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第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第3節 Society 5.0が真価を発揮するためにはどのような改革が必要か

3 必要な改革③:働き方改革

政府は、平成29年3月に決定した実行計画25に基づき、「働き方改革」の取組を推進している。これは、我が国が「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」、「育児や介護の両立など、働く方のニーズの多様化」等の状況に直面している中で、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題となっていることを踏まえたものである。

働き方改革は、人々の生き方をより良いものとしつつ、生産性向上につながることが期待されている。同時に、デジタル経済の進化の中で必然性を持つ企業と人との関係の再構築として捉えることもできる。働き方改革を進めることは、デジタル経済における人々の生活を豊かにするとともに、イノベーションを生み出す原動力となることが期待され、Society 5.0が真価を発揮する上で必要な取組となる。

テレワークを取引費用の観点から捉える

政府は、働き方改革の中で、「柔軟な働き方がしやすい環境整備」として、テレワークの推進を掲げている。テレワークとは、ICTを活用して時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方であり、子育てや介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力発揮が可能となるものである。テレワークは「雇用型」と「自営型」に大別され、前者は企業等に雇用される労働者が行うものであり、後者はフリーランス等の個人事業者や小規模事業者等が行うものである26

「雇用型」についてみると、テレワークが可能となったのは、ICTの発展・普及により、企業がオフィス等以外の場所で従業員に仕事をさせる上での、また、従業員が企業にオフィス等以外の場所から労働を提供する上での取引費用が低廉化したということが挙げられる。すなわち、例えばメール等の手段がなければ、離れた場所で仕事を行うことの取引費用は高いものとなり、困難ということになる。しかしながら、現在の様々なICTツールの発展・普及を踏まえると、オフィス等に通勤させた/した上で仕事をさせる/することの方が、取引費用は高いものとなる可能性がある27。その場合、テレワークを導入しない企業はこの新たなコスト構造の中で、競争力を失うこととなる。

「自営型」についてみると、第1節で述べたとおり、取引費用の変化から、企業と個人の双方にとって、市場を通じた個別の契約関係を結ぶことが合理的になってきたことが背景の一つにあるといえる。

デジタル経済の進化の中でなぜ副業・兼業を推進すべきなのか

政府の働き方改革では、副業・兼業の普及促進も図っている。副業・兼業は、企業にとっては新たな技術の開発やオープン・イノベーション、個人にとっては起業の手段や第2の人生の準備として期待されている。

この副業・兼業についても、デジタル経済が進化する中でのコスト構造の変化を受けた、企業と人の関係の再構築の現れの一つであるといえる。同時に、働く人の側から見た場合には、コスト構造の変化を受けた多様な生き方の一つであるといえる。現代の個人は、会社という単一社会に従属するのではなく、共通の趣味や嗜好でつながった複数の集団に帰属意識を持つ「複属」や、相手・場面に応じて現れる複数の人格に分けられる「分人」の総体という性格を強めているとの見方があるが28、このような「複属」「分人」化はデジタル経済の進化の中での必然であるともいえる。

同時に、副業・兼業は、特定の企業に所属することのリスクへの対応という機能を果たすものでもあると考えられる。すなわち、ICTの発展・普及に伴い既存のビジネスモデルにゆらぎが生じ、前述のデジタル・ディスラプション等も発生している中で、個人が企業との関係において柔軟性を欠くことは大きなリスクとなる可能性がある。この点からも、デジタル経済の進化の中で、副業・兼業の推進に向けた環境整備を進めていく必要があるといえよう。



25 「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)

26 テレワークについては、http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/18028_01.html 別ウィンドウで開きますを参照。

27 ただし、遠隔地で勤務することにより、労務管理等の別の取引費用が高くなることは考えられる。

28 「複属」「分人」について解説しているものとして、庄司昌彦(2015)「「分人・複属」と電子行政」がある。

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