昭和52年版 通信白書

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第2章 新局面を迎えた宇宙通信

 人類初の衛星が打ち上げられたのは,今からちょうど20年前の1957年であった。その後の宇宙開発は米国及びソ連を中心としてめざましい進展をみたが,その中で,国際通信における通信衛星の発達は特に著しいものがあった。1962年以降,米国は実験用通信衛星を次々に打ち上げ,実験を行った。この通信実験には,世界の各国とともに我が国も参画し,大陸間のテレビジョン及び電話中継実験を実施し,多大な成果をあげた。これら一連の実験成果を背景にして,衛星通信を行う国際組織としてインテルサットが設立され,衛星を利用した国際通信が商用通信として定着し,加盟国及び通信量は,着実に増加している。
 通信衛星に代表される宇宙通信とは,人工衛星,惑星探査機等の打ち上げ,利用に必要な無線通信系の総称であり,通信衛星による電話やテレビジョンの中継をはじめとして,科学衛星による観測データの伝送,気象衛星による雲写真の伝送,惑星探査機等による月や火星の写真の伝送,月上の探査機の地上からの遠隔制御等はすべて宇宙通信である。宇宙通信のうち,衛星を介して行う地上相互間通信,例えば通信衛星によりテレビジョンや電話の中継を行う場合等を特に衛星通信と呼称している。
 宇宙通信の特長としては,[1]衛星システムは創設費,保守費が地上の通信距離と無関係であり,遠距離,広範囲な通信に有利であること,[2]電話,テレビジョン等の高品質,広帯域通信が容易であること,[3]多くの地点間で同時に通信を行う,いわゆる多元接続が可能であること,[4]雨域伝搬距離が少ないため地上では使用しにくいミリ波等の高い周波数の利用が可能であること,などが挙げられる。このような特長を持つ宇宙通信は通信衛星,放送衛星をはじめとして,気象衛星,地球観測衛星等による各種サービスの提供を可能とし,人間生活におけるより高度な経済的,社会的,文化的な発展に寄与することが期待されている。
 宇宙通信の推進をはかっていく場合,常に電波の利用が不可欠であるが,電波及び静止衛星軌道は有限な天然資源であり,それらの使用に当っては能率的かつ経済的に行わなければならないことは国際的にも合意された基本的原則である。無線通信はその特性から国際性が強いが,特に宇宙通信は伝送方式からみて,この傾向が顕著であり,宇宙通信を推進するためには国際的協調が必要である。このため国際電気通信連合(ITU)において,宇宙通信に関する周波数の分配,電波及び軌道の使用に当っての技術的条件,宇宙通信システム計画に対する関係国間の事前調整方法等について各国の合意のもとに取決めを行っている。我が国の宇宙通信に関する監理もこの国際的合意を基本として行われている。
 我が国の宇宙開発は,宇宙研究分野における東京大学の観測ロケットの開発から開始されたが,44年度に宇宙開発事業団が設立されたことにより,通信衛星をはじめとする実利用分野の開発が軌道に乗り,本格的な宇宙開発が行われる運びとなった。宇宙開発は高度かつ総合的な技術の結集により可能となるものであり,そのためには多くの資金,優秀な人材,長い期間を必要とすることから,諸外国においても国が中心となって進めている。したがって,我が国においても,宇宙開発の推進の基本となる宇宙通信を発展させるためには,先行的な宇宙通信技術の開発を国が積極的に進め,国産技術の向上をはかっていくことが特に重要であろう。
 我が国の宇宙開発の現状はいまだ初期の段階であるが,52年度には実験用の通信衛星,放送衛星が打ち上げられるところまでに達した。今後は,これらの衛星の開発実験成果等を踏まえながら,社会活動,国民生活の向上に役立てる方向で,宇宙通信の進展をはかっていかなければならない。本章では,この新局面を迎えた宇宙通信について,その歩み,現状,監理の動向等を紹介することとしたい。
 

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