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第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第4節 デジタル経済の中でのコミュニケーションとメディア

(2)デジタル・プラットフォーマー等の民間企業における動き

2016年大手玩具メーカーのレゴ社は、英国の保守系タブロイド紙「デイリー・メール」との契約解除を発表した。この背景には、EU離脱を問う国民投票に端を発する、同紙の移民や難民などへの、あからさまな「憎悪扇動」の論調があるという指摘がある40

こうした「不適切なサイトやコンテンツに表示されることで企業や製品のブランド価値が損なわれるのではないか」という「ブランドセーフティ」の考えから、FacebookやGoogle等のデジタル・プラットフォーマーからも広告を引き揚げるという企業も出てきている41

国内においても、2018年以降、エプソンなどの企業や、国内最大級のアフィリエイトサービス「A8.net」等が、差別的な記事などを掲載しているとされるまとめサイトへの広告出稿の取りやめや、提携の解除など、ヘイトやフェイクの温床となっているとされるサイトの資金源を断つという動きが始まっている42

また、いわゆるデジタル・プラットフォーマーにおいても動きが出てきている。従来、デジタル・プラットフォーマーは、個人が情報を発信する「場」を提供しているにすぎず、発信される情報の内容については関与しないとの態度を示してきた。しかしながら、フェイクニュース等に端を発した騒動の多発による世界的な批判の声が高まってきたことに加え、こうした広告主の対応や、後述する政府におけるルール整備の動きへの対応という観点から、デジタル・プラットフォーマーも情報の内容に一定の社会的責任を負う立場として対策を打ち出すようになっている。

例えば、ヘイトスピーチ対策としては、2016年5月に欧州委員会とFacebook、Twitter、Google、Microsoftが合意した「行動規範」43に基づき、ヘイトスピーチとして通知を受けた投稿に対して削除や非表示などの対応を取るという自主規制ルールを採用した。この成果として欧州委員会が2019年2月に発表した調査結果によると44、Facebook、YouTube、Twitterは、ヘイトスピーチとして見なされたコンテンツの4分の3近くを24時間以内に削除していることが示された。

国内では、ポータルサイト大手であるヤフーの提供する「Yahoo!ニュース」の記事に読者が意見や感想を投稿できるコメント機能(通称ヤフコメ)に、ヘイトスピーチ等が多数書き込まれる状態が横行していたが、徐々に対策が強化されている45。同社では、専門部隊による24時間・365日体制のパトロールを行っているとともに、2017年5月にマルチポスト(同じ文章を短期間に繰り返し投稿する行為)への対策強化として、同じ内容の複数投稿を一括で削除できるツールを導入している。また、AIにより「建設的な投稿」を判断して上位表示するなど、プラットフォームとしての中立性を保ちつつ健全な言論空間の創出に向けた取組を積み重ねているとしている。

反対意見を紹介することで社会的分断を防ごうとする取組みも進められている。ワシントン・ポストは2017年11月から、ウェブサイトのオピニオン記事に、自社の主張と対立する記事をレコメンドする新機能「カウンターポイント」を導入した。ワシントン・ポストのこの取組みでは、AIを活用して自社記事のなかから自動で選定しているという。

フェイクニュース対策として、ファクトチェックの取組も進められている46。Facebookは、2016年の米国大統領選期間内にトランプ候補に有利に働くフェイクニュースを注目記事として上位に表示していて批判を浴びたことを契機に、第三者ファクトチェックを導入した。米国には「FactCheck.org」をはじめ、「ポリティファクト」、「スノープス」など政治家や公人の発言の事実関係をチェックする専門機関が多数存在し、多くの先進国でも同様に複数のファクトチェック機関を抱えている。日本においては、このような動きは限定的であるが、一般社団法人日本報道検証機構(GoHoo)が「ファクトチェック・イニシアティブ」を運営している。

デジタル・プラットフォーマーがこうした対策を進める一方で、既にユーザーの個人データを大量に蓄積しているデジタル・プラットフォーマーが情報を統制しうることへの懸念も存在する。

例えば、デジタル・プラットフォーマーによるアルゴリズムを用いた対策に対し、「アルゴリズムを事後的に検査・監査できるようにすべき」との指摘がある47。これは、AI等のアルゴリズムによりヘイトスピーチやフェイクニュースを排除するとしても、アルゴリズム構築の時点で構築者の意思が(意図的/無意識的によらず)反映される可能性は排除できないためである。そして、アルゴリズムを全て公開した場合、それが悪用される恐れはあるものの、透明性の確保は必要であるとする。

また、「デジタル・プラットフォーマーの役割が大きいことは間違いないが、マスメディア、学校、地域など様々な組織・コミュニティが共に知恵を出し合い、議論に参加していく必要がある」との指摘もある48



40 「レゴが「ヘイトスピーチ阻止」に立ちあがった−「憎しみの拡大」に異を唱えた一通の手紙」(2016.11.15)日経ビジネス

41 津田大介(2018)『情報戦争を生き抜く 武器としての情報リテラシー』

42 「「保守速報」への広告取りやめ相次ぐ 国内最大級のアフィリエイトも提携解除」(2018.06.19)BuzzFeedNews

43 European Commssion- Press release(2016.05.31)“European Commission and IT Companies announce Code of Conduct on illegal online hate speech”(http://europa.eu/rapid/press-release_IP-16-1937_en.htm別ウィンドウで開きます

44 European Commssion- Press release(2019.02.04)“Countering illegal hate speech online ? EU Code of Conduct ensures swift response” (http://europa.eu/rapid/press-release_IP-19-805_en.htm別ウィンドウで開きます

45 「Yahoo!ニュース「コメントプロジェクト」の取り組み−共感と気づきを促し、建設的な議論の場をつくる」(2018.11.15)newsHACK(https://news.yahoo.co.jp/newshack/inside/yjnews_comment2018.html別ウィンドウで開きます

46 津田大介(2018)『情報戦争を生き抜く 武器としての情報リテラシー』

47 総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」有識者ヒアリング(駿河台大学経済経営学部 八田真行准教授)に基づく。

48 総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」有識者ヒアリング(学習院大学法学部 遠藤薫教授)に基づく。

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