昭和51年版 通信白書

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2 ファクシミリ通信の成長と課題

(1) ファクシミリ通信の歴史と運営形態
 ファクシミリ通信は,電気通信回線によってコピーを伝送する通信手段として,最近急速な成長を遂げている。ファクシミリは,文字,図表,絵画,写真等を電気的手段により画素に分解して伝送し,その形状,濃淡等を原画とできるだけ近い状態で記録再現する通信方式である。ファクシミリは,原画の再現状態により二つに分類され,原画を白情報と黒情報の二つの情報に分解し,伝達するものを模写伝送,白情報と黒情報の他に中間調情報を持つものを写真伝送といっている。
 ファクシミリの歴史は古い。1843年イギリスの電気技師アレキサンダ・ベインによって発明されたと伝えられるが,これはグラハム・ベルによる電話機の発明より30年も前のことであった。しかし,その後におけるファクシミリの進展は遅々としており,本格的な普及の兆しを見せ始めたのは,1960年代に入ってからのことである。
 我が国にファクシミリ通信に関する制度が導入されたのは,昭和3年の専用写真電信制度の創始が最初であった。これは,当時の大阪毎日新聞社,東京朝日新聞社及び日本電報通信社からの要請に基づいたもので,新聞社又は通信社にかぎり逓信省の市外専用電話線に利用者の写真電信機を接続して利用することができた。これに次いで,5年に写真電報が実施され,電報の形態ではあるが,一般の者も写真伝送を利用することができるようになった。
 一方,模写伝送は写真伝送に比べかなり遅れて実施され,21年に模写電報制度が,また,翌年に専用模写電信制度が創始された。
 専用写真電信及び専用模写電信は,28年の公衆電気通信法施行後においても専用制度の一環として位置付けられ,今日に至っているが,写真電報は36年に,更に模写電報は47年に廃止された。
 加入電話回線を利用したファクシミリ通信については,専用回線を利用するほど通信量の多くない者から加入電話の通話料程度の料金で随時に通信を行いたいというニーズがあり,38年4月から準専用制度が実施された。この制度は,自動接続通話の市外通話区間に限り,特定の端末装置間のみの通信を認めており,利用できる者も原則として一の契約につき1人に限るという制限的なものであった。ところが,46年5月の公衆電気通信法の改正により公衆通信網が一般に開放されたことに伴って,加入電話の接続機器の一種としてファクシミリ装置の自営が認められるようになり,これを契機として,我が国のファクシミリ通信は急速な発展の緒につくこととなったのである(第1-3-10図参照)。
 また,電電公社では,これらの電話専用線等を利用したファクシミリのみではなく,より高速で精密な模写伝送,写真伝送,新聞紙面伝送が利用できるように12kHz,48kHz及び240kHzの周波数帯域の回線等についてもサービスを提供している。更に,48年7月から加入電話の接続機器の一種として電話ファクスをサービス提供しているなどファクシミリに関する公衆電気通信サービスにも多様な形態がある。
 その他,有線電気通信法や電波法によって,公衆電気通信事業者以外の者が自己の通信のために自営電気通信設備を設置することが認められているが,これに基づいて国鉄等の自営電気通信網においてもファクシミリ通信が行われている。
 このような歴史的沿革を経て,現在我が国におけるファクシミリ通信の実施形態は第1-3-11表のとおりとなっている。
(2) ファクシミリ通信の利用動向
 ファクシミリ通信の歴史が古いことは前述のとおりであるが,その普及は遅々として進まず,長期間停滞状況にあった。
 その理由としては,[1]装置の価格が高かったこと,[2]通信回線の伝送コストが他の通信メディアに比較しで高かったこと,[3]公衆通信網の利用が制限され,原則として専用回線以外は利用できなかったこと,[4]装置の操作が複雑であったことなどが上げられる。
 このような原因で長期間停滞状況にあったファクシミリ通信が近年急速な普及を続けているが,その理由として次のようなものをあげることができる。
 第一に,長年にわたる技術改善の積み重ねの結果,性能及び操作性の飛躍的向上,伝送技術の発達,製品コストの低下等ハードウェアの目覚ましい改善が図られたことである。例えば,通信速度について見れば,現在一般に使用されているファクシミリはA4判原稿1枚を4分ないし6分で送信するものが大部分であるが,最近,高速で通信が可能なしかも低価格な装置が発表されてきており,技術開発の急速な進展には注目すべきものがある。
 第二に,46年の公衆電気通信法の改正により公衆通信網が一般に開放され,ファクシミリ装置も加入電話の接続機器として公衆通信網への接続を認められたことがあげられる。その結果,通信量に応じた料金が課されるようになったため,通信量の少ない利用者は高額の専用回線を使用する必要がないだけでなく,端末装置間のインタフェースが一致すれば公衆通信網に接続している他のファクシミリ装置と自由に通信することが可能となった。
 第三に,最近普及しているファクシミリ装置は,操作が簡単で加入電信のようにオペレータの配置を要しないことも大きな要因にあげられよう。
 このような理由で成長を始めたファクシミリの中で現在最も多く利用されているのが専用回線を使用したものであり,これに次いで加入電話回線に接続されるファクシミリが続いている(第1-3-12図参照)。加入電話回線に接続されるファクシミリは,その歴史が浅いにもかかわらず急速な成長を遂げており,今後におけるファクシミリ利用の主流になるものと予測される。
 次に,ファクシミリの普及状況を欧米先進諸国と比較すると,我が国の約2万3千台は米国の約10万2千台に次いで世界第二位となっている(50年度末数値)。これに次いで英国3,200台,西独2,800台,フランス1,000台となっており(49年度末数値),我が国におけるファクシミリの普及状況は,発展の緒についたばかりとはいえ,世界的に見れば高水準に位置するものといえよう。
 ファクシミリを導入する際の導入理由をみれば,利用者が最も重視しているのは「迅速さ」である。ファクシミリの導入理由として,[1]迅速さ,[2]手軽さ,[3]正確さ,[4]図面等の複雑な情報の伝達が可能の4点を挙げ,ファクシミリ利用者に対してその優先順位を調査した結果,全体(131サンプル)の38.2%が第一の理由として「迅速さ」を挙げている。その他,「正確さ」29.8%,「図面等の伝送」21.4%,「手軽さ」9.9%が導入の際の第一の理由として上げられている。
 また,1端末1日当たりの送信文書は38枚である。これをシステム規模との関連でみると,端末数が増加するにつれて文書量が増える傾向にある(第1-3-13図参照)。
 次に,電話ファクス(電電公社直営)によるファクシミリ通信に関する調査によれば,ファクシミリ通信の送信内容は,「社内文書」(57%),「報告書」(54%),「連絡メモ」(54%)及び「帳票」(53%)が大きい割合を占めている(第1-3-14図参照)。
 また,同調査によれば,電話ファクスの送信先は同一企業内の割合が高く,「同一企業内への送信が10割」というものが76%を占めており(第1-3-15図参照),また,送信先を市内と市外の割合でみると,市外の割合が高く,「市外への送信が10割」というものが63%を占めている(第1-3-16図参照)。
(3) ファクシミリ通信の技術動向
 ファクシミリの普及は,新技術の開発に負うところが大きい。前述のように,従来のファクシミリ装置には,価格,通信速度,操作性等の面で欠点があったが,最近の電気通信技術の目覚ましい発達により,これらの諸問題点が次々と解決されている。
 ファクシミリに関する技術のうち重要なものには,帯域圧縮技術の発達,高速度変復調装置の開発,静電記録方式の採用,部品の固体電子化等が上げられる。
 帯域圧縮技術とは,信号を減らすことを目的とした技術であり,これによって送受信時間の短縮が可能となった。これは,ファクシミリにおいては文字を読み取った信号の発生パターンに独特の性質があることを利用した技術であり,各種の帯域圧縮方式が考案されている。現在では,読み取った信号を約6分の1にまで減少させる方式が開発されており,送信信号量の大幅な減少が図られている。
 高速度変復調装置は,帯域圧縮技術のみでは装置の高速化に限度があるため,伝送速度自体の高速化を目的として開発されたものである。現在では,加入電話網に接続できる4,800b/s,9,600b/sの変復調装置が開発されている。
 静電記録方式は,受信紙の表面に薄い絶縁膜を作り,記録針から電圧を加えることにより電荷を蓄え,これに微粒子を定着させる方式であり,放電記録紙に比べ異臭の発生がなく,また,より鮮明な受信画が得られるという長所を持っている。
 また,集積回路技術の発達により,記録部,読取部が機械式の部品から固体電子化された部品へと改良されている。その結果,装置の自動化や高速送受信が可能となっただけでなく,故障の少ない安定した装置が製造されるようになった。
 このような技術開発の最も著しい成果は,高速化という形で表われている。従来,A4判原稿1枚を6分ないし4分で送信を行うファクシミリ装置が大部分を占めていたが,最近,1分以下で送信を行う装置が出現し,大幅な処理能力の向上が図られている。A4判原稿1枚を4分で送信したとすれば,1日8時間使用しても,わずか120枚しか送信できないが,30秒で送信することができれば,960枚も処理できることとなり,多量の送信原稿が発生する企業では,高速ファクシミリは事務の合理化に大きな役割を果たすこととなろう。
(4) ファクシミリ通信の今後の課題
 前述のとおり,現在,ファクシミリ通信は大きな成長を遂げつつあるが,将来ファクシミリを国民生活の向上や企業活動に一層役立たせるには,どのような課題が残されているであろうか。
 まず第一に,相互通信を可能とするための規格の標準化があげられる。
 現在,各メーカが独自の方式で装置を製造しているため,ファクシミリ相互間の変復調方式,制御手順等が異なり,異種ファクシミリ間では相互通信が不可能となっている。
 この問題については,国際的にも懸案事項となっており,国際電信電話諮問委員会(CCITT)において国際的な立場で相互通信を可能とするための規格を作成することとしており,毎年活発な討議がなされ,着実な成果を上げている。CCITTでは,電話型回線を使用したファクシミリ装置をグループ1,グループ2,グループ3と機能により3種類に分類し,それぞれのレベルに適した変復調方式,制御手順等の規格を作成している。
 我が国においても,郵政省では行政機関相互の接続を可能とし事務の効率化を図るため,47年度からCCITTの動向を十分考慮しつつ行政用標準ファクシミリ装置の開発を進めており,関係省庁と協力して将来のファクシミリ標準化への基盤整備を行っている。
 次に大きな課題として提起されるのは,一般家庭向け簡易形ファクシミリの開発である。
 加入電話は50年度末3,170万加入となり,住宅用加入電話の普及率も100世帯当たり62.8台となっている。また,自動化も進み,ダイヤルすることにより,全国いたるところに即座に通話ができるようになっている。
 このような電話の普及は国民生活の向上に寄与しているが,電話には記録を残すことができないという欠点があり,これを補うため,家庭でも手軽に,利用できる簡易形ファクシミリの開発が望まれている。だれもが容易に操作できる小形の簡易形ファクシミリが一般家庭に設置できるような価格で提供できるか否かが,今後のファクシミリ普及の大きな鍵となるであろう。
 電電公社では48年から電話回線を利用したファクシミリとして電話ファクスを提供しているが,上記のような観点から,簡易なファクシミリの開発研究を行っており,その研究成果が待たれるところである。
 最後に電子計算機と接続されたシステムへの移行が課題となろう。従来,ファクシミリ装置の使い方は,1対1に接続した対向通信を主目的としていたが,今後はファクシミリ装置と電子計算機とを結合した総合ファクシミリ通信システムへの発展が予想されよう。
 ファクシミリ装置を端末とし,中央に電子計算機を設けシステム化を図ることにより,1通の文書を複数の相手に送出すること,指定された日時に送出すること,装置障害時等に代行受信を行うことなどの新しいサービスが実施できるようになり,現在行われているデータ通信と同様の形態のシステムが,データ通信端末装置に比べ操作が容易なファクシミリ端末装置により可能となるであろう。
 このようにファクシミリは,技術開発の進展により今後多様な発展が期待されている。また,日本は漢字を使用している国であり,文字の種類の少ない言語で,かつタイプライタが普及している欧米諸国と異なり,基本的にはファクシミリ通信の利用に適しているという文化基盤があり,今後一層の飛躍が期待されているところである。

第1-3-10図 ファクシミリ設置台数の推移

第1-3-11表 ファクシミリ通信の諸形態

第1-3-12図 ファクシミリの種類別構成(50年度末現在)

第1-3-13図 システム規模別送信文書量(1日1端末当たり)

第1-3-14図 電話ファクスの送信内容(51年3月)

第1-3-15図 電話ファクスの同一企業内への送信割合(51年3月)、第1-3-16図 電話ファクスの市外への送信割合(51年3月)
 

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