では、調査結果を踏まえて、オンライン・オフライン双方のコミュニティによる紐帯を定量化するために、「つながり力」という指標を作成した。本年版でも、平成21年版情報通信白書で用いた手法と同様の手法を用いて「つながり力」を算出した。 「つながり力」指標の作成は、以下の考え方に沿って行った5。 [1] 回答者のコミュニティ意識の把握 社会関係資本を構成する「信頼」と「互酬性の規範」に関する回答者の意識を把握するために、オフラインとオンラインの人間関係について信頼関係や助け合いについて質問した。この回答結果から、回答者のオフライン・オンラインの双方におけるコミュニティ意識の高低を把握する。 [2] 各コミュニティの「紐帯」を評価 回答者の各コミュニティへの参加状況を尋ね、コミュニティごとに参加者のコミュニティ意識を平均することで、各コミュニティの「紐帯」の高低を評価する。 [3] 各個人の「つながり力」を得点化 回答者ごとに参加しているコミュニティの「紐帯」の水準を合計することで、各個人の「つながり力」指標とする。 分析結果は、2008年度調査と同様に、オンラインのみもしくはオフラインのみ参加しているよりも、オンラインとオフラインの両方に参加している方が、つながり力が高くなることが示された(図表4-3-5-4)。 図表4-3-5-4 つながり力の推計結果(日本) (出典)2008年度調査は総務省「ユビキタスネット社会における安心・安全なICT利用に関する調査」(2009)、2017年度調査は総務省「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究」(2018) オフラインでもオンラインでも信頼度が低下して、社会関係資本が減少傾向にある中、オンラインのコミュニティのみに参加している人にはオフラインのコミュニティにも参加できるような機会を作るとともに、オフラインのコミュニティにおいて積極的にソーシャルメディアの活用を促して、つながりを補完していくことが、我が国の人々の間の相互信頼の回復、すなわち我が国の社会関係資本の回復に重要であると考えられる。 4 Granovetter, Mark S.(1973),“The Strength of Weak Ties” American Journal of Sociology, 78 5 指標の作成方法の詳細は付注4を参照