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第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第3節 ICTの新たな潮流

(3)AIの利用が経済や雇用に与える影響

AIによる生産性の向上効果

AIの利用は、業務の効率化や新たな商品・ビジネスモデルの開発につながることが期待されている。また、人間を煩雑な業務から解放し、人間ならではの創造的な業務に集中することを可能とすることによるイノベーション創出効果も考えられる。

いくつかの調査機関において、AIによる生産性の向上効果等についての分析が行われている。例えば、アクセンチュアによる分析では、日本では2035年に労働生産性がベースライン比で34%向上するとしている(図表1-3-2-7)。

図表1-3-2-7 AIによる労働生産性の向上効果(アクセンチュアによる分析)
(出典)Accenture(2016)“Why Artificial Intelligence is the Future of Growth”

また、マッキンゼーによる分析では、売上高の上昇率という観点から産業別のAIによるポテンシャルを算出している。その結果、「旅行」分野が最も高く、年間で売上高を7.2%〜11.6%上昇させるとしている。そして、AIが大きな影響を及ぼす他の産業として、「ハイテク(ソフトウェア、オンライン、ハードウェアメーカー等)」「保険」「メディア・エンターテイメント」「運送・物流」「通信」「医薬品」等が挙げられている(図表1-3-2-8)。

図表1-3-2-8 産業別のAIによるポテンシャル(マッキンゼーによる分析)
(出典)McKinsey(2018)“NOTES FROM THE AI FRONTIER”

このほか、総務省、情報通信総合研究所(ICR)及び日本経済研究センター(JCER)が東証一部上場企業を中心とする日本企業を対象として実施したアンケート調査結果と個別企業の財務データを関連付けて行ったミクロ分析では、2017年の総資産利益率と2016年時点でのAI・IoTの導入状況を回帰分析したところ、AIの導入は有意にプラスであるとの結果が得られている44。分析結果は相関関係であるものの、AI導入は2016年、総資産利益率は2017年の状況を用いていることを踏まえれば、AIの導入は企業業績に対して一定程度の効果があると見ることもできる。

AIの普及により雇用はどのようになるのか

AIが生産性や売上げに与える影響とともに、雇用に与える影響についても注目が集まっている。2013年に英国のAI研究者のマイケル・オズボーンが、米国において今後10〜20年内に、労働人口の47%が機械に代替されるリスクが70%以上との見込みを発表した。この数字は世界を驚かせ、AIと雇用についての研究が深まる契機となった。

これに対しては、AIによって代替される可能性が高い職業とされたものについて、職業ではなく具体的な業務(タスク)に着目すれば、手作業等AIでは代替できない業務があるとの反論がなされた。このような業務に着目した分析として、ドイツのハイデルベルグ大学の研究者のメラニー・アーンツらは、OECD加盟国21か国の職業について、自動化可能性が70%を超える職業は9%という推計を公表した45。同様に、労働経済学者のNedelkoskaは、OECD加盟国32か国の職業について、自動化可能性が70%を超える職業は14%、また、残りのうち32%が自動化により仕事の内容が大きく変化すると推計した46

しかも、これらの数字については、AIの発展・普及により新たに生じると考えられる雇用を考慮に入れておらず、AIによる雇用への影響については、現時点では様々な議論が行われている段階であるといえる。これらを含む主な調査分析結果の概要は図表1-3-2-9のとおりである。

図表1-3-2-9 AIによる雇用への影響に関する様々な分析結果
(出典)総務省「AIネットワーク社会推進会議AI経済検討会」資料を基に作成

前述の総務省、ICR及びJCERのアンケート調査では、対象の日本企業に対し、AI等の導入が進展した場合、今後3年から5年を目途に業務量が増える(減る)見込みの仕事についても尋ねている。2016年時点におけるAIの導入/未導入別に比較したところ、調査分析や研究開発系の仕事が増えるという回答割合は、AIの導入/未導入にかかわらず高く、AIを導入している企業でより高くなっている。AIを導入していない企業では、営業や接客サービスが増加するという回答割合も比較的高い。他方、減る見込みの仕事としては、AIの導入/未導入にかかわらず一般事務系が高くなっており、ホワイトカラーの業務の一部が代替されることが見込まれていることがうかがえる(図表1-3-2-1047

図表1-3-2-10 日本企業アンケート調査結果による今後3〜5年で増える(減る)見込みの仕事
(出典)総務省・ICR・JCER(2019)「AI・IoTの取組みに関する調査」
「図表1-3-2-10 日本企業アンケート調査結果による今後3〜5年で増える(減る)見込みの仕事」のExcel(1)はこちらEXCEL / Excel(2)はこちらEXCEL / CSV(1)はこちら / CSV(2)はこちら


44 総務省(2019)「AI ネットワーク社会推進会議AI経済検討会報告書」

45 Melanie Arntz et al.(2016)“THE RISK OF AUTOMATION FOR JOBS IN OECD COUNTRIES: A COMPARATIVE ANALYSIS.” OECD SOCIAL, EMPLOYMENT AND MIGRATION WORKING PAPERS No. 189

46 Ljubica Nedelkoska and Glenda Quintini(2018)“Automation, skills use and training”

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