昭和48年版 通信白書

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3 国際電気通信連合(ITU)

(1) 概 要
 1837年電信が発明され,やがて電報が国際間に送受されるようになると,国家間の協定がどうしても必要になった。かくて,1865年欧州の20か国がパリに集って,国際間の電報の取扱いを円滑にするため設立したのが万国電信連合である。更に,19世紀の末葉,無線による遠隔地間の通信が実用化され,通信が電波にのって容易に国境を越えることになり,1906年ベルリンにおいて27か国の参加を得て最初の国際無線電信会議が開かれ,国際無線電信連合が結成されたが,1932年のマドリッド会議において万国電信連合と統合されて国際電気通信連合となった。
 1947年米国のアトランティック・シティにおいて開かれた全権委員会議において,ITUの目的,組織等を定めた国際電気通信条約の内容が一新され,国際連合との協定によってITUは国際連合の専門機関として新発足した。
 ITUは,すべての種類の電気通信の改善及び合理的利用のための国際協力の維持増進並びに技術的手段の発達及び能率的運用の促進を目的としている。本部はジュネーブにあり,連合員の数は47年度末現在144である。
 ITUの組織としては,連合の最高機関であり,一般政策を決定し,条約を改正するため,おおむね6〜8年ごとに全連合員の代表を集めて開かれる「全権委員会議」,業務規則の改正を主たる任務とする「主管庁会議」,全権委員会議から全権委員会議までの間におけるITUの事務の運営を監督する「管理理事会」(全権委員会議で選出された29の理事国で構成)のほか,常設機関として「事務総局」,周波数割当の国際的承認及び周波数の登録を行う「国際周波数登録委員会(IFRB)」,無線通信に関する技術・運用問題を研究する「国際無線通信諮問委員会(CCIR)」,電信・電話に関する技術・運用・料金の問題を研究する「国際電信電話諮問委員会(CCITT)」がある。
 我が国は1879年にITUの前身である万国電信連合に加盟して以来,引続き連合員としての地位を保ってきたが,1959年のジュネーブ全権委員会議において管理理事会(1947年に創設)構成員に選出され,連合の運営・監督活動に参画することとなった。1965年のモントルー全権委員会議では,連合の法的基礎を確固たるものとするため国際電気通信条約を憲章化すべしとの我が国の提案が採択され,1973年秋のトレモリノス全権委員会議で結論が出される見込みである。
 ITUの技術協力活動についても,我が国は技術先進国として,専門家の派遣,各種セミナーの実施及び諮問委員会等における研究活動への寄与等を通じて積極的に貢献している。
 ITUには政府以外に一定の資格で電気通信事業体,工業団体等が会議・会合に参加することができるが,我が国においては,電電公社,国際電電,NHK,日本民間放送連盟が認められた私企業として,また,通信機械工業会,電子機械工業会及び通信電線線材協会が工業団体として参加し貢献している。
 また,我が国からITUへの職員派遣も1956年に始まり,47年度末で7人であるが,今後なお一層の増加が望まれるところである。
(2) 47年度の活動と我が国の貢献
ア.宇宙通信に関する新国際規定の実施
 電波は国境に関係なく伝搬する特性を有し,国際的にこの有効な利用を確保するためには,一定の国際的規律が必要である。電波の使用に関するこの国際的規律は,国際電気通信条約にその基本的事項を定め,条約の実施上必要な技術的細目事項については,同条約に附属する無線通信規則に定められている。
 電波の規律に関する国際的な動きの一つとして,宇宙通信に関する無線通信規則の改正規定が1973年1月1日に発効し,実施されたことがあげられる。この改正規定は,1971年6月7日から7月17日までスイスのジュネーブにおいて開催されたITUの世界無線通信主管庁会議において採択されたもので,今後約10年間の宇宙通信の発展を予測して,これに必要な周波数帯の分配,技術基準,国際間における周波数使用の調整手続等に関する規定を含んでおり,今後の宇宙通信の秩序ある発展に大いに寄与するものと期待される。
 我が国は,同主管庁会議に28名からなる代表団を送り,我が国の今後の宇宙開発に必要な周波数帯の確保を図るとともに,国際的に妥当な技術基準,調整手続等の制定に寄与した。
 今回実施された改正規定の概要は次のとおりである。
(ア)周波数帯の分配
 各衛星業務の運用に支障のないよう周波数帯分配表を改正するとともに,分配する周波数帯の上限を40GHzから275GHzまで拡大した。特に,放送衛星業務,地球探査衛星業務,海上移動衛星業務及び航空移動衛星業務に対して,初めて周波数帯が分配され,これらの衛星業務の実現が促進されることとなった。
(イ)衛星業務に関する技術基準の設定
 無線通信に使用することができる周波数スペクトラムには限りがあり,また衛星業務は近年急速に発展した業務であるので,これに対する周波数帯の分配の多くは,在来の地球上の無線通信業務との共用を条件として行われる。このため両者の業務の間で相互に混信することなく,周波数の安全な共用を確保するために無線局の発射する電波の強さ,発射の方向等についての制限が強化され整備された。更に,最近各種の衛星業務は静止衛星(地球の赤道面上,地球から約3万5,800kmに円軌道を有し,かつ,地球の自転軸を軸として地球の回転と同一方向及び周期で回転する衛星)を使用することが多くなってきており,その結果として静止衛星軌道に多くの衛星が位置することとなるので,衛星通信系相互間の混信を排除するために特別の規定が新たに設けられた。
(ウ)周波数使用の管理及び手続等
 一般に各国がある周波数を使用しようとするときには,IFRBにこれを登録し,国際的承認を確保することになっている。しかしながら,衛星業務の使用周波数の場合には,地球上の無線通信業務及び他の衛星通信系との間の混信を回避することがより重要であるので,この登録手続をとるまえに,関係国との間で,その使用に関し事前の調整を行うことが要求される。特に今回の改正により,衛星通信系を新設しようとするときは,運用前5年以内に,その情報を公表し,これに基づき自国の衛星通信系と混信等のおそれがあるとして意見を送付した国と基本的な問題(周波数の使用方法,静止衛星軌道上の位置等)について調整を図ることが義務づけられた。
 なお,放送衛星業務の宇宙局(地球の大気圏の主要部分の外にあり,又はその外に出ることを目的とし,若しくはその外にあった物体上にある局)については,当分の間,上記の手続により調整をしなければならないが,将来においては,別に無線通信主管庁会議において定める協定に従って設置し,運用することとなっている。
イ.CCIR活動の概要と成果
 CCIRは,現在13の研究委員会(SG)により構成されているが,研究問題の専門化,多様化に伴い効率的な活動を行うため,これらSGの下に合計24の中間作業班(IWP)が設けられている。
 1972年には4月及び7月の2回,ジュネーブでこれらSGの中間会議が開催された。
 この会議は,1971年2月開催の特別合同研究委員会会議,同年6月開催の宇宙通信に関する世界無線通信主管庁会議及びCCIR第12回総会(1970年ニューデリー)以降の研究成果を受けて開かれたものであり,また1974年のCCIR研究委員会最終会議,海上移動業務に関する世界無線通信主管庁会議及び長・中波放送用周波数割当計画に関する第1地域及び第3地域合同主管庁会議に対する前しょう戦として,極めて重要な意義をもつものであった。
 この会議に対し我が国からは多くの文書を提出したが,これらの大部分がそのまま,又は修正の上採択された。主なものは,VHF海上移動業務に使用している電波の周波数間隔を狭めるために必要な装置の特性,通常のVHF海上移動業務と同一周波数帯を共用して船舶に対して宇宙通信システムを導入することの可能性,静止衛星軌道の有効利用に関する諸問題,放送衛星業務と地上業務との周波数共用等に関する提案であり,大部分が上記の宇宙通信主管庁会議の結果,詳細な技術検討についてCCIRへ付託された問題に関連するものである。
 この会議には最近における技術開発の急速な発展を示す提案が各国から多数なされたが,注目すべき特色は,アナログ情報の量子化技術に関する新研究問題が伝送部門のみならず放送部門についてもとりあげられたことであり,これは今後の電波技術の一つの方向を示すものといえる。なお,この会議で採択された文書は,いずれも1974年に開催される一連の上記会議に対する技術的基礎を与えるものである。
ウ.CCITT活動の概要と成果
 1972年12月ジュネーブにおいてCCITT第5回総会が開催され,前回の総会(1968年)で定められた研究課題について全研究委員会が最終報告を行い,必要な改正,決定を行った。我が国はほとんどの研究委員会に対し積極的に高水準の寄与文書を提出してきたが,なかでも将来の全世界自動電話サービスに使われる第6信号方式について,同方式に特有の現象である信号の逆転及び二重受信を考慮して不合理な信号の排除,待ち合わせ等を系統的に行う手法を示した合理性検査表の提案は各国から高く評価され,仕様書の附録としてとりいれられた。
 また、各研究委員会の議長,副議長の選出も行われたが,我が国からは5名の副議長が選ばれ,次の総会までの間のCCITTの研究活動の中心的役割を果たすこととなった。

 

 

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