総務省トップ > 政策 > 白書 > 令和元年版 > デジタル経済の進化の中で問われる「自明」
第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第3節 Society 5.0が真価を発揮するためにはどのような改革が必要か

5 更なる変化に備えることの必要性

(1)デジタル経済の進化の中で問われる「自明」

近年「所有から利用へ」と人々の意識が変化しているといわれるものの、もともと人はモノを所有することを必要としていたから所有していたわけではない。米国の経済学者セオドア・レビットは、1969年に発表した書籍29において、「ドリルを買う人が欲しいのはドリルではなく、穴である」30という今やマーケティングの格言となった言葉を示している。もちろん、モノを所有することで副次的な満足を得ることはあるものの、本来は何か望むものを得る手段として、モノを所有しているのである。このように、「モノをいつでも自由に使うためには、モノを所有することが必要」といった従来「自明」であったことは、デジタル経済の進化の中で「自明」ではなくなってくる。

企業についても、かつて経済学者のコースがそもそも企業はなぜ存在するのかという疑問を呈したとおり、決して自明の存在ではない。産業革命により大量生産が可能になった時に、当時における新たな社会・経済に適した方法として発展していったものである。

自宅から通勤電車に乗り、あるいは自家用車に乗って毎朝会社に向かうという現在の日常の光景も、日常ではなくなるかもしれない。人を雇用する際、従来の「ジョブ型」や「メンバーシップ型」31にとどまらない形が出てくることも想定され、例えば、仕事は細粒化されたタスクの単位での業務となることも考えられる32

また、グローバルバリューチェーンの発展により企業の生産拠点がグローバルに分散するとともに、海外デジタル・プラットフォーマーのサービスにみられるように、外国から直接日本にサービスを提供されるものもあり、国と企業の関係にはゆらぎが生じているといえる。日本に住みながら外国の企業で働くという形態が広まると、受益と負担のズレが大きくなっていき、国と国民の関係にもゆらぎが生じるかもしれない。

更にいえば、第2節で述べたとおり、産業革命以降確立されてきた資本主義の様々な原理が更に変化していき、デジタル経済に即した新たな資本主義の原理が産み出されていく可能性もある。

デジタル経済の進化の先にあるSociety 5.0では、これまでの「自明」であったものの多くが「自明」ではなくなっている可能性があり、更なる変化に備えることが必要となってくるだろう。



29 Theodore Levitt(1969) “The Marketing Mode” の序文において、Leo McGivenaの言葉として紹介している。

30 原文は、“ They buy quarter-inch holes, not quarter-inch drills.”(人々は1/4インチの穴を買うのであって、1/4インチのドリルではない。)

31 「ジョブ型」雇用とは、職務(Job discription)等を明確にした上でその職務のために雇用するものをいう。他方、「メンバーシップ型」雇用とは、職務等を明確にしない雇用の在り方をいう。

32 例として、「ジョブ型」「メンバーシップ型」という概念の提唱者である濱口桂一郎労働政策研究・研修機構労働研究所長のインタビュー記事を参照。( http://www.works-i.com/column/policy/1803_01/別ウィンドウで開きます

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