昭和48年版 通信白書

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5 データ通信方式

 近年,社会経済活動の発展と人々の生活活動の多様化に伴い,これらの諸活動に必要な情報量は急激に増大し,かつ情報の疎通範囲は拡大してきている。
 このような社会的背景と電子計算機及びその利用技術の発達とが相まってデータ通信の急速な発展をもたらしている。
 ここで,制度化された「データ通信」の定義について簡単にふれてみよう。社会的な機能の面からいえば,離れた場所にある情報を媒介する電気通信の機能と高速度でデータ処理をする電子計算機の機能とが一つのシステムとして一体化されたものである。また,設備的な面からいえば,情報処理装置とデータ端末機器をデータ伝送設備で結んだ設備により行う情報又はデータの伝送及び処理といえる。
 以下,データ通信に関して,システムの概念を含めてその技術的動向について述べる。
(1) データ通信システム
ア.データ通信システムの形態
 データ通信システムの処理形態は,[1]問合せシステム(データ処理システム)[2]データ交換システム[3]データ収集システム[4]データ分配システム[5]制御システムに分類され,また情報処理装置に着目した処理形態としては,[1]時分割方式(TSS)処理[2]実時間処理[3]リモート・バッチ処理[4]ローカル・バッチ処理がある。
 データ通信システムは一つの電子計算機と電気通信回線との結合によって,離れた多数の場所において,電子計算機にアクセスし情報処理を行うものであるため,その利用は基本的にはTSS処理の方式が主体となり,その技術の開発に伴って普及発展するであろう。そして,この技術の発展を基礎として,データ通信の利用は社会経済の多種多様な要求にこたえていくと考えられる。したがって,一つのシステムであっても,仕事の種類によって種々の処理方式がとられるわけであり,処理装置や管理プログラムはこのような多彩な処理方式に対処し得る柔軟性が要求される。
(2) データ通信技術
 我が国におけるデータ通信システムは,年率約50%もの成長率を示しているが,電子計算機総数に対するオンライン化率は経年的にわずかながら上昇してはいるものの低い状態にとどまっている。
 このことは,データ通信システムでは情報処理技術自体はバッチ処理のみを対象としたシステムと比べても大差ないが,随時発生する処理要求のピークに対応しなければならないこと,信頼度の面からバックアップ機能を強化する必要があること,通信の制御などオンライン機能を強化する必要があることなど,ハードウェア,ソフトウェアがバッチ処理のみを対象としているシステムに比べ技術的にも複雑高度になり,また経済的負担も大きくなることがその理由と思われる。
 データ通信システムに関する技術は,データを処理するための技術,データを伝送し,制御し,交換するための技術及び遠隔地におけるデータの入出力技術に大別される。
ア.情報処理技術
(ア) ハードウェア
 IBM-360の出現以来,電子計算機技術は,いわゆる第4世代の技術を目ざして技術開発が進められている。現在までのところ飛躍的な技術発展はないが,MSI(中集積回路)の使用,制御方式の改善など処理能力の増大,記憶素子の高速・高密度化あるいはIC化,か動性,信頼性の高度化などの技術の開発実用化が着実に進められている。
 電子計算機の大型化は,処理速度の向上,主記憶装置の大型化,周辺装置の拡充の方向で進められており,処理速度では平均命令実行時間として数100ナノ(1/109)秒程度の実用大型機が現れている。
 補助記憶装置の開発も盛んであり,磁気記憶によるものでは,磁気ディスクパック装置でパック当たり100メガバイトのものが実用化されている。今後,情報案内・検索などのデータベースシステムが重要な位置を占めるが,このため経済的な超大容量の記憶装置に対する研究開発が進められている。
 電子計算機が大型,複雑になるに従い,保守上の困難性が増大し,また,オンラインシステムでは従来のバッチ用のものより高い安定度が必要となってきており,電子計算機の信頼性,可用性,保全性の向上についての検討が進められている。
 この種の技術は,将来のデータ通信の普及と障害時における影響の大きさ,保守要員の供給問題などを考慮すると,長期的展望にたって技術開発を推進する必要があろう。
(イ) ソフトウェア
 データ通信システムにおけるソフトウェアには制御プログラム,通信制御プログラム,言語プロセッサ,ユーティリティプログラム,アプリケーションプログラムがあるが,これらの良否は直ちにシステムの性能を左右する。このため,電子計算機利用高度化計画などによりソフトウェアの開発の推進が図られている。
 ソフトウェアの技術開発の面からとらえると,将来オンラインシステムとして重要な位置を占めると考えられるデータベース管理システムについては,概念を含めて広く検討が進められている。現在はバッチ処理用のものが多く実用化されているが,オンライン用のものについては研究実用化が進められている段階といえる。また時分割方式の機能を拡大し,あるいは利用を容易にするための技術,例えば仮想計算機に関する技術,プログラム言語の違いを吸収する多言語処理技術についての研究が進められている。一方ソフトウェアをハードウェア化し,処理能力を向上させるとともに,プログラム作成上の問題を解決するための研究の動向が注目されている。
(ウ) 通信制御
 オンラインシステムは遠隔地での入出力を行うため,これを能率的に行う必要があるが,そのための技術は我が国においては諸外国に比べ必ずしも満足し得る状態にない。将来電子計算機間の通信や多様なシステム形態を考えるとき,通信制御技術に関する技術開発は最も重点をおくべきものの一つであろう。
イ.データ伝送技術
 データ通信の利用拡大に伴い,データ端末装置と電子計算機間,電子計算機相互間などのデータ伝送は多様なものになってきており,このため各種のデータ伝送方式の開発が進められている。
 現在,電電公社でサービスを提供しているデータ伝送の種類は,
 [1] 音声帯域内データ伝送
   200b/s,1,200b/s,2,400b/s,4,800b/s
 [2] 広帯域データ伝送
   48kb/s
 [3] 電信型データ伝送
   50b/s,100b/s
である。データ通信システムの普及に伴い,ファイル転送,システム間通信,ディスプレイ端末など高速データ通信に対する需要が増えているので,音声帯域回線を用いたデータ伝送の高速化技術の研究が進められており,音声帯域でのデータ伝送の限界とみられる9,600b/sのデータ伝送の実用化も間近い。
 48kHz,240kHzなどの広帯域回線を利用した高速データ伝送方式については48kb/s回線は既に実用化され,240kb/sの高速データ伝送方式については実用化の検討が進められている。
 電話を伝送するために開発されたPCM方式は,ディジタル伝送方式であるので,同じディジタル信号であるデータの伝送に適しており,能率のよいデータ伝送が可能である。既に,電話のために実用化されているPCM-24方式によって,200b/sから9,600b/sのデータ伝送を行うための機器の実用化の検討が進められている。
 また,既設のFDM伝送路の60ch(又は360ch)分の帯域を利用したPCM-FDM変換方式や,既設マイクロ波回線の電話用の帯域の下部の空帯域を利用し経済的にデータ伝送を行う方式も検討されている。
 情報化社会が進んでくると,端末とセンター間の通信と共にセンター間の通信が行われ,総合的なデータ通信網が構成されると考えられる。現在我が国をはじめ,諸外国においても電話交換網がデータ交換に使用されているが,従来のデータ通信の多様な使用形態を考えるとき,伝送速度,データ誤り率,接続時間,網のもつサービス機能などの面で電話交換網は,十分満足し得るものでなく,データ通信のための新しい通信網が必要と考えられている。このため各国においてディジタル伝送技術を用いた新しいデータ網の研究が進められており,我が国においても電子計算機間を結ぶための通信網に関する検討が,情報処理学会をはじめ各方面で進められている。公衆回線にも使用し得るものとして,データを一定の大きさのパケットとして交換する方式を取り入れ,PCM技術,電子交換技術を利用した蓄積機能を有するディジタルデータ網の実用化の研究も進められており,ここ数年のうちに実用に供されるものと期待されている。
ウ.データ端末技術
 データ端末装置は,データ通信システムにおける人間とシステムの接触点であり,またシステムコストに占める割合が30〜50%に及ぶことから,この分野の技術開発はデータ通信の発展に大きな影響を及ぼすものである。このためデータ端末装置は使いやすさと経済化をねらって多種多様なものが実用化されている。
 端末機は従来は専門のオペレータが端末機室等で操作するものであったが,データ通信の発展に伴い専門家でない人達が事務室内等で使用するため,操作の容易さや静粛さが要求されるようになった。このためノンインパクト方式のプリンタの実用化がなされるとともに平面的な表示素子,例えば液晶やプラズマを使用する表示素子の研究が進んでいる。
 速度の面でもデータ伝送技術と同様に高速化が進められているが,一方電話回線に音響カプラで結合する低速で簡易低廉なものも実用化されている。
 また,端末機が処理機能をもつ,いわゆるインテリジェントターミナルは,システムの総合的な経済性を上げることができる可能性を有するため,各方面で研究開発が進められている。
エ.標準化
 データ通信が将来更に広く普及するためには,量産化等により機器の経済化が図られるばかりでなく,利用者が選択して使えるのが望ましく,また,情報を自由に交換し得る態勢が必要である。
 更に,データ通信は総合的なシステムであり,データの交換,システムの接続等が必然的に必要なため,早い時期に適切な標準化を進めることが必要である。
 現在,データ通信における標準化は,国際的にはCCITT及び国際標準化機構(ISO)によって進められている。国内的にもJIS化が進められているが,主として情報処理の比較的狭い範囲のものであるので,今後総合的なシステムの立場から積極的にこれを推進する必要がある。

 

 

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