(3)クラウドソーシングによる地方での働く機会創出 地方における人口流出の要因のひとつとして、地域の雇用環境に多様性がないことから、自分が望む仕事に就けないために都市へ移動せざるを得ないことがある。このような流れを変えるために、地域で仕事の機会を創出する手段として、クラウドソーシングを活用することが考えられる。 総務省が推進する「ふるさとテレワーク」は、地方でも都会と同じように働ける環境を実現し、人や仕事の地方への流れを促進することを目的としている。同事業は、企業が地方に拠点を整備することによる雇用型テレワーカーの移動と同時に、クラウドソーシングを活用して地方での働く機会の創出を目指すものもある。 クラウドソーシングを活用した、地域における働く機会の創出には2つの方向性がある(図表4-4-4-6)。 図表4-4-4-6 クラウドソーシングによる地域での働く機会創出 まず、東京など他地域の企業などが発注した業務を、地方在住の自営型テレワーカーが受注する形態がある。クラウドソーシングのマッチングサイト事業者は、地方における雇用創出のため、地方自治体や企業・NPOとの連携を進めている。例えば、ランサーズ株式会社は、エリアパートナープログラムを通じて、地方自治体や地方の団体を支援している。ランサーズからの講師が地域の企業にクラウドソーシングの活用方法を伝えたり、地域の主婦や若者を対象にクラウドソーシングの活用方法を教育したり、育成プログラムを通じて、地域の情報サイトを制作するなどの活動を行っている(図表4-4-4-7)。 図表4-4-4-7 エリアパートナープログラム(出典)ランサーズウェブサイト(https://l-ap.jp/about/) 株式会社クラウドワークスでは、2016年4月には、クラウドソーシングで受注する仕事の品質管理とクラウドワーカー育成を担う「クラウドディレクター」を核とした、地域ワーキングチーム体制の構築を開始した。地域ワーキングチームは、2017年12月現在、長野県塩尻市、広島市、佐賀県多久市など全国7拠点で活動を展開している(図表4-4-4-8)。2017年4月、長野県駒ケ根市にクラウドワークスのサテライト拠点を開設し、クラウドワークスのスタッフが自らクラウドディレクターを務め、地域クラウドワーカーを育成している。その結果、地域ワーキングチームが獲得した累計報酬額が、2017年12月までに1億円を突破した。 図表4-4-4-8 全国7拠点の「クラウドディレクター」を核とした地域ワーキングチーム (出典)クラウドワークス「プレスリリース:全国7地域との連携で住民へ届けた報酬額が1億円を突破」(2017) (https://crowdworks.jp/press/?p=7438) また、徳島県ではNPO法人「チルドリン徳島」に事業を委託し、地域の女性たちを自営型のテレワーカーとして育成する「ICTママ」の養成講座を行っており、ホームページの移行や書類の電子化などの業務を他地域の自治体や企業から請け負っている(チルドリン徳島の事例については、4章末のコラムで詳述)。 次に、地方の自治体や企業が業務を地元の個人事業主に発注するという「地産地消」型の機会創出がある。 地産地消型の機会創出の例として、福岡県糸島市では、子育て世代家族の移住を念頭に置き、就業希望を持つ子育て世代の母親がクラウドソーシングの拠点として利用可能なテレワークセンターを開設し、クラウドソーシングで働く人材の育成事業を行う一方で、糸島市内の在宅ワーカーに市の業務である会議録の文字起こしなどを委託したり、将来的に糸島市の情報を発信する市民ライターとして自立することを目指したママライターの養成事業を行っている。 クラウドソーシングを地域での雇用創出に役立てる場合、東京など他地域の仕事を受注する視点と同時に、糸島市の事例のように、地域内での仕事を積極的に地域の自営型テレワーカーに発注する視点も重要であるといえる。