昭和51年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

第2節 宇宙通信システム

1 宇宙通信の現状

(1) 国際動向
 国際通信用の衛星通信システムとしては,世界93ヶ国の参加するインテルサット及びソ連,東欧圏を中心とするインタースプートニクとがある。
 インテルサットは,現在<4>号系衛星7個及びより高性能の<4>-A号系衛星2個によって運用を行っているが,将来の通信需要を満たすため1979年には<4>-A号系衛星の約2倍の容量を有するV号系衛星を導入する予定である。
 インタースプートニクは,従来長だ円軌道を回るモルニア衛星を使用していたが,1974年以来静止通信衛星モルニア1S及びラドガ(スタッショナー-1)を打ち上げ運用に加えており,1980年までに合計10個の静止通信衛星(スタッショナー)を打ち上げる計画を持っている。
 また,近年は海上通信及び航空通信に衛星を導入しようとする国際的な動きが活発化している。
 海上通信については,国際海事衛星機構(インマルサット)を設立するための国際会議が数次にわたって開催され,近い将来同機構の成立が見込まれている。また,航空衛星通信システムのための共同エアロサット評価実験計画が,米国,カナダ及び欧州宇宙機関(ESA)の協同で進められている。
 このような国際通信における衛星の利用に加えて,近年は国内通信に衛星を導入する国が増加してきている。
 カナダは,1972年以来3個の国内通信衛星アニクを打ち上げ運用に供している。米国では,1974年に2個のウェスター衛星が打ち上げられたのに次いで,1975年12月及び1976年3月にはサットコム1,2号が打ち上げられた。更に,1976年5月及び7月にはコムスター1,2号が打ち上げられたほか,ここ数年内に十数個の国内通信衛星の打ち上げが計画されている。また,米国は,1976年2月に海上通信用衛星マリサットを大西洋上に打ち上げたが,6月には太平洋上にも打ち上げ,両衛星とも商用運用を開始している。
 欧州においては,西独,フランスが共同開発した実験通信衛星シンフォニーが1974年及び1975年に打ち上げられているほか,ESAは,軌道試験衛星(OTS)及び海上通信用の軌道試験衛星(MAROTS)を1977年に打ち上げるべく開発を推進している。
 開発途上国においても国内通信衛星を導入する計画が活発化しており,既にインドネシアでは1976年7月にパラパ1号が打ち上げられ,ブラジルは1978年,インドは1979年にそれぞれ独自の国内通信衛星を導入することを計画しているほか,イラン及びアラブ諸国においても衛星導入の計画がある。また,インテルサットの衛星を国内用に賃借使用して国内通信の改善に当てる国も増加してきている。
 放送衛星の分野では,まだ実用に供されている衛星は存在しないが,米国が1974年に打ち上げた応用技術衛星6号(ATS-6)は,国内での保健・教育放送実験に引続きインドでの教育テレビ実験(SITE計画)においても成功を収め,今後も開発途上国向けの衛星放送実験を行う予定である。カナダ,米国及びESAが共同開発した通信技術衛星(CTS)は,1976年1月に打ち上げられ,衛星放送実験が成功裏に進んでいる。また,ソ連は,1976年中に実用目的の放送衛星スタッショナー-Tを打ち上げることを予定しており,ヨーロッパ,インド等においても放送衛星計画が進められている。
 このほか通信,放送以外の実用分野では,気象衛星,地球遠隔探査衛星が次々と打ち上げられ,また,開発が進んでいる。
 このような世界各国における宇宙通信のめざましい発展に対応して,制度的な面においても検討が進められている。国際電気通信連合(ITU)は,1971年の宇宙通信に関する世界無線通信主管庁会議,1973年の全権委員会議及び1974年の海上無線通信に関する世界無線通信主管庁会議において,宇宙通信に関する関連規定の整備を行ったほか,さらに1977年には放送衛星に関する世界無線通信主管庁会議を予定している。ITUの機関の1つである国際無線通信諮問委員会(CCIR)においても,静止衛星軌道及び周波数の有効利用,宇宙通信に関する技術等の検討が進められている。また,国際連合の宇宙空間平和利用委員会のにおいては,直接放送衛星の利用を規律する原則の作成作業が進められている。
(2) 国内動向
 我が国の通信,放送分野の衛星の開発については2で述べるとおりであるが,これら以外にも技術試験衛星,静止気象衛星,科学衛星等の打上げが予定されている。
 このような我が国の人工衛星の開発は,内閣総理大臣の諮問機関である宇宙開発委員会が国として統一ある方針のもとに作成する宇宙開発計画に基づいて推進される。50年度決定の宇宙開発計画においては,前年度決定に引き続き,第五号から第八号までの科学衛星,技術試験衛星<2>型(ETS-<2>),実験用静止通信衛星(ECS),静止気象衛星(GMS),実験用中容量静止通信衛星(CS)及び実験用中型放送衛星(BS)の開発を引き続き進めること並びに技術試験衛星<3>型(ETS-<3>),通信衛星,放送衛星,電離層観測衛星,測地衛星,気象衛星及び地球観測衛星について研究を進めることが決定されている。
 これらの人工衛星及び人工衛星打上げ用ロケットの開発と打上げは,宇宙開発計画に基づいて,宇宙開発事業団及び東京大学(科学研究の分野の人工衛星及びその打上げ用ロケット)が行うが,GMS,CS及びBSの3衛星の打上げについては,その打上げの緊急性にかんがみ,米国に依頼して行うこととされている。宇宙開発事業団は,50年9月9日技術試験衛星<1>型(ETS-<1>)「きく」を,51年2月29日電離層観測衛星(ISS) 「うめ」を打上げることに成功したが,「うめ」については,打ち上げの約1ヶ月後に不具合が生じ以後通信が途絶した。
 このような,近年における日本の宇宙開発の進展にかんがみて,制度的な面でも対応がなされた。即ち,衛星及び衛星を利用する地上無線設備は,電波法上の無線局の免許を必要とし,無線局免許手続規則に従って免許を申請しなければならないが,この点について,51年3月同規則の改正がなされ,申請書の様式を改訂するとともに,軌道に関する事項及び衛星の諸元を明らかにすることなど新たな規定が盛り込まれた。
 また,電波技術審議会においては,宇宙通信システムにおける電波の有効利用及び監理に必要な技術的条件について検討が進められており,50年度は,静止衛星軌道・周波数の有効利用について答申が行われた。
 

第2部第7章第1節 概況 に戻る 2 実験用通信衛星・放送衛星の開発 に進む