総務省トップ > 政策 > 白書 > 令和元年版 > ICTによる人間の「拡張」の生活・働き方への影響
第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第4節 人間とICTの新たな関係

(2)ICTによる人間の「拡張」の生活・働き方への影響

ICTによる人間の「拡張」は、具体的には生活や働き方にどのような影響を及ぼすのだろうか。この点については、「ICTにより拡張された人間」がネットワーク上でつながるという視点から考察してみたい。「ICTにより拡張された人間」の例としては、VR(Virtual Reality:仮想現実)/MR(Mixed Reality:複合現実)/AR(Augmented Reality:拡張現実)端末や、自動翻訳機等を備えた人間が挙げられる。

IoTの発展・普及により、あらゆるモノがインターネットと繋がり、フィジカル空間からより多くの情報が収集可能となってきている。そしてサイバー空間に蓄積されたビッグデータは、AIによって分析・活用されることで、フィジカル空間における新たな価値創造につながっている。今後、これが更に進展し、「ICTにより拡張された人間」とモノ、あるいは「ICTにより拡張された人間」同士がネットワーク上でつながっていくことが考えられる。

このようなネットワーク上のつながりが、生活や働き方をどのように変えうるのか、考えられるイメージを示す。

ア 生活への影響

「所属と愛の欲求」や「自己実現欲求」の充足

これまで技術は、「人間の欲求」29図表2-4-3-2)を満たすためのものとして発展してきた面があるといえる。ICTについても、例えばSNS上でのコミュニケーションは、第3段階の「所属と愛の欲求」を満たすものであるとともに、多くのフォロワーを増やすことは、第4段階の「承認欲求」を満たすことにつながっていると考えられる。そして、自作の小説・絵・音楽・踊り等をこれらの共有サイトに投稿することは、第5段階の「自己実現欲求」についても満たすものであろう。

図表2-4-3-2 マズローの欲求5段階
(出典)総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」

今後普及が見込まれるICTにおいても、例えば外国語を話す人との会話がリアルタイム翻訳され、より円滑にコミュニケーションを取ることを可能とする30ことで、第3段階の「所属と愛の欲求」を満たすことが考えられる。また、自分が搭乗するモビリティの外装や内装(特に色)を、自由に切替可能になること等31は、第5段階の「自己実現欲求」を満たす手段となることが考えられる。

あらゆる社会インフラの全体最適化

センシング技術の向上により、フィジカル空間のあらゆるモノだけでなく、「ICTにより拡張された人間」もセンサーネットワークにつながり、様々な事象や行動がきめ細かくセンシングの対象となるサイバーインフラストラクチャーが構築されることが考えられる。これを活用したCPS(サイバー・フィジカル・システム)32等により、エネルギー、物流、人流、交通といったあらゆる社会インフラが最適化され、社会全体としての効率化や低コスト化が図られることが期待される。

例えば、エネルギー関連等の各種のリソースマッチングが最適化されることで、環境・エネルギーへの負荷の低下や汚染現象等の軽減による生活空間の改善といったことも考えられる。また、自動運転車等による配送と配達ロボットが組み合わされることで、低コストでの自動宅配が実現・普及する可能性等33も考えられるだろう。

生活を便利にするサービスのパーソナライズ化

また、あらゆる事象や行動がきめ細かくセンシングされ、AIにより分析されるようになることで、生活を便利にする様々なサービスを、その受け手に合わせてパーソナライズ化させることが可能となるだろう。

このようなパーソナライズ化として、これまでもスマートフォンでのアプリのカスタマイズや、アルゴリズムを用いた広告配信等が実現しているが、今後、リアルタイムセンシングにより個人に特化する形で形状や温度等が変化する寝室、寝具、寝巻が登場し、睡眠の質を向上させることが考えられる34。また、情報収集やスケジュール調整といったものも、現在よりも進化したAIが用いられたパーソナルアシスタントが担うことにより、人手を介さず、迅速かつ快適に行われるといったことが考えられる。また、ウェアラブルや体内摂取可能な医療デバイスが進化することで、治療が自動管理されることも可能となる35といったことが期待されている。

イ 働き方への影響

「身体の拡張」「存在の拡張」による新たな働き方

図表2-4-3-1で挙げた4つのICTによる人間の「拡張」のうち、「身体の拡張」として、仮想ワークスペースと連動する「グローブ型インタフェース」等、新しい種類のデバイスが登場し、一層効率的かつストレスなしに知的生産業務が行えるようになる36ことが考えられる。また、「存在の拡張」としては、VR/MR/AR技術により、遠隔コラボレーション(共同作業)が、対面でのコラボレーションと比べてほとんど遜色がないものとなる37ことで、テレワークをはじめとするワークスタイルの変化やオフィスのあり方にも変化が生まれる可能性がある。

人間が働くことのポジティブな代替

技術の進展により、機械が人間の労働を代替することは、人間の雇用を奪うという面だけではなく、人間が関わらずとも様々な仕事が行えるようにもなるというメリットがある。例えば鉱山や宇宙等、人間が活動する場合には身体や健康・生命を損なうリスクが高い空間での作業をロボットが代行するようになる38とともに、必要となる工具等の器具は3Dプリンティングで人手による輸送なしに準備することが可能となる39ことも考えられる。

また、人手を要するものの付加価値が低い作業について、完全に自動化される40ことが考えられる。この場合であっても、人間が行う方がより良質なサービスを提供できるのであれば、このようなサービスが有料化・プレミアム化といったように差別化される41可能性もあるだろう。



29 ここでいう「人間の欲求」とは、マズローの欲求5段階説における、「生理的欲求」「安全欲求」「所属と愛の欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」のピラミッドで構成されるものとする。

30 英『エコノミスト編集部』・土方奈美訳(2017)『2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する』

31 篠原弘道監修・NTT技術予測研究会編著(2015)『2030年の情報通信技術 生活者の未来像』

32 様々な情報システム・コンピューティングを、よりオートマティック(自動的・自律的)かつリアルタイムに稼働させることで実現するもの。自動運転車による自動運転やドローンによる自動宅配も対象となる。

33 ブレッド・キング(2018)『拡張の世紀』

34 総務省(2015)「2020年代以降に普及する革新的なICTサービスに関する調査研究」

35 ブレッド・キング(2018)『拡張の世紀』

36 篠原弘道監修・NTT技術予測研究会編著(2015)『2030年の情報通信技術 生活者の未来像』

37 篠原弘道監修・NTT技術予測研究会編著(2015)『2030年の情報通信技術 生活者の未来像』

38 米国国家情報会議編・谷町真珠訳(2013)『2030年世界はこう変わる』

39 ブレッド・キング(2018)『拡張の世紀』

40 総務省(2015)「2020年代以降に普及する革新的なICTサービスに関する調査研究」
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h27_08_houkoku.pdfPDF

41 ブレッド・キング(2018)『拡張の世紀』

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