昭和51年版 通信白書

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9 漁 業 用

 我が国は世界屈指の漁業国であり,漁業は国民に動物性タンパク質を安定的に供給する重大な使命をになっているが,近年漁業環境の悪化と200カイリ経済水域設定の動きは,いまや国際的な大勢を占めていることから,その前途は誠に厳しいものがある。加うるに,燃料等の漁業用資材価格の高騰と労働力の不足は,漁業経営に深刻な影響を与えている。特に,遠洋漁業の不振は,漁船の建造へも影響を及ぼし始めており,また,漁船の外国への売船の増加と相まって50トンを超える大中型漁船の船舶局は減少の傾向にあるが,一方10トン未満の小型漁船の船舶局は沿岸漁場及び中小漁業の振興を図るための施策の拡充実施に伴ってむしろ増加の傾向にあると言える。
 漁船の船舶局の局数は,50年度末には4万4,525局に達し,その普及状況は第2-3-24表のとおりである。
 これらの漁船の船舶局の行う無線通信は,海上における唯一の通信手段として,船舶の航行の安全及び人命財産の安全に必要欠くことのできないものである。特に漁船は,船型がおおむね小型であるにもかかわらず,出漁海域が広範にわたっており,かつ,洋上で操業するという特殊性をもっているので,無線通信の果たす役割は極めて大きく,漁場で能率よく操業するためには,漁海況,気象,市況等情報の入手又は操業の打合せ及び漁獲物の水揚げ等漁業経営の合理化を図るための通信が極めて大きな比重を占めている。また,乗組員の家族との安否に関する公衆電報の取扱いも漁船の運航に欠くことのできない通信の一つである。
 その使用する電波は,漁船の操業形態及び操業海域によって異なるが沿岸漁業では27MHz帯のDSB又はSSBの電話,沖合漁業では中短波帯の電信,電話そして遠洋漁業では短波帯の電信,電話が主に使用されており,海岸局及び船舶局相互間で通信を行っている。現在,漁船の船舶局が使用する電波は27MHz帯150波,中短波帯102波,短波帯308波,VHF帯26波である。
 次に,漁業用海岸局として,遠洋漁船との間に短波無線電信による漁業通信を行うことを主目的として,37年4月,千葉県松戸市に開設された中央漁業用海岸局は,沖合漁船向けに漁海況ファックス放送並びに無線電信及び無線電話による漁海況放送を行うとともに,漁業通信の合理化を図るため,短波帯における狭帯域直接印刷電信(テレプリンタ)通信をも行っている。
 また,全国の主要漁業根拠地には,漁業協同組合又は法人若しくは任意組合等の利用団体が開設する漁業用海岸局と,国(水産庁)又は地方公共団体が開設する漁業の指導監督用海岸局とがあり,所属の船舶局と漁業通信又は公衆通信等を行っており,人命財産の安全と漁業経営の向上を図っている。これらの海岸局は,その所属する漁船の船舶局の操業海域,漁業種類別等に対応してその設備の内容又は規模を異にしており,所属船舶局の漁種が,複雑で操業海域が遠洋,近海,沿岸等各海域にわたる海岸局は,短波帯,中短波帯あるいは超短波帯の周波数を併設している。近年10トン未満の小型漁船のDSB27MHz帯1Wの海岸局が増加の傾向にある。
(1) 沿岸漁業及び沖合漁業の無線通信
 沿岸漁業の漁船特に10トン未満の小型漁船の船舶局は,その漁船総数に比べて無線設備を装備する割合はいまだ9.0%と極めて低いが,主としてこれらの漁船に使用される27MHz帯1wDSBの設備は,価格の低廉,機器の小型化,操作方法の簡便等の理由からこの種漁船の船舶局は今後とも増加の傾向にあり,その船舶局数は2万9,422局であって,全漁業用船舶局4万4,525局の66.1%を占めている。これらの漁船の行う通信は,船間通信では漁海況の交換,投網,揚網の際の連絡が主で,また,同一の漁場に多数の漁船が集まる入会い操業の場合は,この船間通信は操業に欠くことのできないものとなっている。しかしながら,これらの漁船の船舶局数に比べ使用できる周波数の数が少ないことから通信のふくそうがはなはだしく,早急に対策を講ずる必要に迫られている。
 小型機船底びき網,まき網,さんま棒受け網,いかつりなどの漁業で,沿岸又は近海に出漁する50トン前後の中型漁船は,中短波帯の電信,電話あるいは短波帯の電信,電話によって漁業通信を行っており,その普及率は10トン以上100トン未満の海水動力漁船1万4,178隻のうち1万1,880隻が無線設備を装備しており,80.9%となっている。
 また,最近定置網漁業及びまき網漁業において,網の中の魚群の情報を得るため,遠隔制御魚群探知用無線局(テレサウンダ)の普及が目立っており,漁業の省力化並びに漁獲の拡大を図っている。これは40MHz帯の電波を使用するものであって,各地の定置網及びまき網漁業に従事する漁船の船舶局に設置されている。
(2) 遠洋漁業の無線通信
 我が国の遠洋漁業に従事する漁船の船舶局は,その操業海域が太平洋全域から大西洋,地中海,インド洋と世界の全海域に及んでおり,まぐろ,かつお漁業,底びき網漁業,捕鯨業及びまき網漁業等を行っているが,いずれも操業期間は1年前後と長期にわたっているため,無線通信は極めて重要な役割を果たしている。
 これらの船舶局は,主として短波帯の電信又は電話を使用しているが,短波帯は世界的に共通に使用されているため混信が多いこと,操業海域によっては電波伝搬の特性から我が国の海岸局と直接通信を行うことが困難な場合も少なくない。また,まぐろ漁業において,中短波帯を使用するラジオ・ブイが有効に使用されており,1隻当たり6〜7台を設置してはえなわ,流し網の位置確認に利用されている。50年度末現在,これらの漁業に従事している船舶局は5,334局であり,また,これらの船舶局を通信の相手方としている漁業用海岸局(12MHz帯以上の電波を装備しているもの)は67局である。これら遠洋漁業に従事する漁船の船舶局の漁業通信の取扱状況を中央漁業用海岸局についてみると第2-3-25表のとおりである。
(3) 母船式漁業の通信
 我が国の母船式漁業には,南氷洋捕鯨業と母船式北洋漁業(さけ,ます,かに,底魚,捕鯨)があるが,年々国際的規制も厳しくなっており,漁獲量のわくも減少しているが,無線通信は,出漁船の安全確保と操業の円滑化に役立っている。
 母船と独航船又は捕鯨船、独航船相互の船間通信には,27MHz帯,中短波帯及び短波帯が使用されている。
 母船式漁業においては,その通信量が膨大であることと,限られた通信可能な時間帯にこれらの通信を迅速にそ通させることが必要であるため,短時間に多量の通信そ通が可能である狭帯域直接印刷電信が導入され,漁業通信の省力化と能率化に役立っており,今後の普及が期待されている。そのほか,ラジオ・ブイ(セルコール・ブイ,レーダ・ブイ等)を使用して漁獲の向上を図っている。

第2-3-24表 漁船の船舶局の普及状況(50年度末現在)

第2-3-25表 漁業用海岸局の通信取扱状況(中央漁業用海岸局1日の平均)
 

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