総務省トップ > 政策 > 白書 > 令和元年版 > 受容性から考える日本ならではのAI活用の示唆
第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第4節 人間とICTの新たな関係

(3)受容性から考える日本ならではのAI活用の示唆

前述のとおり、特に20〜30代の若い世代では、平均的には自身の仕事がAI・ロボットに代替されることへの懸念が強い。ただし、2019年時点ではAI・ロボットはマクロ的にみて、著しい生産性向上や雇用の代替を起こしている状況ではない。

IoTやAIが現場に導入され、かつ実績が出ている企業は限られていると考えられるが、岩本(2018)7は、こうした大規模製造業の企業へのインタビュー結果の総括として、「現代の日本では、人口減少・少子高齢化により現場の熟練作業員が不足し、その労働分を機械が代替する、又は多品種少量生産が増え、人間への負荷が増しているため、人間を「エンパワー」するために新技術が現場に導入され、現場も歓迎するという方向で導入されている」と指摘している。

加えて、既存の事業にAIを応用することや、ベンチャー企業等がスモールデータを用いて特定の分野における“小さなAI”を開発すること、こまめにプロダクトアウトし実用の中で技術をブラッシュアップしていく必要性についての指摘もある8

生活者視点で日本でのAI受容が比較的高い理由として、宗教的価値観の違いとの指摘9や、またそれゆえに様々なところにAIが入ることを受け入れる可能性の指摘10があることも踏まえると、ユーザーである企業や生活者が、自らや社会の課題の解決のために、小さなことからでもAIを使ってみることに、日本ならではのAIの活用への示唆がある可能性がある。

本節冒頭で例に挙げた鉄道や自動車も、実用化された当初から我が国にあったわけではなく、その意味では我が国は「後れて」いたといえる。しかしながら、鉄道に関しては、阪急や東急のような不動産開発との組み合わせというビジネスモデルを創出するとともに、世界で高く評価される新幹線を生み出した。自動車に関しても、我が国の基幹産業となって、我が国の経済や社会を大きく変えてきた歴史がある。小さなことからでもAIを使ってみることは、創意工夫の仕方次第で成果を享受することにつながり、持続的に経済・社会を豊かにすることに資するとも考えられる。



7 岩本晃一(2018)『AIと日本の雇用』

8 総務省「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」有識者ヒアリング(武蔵野大学 中西崇文准教授)に基づく。

9 遠藤薫(2018)『ロボットが家にやってきたら…人間とAIの未来』では、日本では「神も人間も人工物も、どれが優越しているというものでもなく、共存、共生している」。一方でキリスト教的世界観では、「すべてに超越しているのが『神』であり、その下に神の被造物である人間、さらにその下に人間の被造物である人工物が位置づけられている」としている。
また、武蔵野大学中西崇文准教授は多神教も影響している可能性を指摘している(総務省「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」有識者ヒアリング)。

10 総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」有識者ヒアリング(武蔵野大学 中西崇文准教授)に基づく。

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