昭和48年版 通信白書

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2 医療と通信

 現在の日本の医療のあり方については,いろいろの問題が指摘されているが,特に最近,[1]医師,看護婦及び医療技術者の不足,[2]診療の高度化に伴う医師の専門化と専門医の偏在,[3]無医地区等の問題がクローズアップされてきている。
 これらの問題の対処の仕方には種々の方策が考えられようが,その一つとして,電気通信を活用することが考えられ,各種の試みが行われている。
(1) 心電図伝送システム
 第2節の2でも述べたとおり,心電図伝送システムが実用化されると,非専門医にとっては難解な心電図の判読を,遠方にいる専門医の対診を求めることによって的確に行えるようになり,更に伝送操作が簡単であるところから,医師不在のときでも看護婦等により伝送することができ,急患の場合の応急処置に有効である等の利点がある。
 この心電図伝送を一層効果的に行うために,不在時受信可能装置,マルチチャンネル伝送装置等の開発も進められている。このほか心電計や伝送装置を小型化すれば音響結合装置により,医師が往診先から電話機によって患者の心電図を専門医のもとへ容易に伝送することも可能である。
 電電公社では,関東逓信病院(受信側)と,横浜,千葉,伊豆等の逓信診療所(送信側)との間で心電図伝送を試験的に実施したが,その結果は忠実度明瞭度ともに良好で実用化について明るい見通しを得ている。
(2) X線画像伝送システム
 患者のX線像をテレビの生中継により遠隔地にいる専門医のもとに伝送し,これにより専門医が直接診断できると,診療上多大のメリットがある。このためのシステムとして,X線画像伝送システムがあり,現在,関東逓信病院と青森逓信病院との間で試験的に行われている。
 この長距離X線診断システムの特徴は,青森側の機器の装置をすべて東京側から遠隔操作するところにある。関東逓信病院のX線テレビ遠隔操作室には2台のブラウン管が設置されており,そのうちの1台には患者の全体像が映し出され,東京側のスイッチを操作すると患者を乗せた台が回転したり,X線源が移動したりする。他方,もう1台のブラウン管によって患者の患部を受像するようになっている。東京の専門医は,この受像を見ながら診断することができ,必要な場合には,その部分を写真にとることもできる。更に,テレビカメラによる受像のほかに,電話を使って東京側と青森側との間で対話をしながら診断することも可能である。
(3) テレメディシン(遠隔診療)システム
 へき地における医療体制には医師,看護婦の不足など種々の問題があり,その解決を通信を活用することによって図ろうとする試みがなされている。通信回線を医療の面に活用するものとして,和歌山県下においてテレメディシンシステムの実験が行われている。
 これは医師のいる診療所と看護婦又は保健婦の勤務する端末診療所との間を通信回線で結び,医師は端末診療所から送られる患者と看護婦の映像を見つつ必要な指示を与え,診療を行うものである。
 このように,通信回線と端末とを結合して医療に役立てようとする研究は今後ますます進むものと思われ,その進展が注目されている。
 以上のほか,現在医療の分野では,端末機と電子計算機とを通信回線で結んだデータ通信システムとして,救急医療情報システム,診療報酬請求システム,病歴管理システム,医療機関事務のEDPS化等が考えられており,これらを実現するため各方面で研究開発及び実験が地道に進められている。

 

 

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