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第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第4節 デジタル経済の中でのコミュニケーションとメディア

4 フェイクニュースを巡る動向

フェイクニュースとはどのようなものか

フェイクニュースの定義は、研究者によって様々である。嘘やデマ、陰謀論やプロパガンダ、誤情報や偽情報、扇情的なゴシップやディープフェイク27、これらの情報がインターネット上を拡散して現実世界に負の影響をもたらす現象は、フェイクニュースという言葉で一括りにされている28からである。そこには必ずしも「フェイク(嘘)」ではないものも含まれており、嘘か真実かは主観によって変わる可能性のあるものもある。また、フェイクニュースは一般的にインターネット上での情報流通を巡る問題として捉えられているが、従来のマスメディアの報道を批判する際に言及されるケースもある。

インターネット上で英語辞書を提供しているDictionary.comは、2017年に「fake news」を辞書に掲載している29。それによると、フェイクニュースとは「センセーショナル性を持ち、広告収入や、著名人・政治運動・企業などの信用失墜を目的としたオンライン上で広く共有されるように作成された偽のニュース記事」であるとしている。何を「偽」のニュースとするかは上述したとおり様々であるが、「フェイクニュース」の特徴を端的に示したひとつの例といえるだろう。

他方で、フェイクニュースには広告収入や対象の信用失墜を目的としたものというよりは、「悪ふざけ」や社会の混乱を目的としたものも存在する。ただし、いずれの「フェイクニュース」にも共通するのは、それがフェイクであるにも関わらず、そのセンセーショナル性をもって広く一般に拡散されているということである。

フェイクニュースへの注目

2016年米国大統領選挙において、「ローマ法王がトランプ氏の支持を表明」や「クリントン氏を捜査中のFBI捜査官が無理心中」等のフェイクニュースがソーシャルメディア上で大規模に拡散し、選挙戦終盤には主要メディアによる記事を上回るエンゲージメント(「シェア」や「いいね!」などのリアクションやコメントの合計数)を集めた。また、同年12月、フェイクニュースが現実の銃撃事件を引き起こした「ピザゲート事件30」も世間に衝撃を与えた。

こうした人々を惑わす虚偽情報が大規模に拡散し、大きな社会問題となったことを契機に、「フェイクニュース」という言葉が注目されはじめた31

我が国においても、2016年4月の熊本地震の際に、動物園からライオンが逃走しているという虚偽の文章と写真がSNS上に投稿され、動物園や警察に問合せが殺到したというケースがあった。2018年には、ソーシャルメディアで流れたフェイクニュースをマスメディアも信じて報道した結果、自殺者が出るというケースも発生した32。具体的には、2018年の台風21号が関西空港に大きな被害をもたらした際、空港内に閉じ込められた外国人を「中国大使館が専用バスを手配して救出した」との情報がソーシャルメディア上に出回った。実際には、バスは関西空港が手配したものであり、事実ではなかったが、台湾の駐日事務所が傍観していると批判する投稿が広がり、さらに台湾の大手メディアも一斉に批判したことで、矢面に立たされた台湾大阪事務所の担当者が自殺する事態にまで発展した。中国による救出バスの一件がフェイクニュースだったことは、担当者自殺の翌日に台湾のNPOにより判明した。

ポストトゥルースという状況

ポストトゥルースとは、「客観的事実よりも感情的な訴えかけの方が世論形成に大きく影響する状況」を指し、近年社会はこのような状況となっているとの見方がある。

この点については、メディアの信頼性が低いことが影響しているとする指摘33もあるが、情報を受け取る側の感情により、その情報が「真実」であるか「虚偽」であるかが変化する状況になっているとすれば、フェイクニュース対策やその他インターネット上の言論について考える際に留意すべき事項であろう。



27人工知能(AI)の技術で合成した偽動画のこと。

28笹原和俊(2018)『フェイクニュースを科学する−拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』

29[fake news]“false news stories, often of a sensational nature, created to be widely shared online for the purpose of generating ad revenue via web traffic or discrediting a public figure, political movement, company, etc.”

302016年12月3日、「米国ワシントンDCのあるピザレストランが児童売春の拠点になっていて、ヒラリー・クリントンがそれに関わっている」という虚偽情報を信じた男が噂のピザレストランに銃を持って押し入り、発砲。幸いなことに負傷者は出なかった。

31笹原和俊(2018)『フェイクニュースを科学する−拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』

32「フェイクニュースで自殺に追い込まれた台湾の外交官−日本との親善に尽くした彼を襲った「ある情報」とは」(2019.03.05)J-castテレビウォッチ(https://www.j-cast.com/tv/2019/03/05351915.html?p=all別ウィンドウで開きます

33総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」有識者ヒアリング(学習院大学法学部 遠藤薫教授)に基づく。

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