昭和51年版 通信白書

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第3章 記録通信の動向と課題

 人間社会における通信は,意志伝達の手段として,身ぶり,手ぶり,続いて言語による会話をその源とする。しかし,社会の組織化を促し,文化を発展させたものは,文字の発明により可能となった遠隔地通信及び各時代にわたる記録の伝承であろう。文字の発明は古代文明の発生とともにみられ,文字による通信すなわち文書に化体された情報の伝達が,当時から国家の形成に不可欠の手段として重要視されてきた。そして,その後近代に至るまでの長い歴史において,文字による通信が通信の大部分を占めてきた。なかでも,1454年グーテンベルグの発明した印刷術,1814年産業革命の一成果として出現した動力印刷機は,それぞれそれまでの文字情報の量を飛躍的に増大させるとともに,新聞,出版業の発展により,社会・文化を向上させる役割を果たした。また,近代国家の成立とともに郵便制度が各国において整備されたことにより通信が広く民衆の利用するところとなり,近代工業化社会の形成に大きく寄与してきた。このような文字に化体された通信を記録通信と名付ければ,近代に至るまでの文明の歴史の大部分はまさに記録通信の時代であったといえよう。
 19世紀中葉における電気通信の登場は,通信史上画期的なことであった。これにより通信は初めて交通から分離,独立し,距離,時間の克服が人類にもたらされた。まず,最初に文字を符号化しこれを電気信号により送受信する電信が現れ,時間と距離を克服した記録通信として急速に普及した。続いて,その後の電波の利用をはじめとする多彩な電気通信技術の発展は,ラジオ放送,テレビジョン放送,電話等数多くのメディアを生み出し,最近では記録通信メディアの社会的機能に少なからぬ影響を与えるようになっている。例えば,個人間の通信は,文字に比べより原初的形態である会話による通信を広範に可能とする電話に移りつつあり,その結果,郵便,電報等の通信内容あるいは社会的機能に変化を生ぜしめている。また,テレビジョン放送の普及が新聞,雑誌等いわゆるマス通信の世界に大きな影響を及ぼしたことは周知の事実である。
 しかし,最近,我が国においてファクシミリ通信の普及が着実に拡大し,その将来における発展が各方面で予想され,また,米国において郵便と電気通信を結び付けたシステムとして電子郵便が実用化され,世界の注目と期待を集めるなど,新たな記録通信メディア発展への胎動が感じられる。
 本章では,以下,通信メディア全体の中における記録通信の機能を明らかにするとともに,最近注目を浴びているファクシミリ通信等の動向を紹介することとしたい。
 

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