昭和52年版 通信白書

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第2節 進展する宇宙通信の現況

1 打上げ迫る我が国の通信,放送衛星

(1) 我が国の宇宙開発
 我が国の宇宙開発は,科学研究分野のものと実利用分野のものに大別される。このうち,実利用分野の開発においては通信,放送,気象,電離層観測衛星等の各利用機関がそれぞれの利用の実態を踏まえた研究を進め,これらが開発段階に達したときには宇宙開発事業団が開発,打上げを行うこととなっている。
 これらの宇宙開発は,総理府に設置された宇宙開発委員会が策定する宇宙開発計画を尊重して内閣総理大臣が定める宇宙開発に関する基本計画に基づき推進されているが,利用に係るものについては,利用機関において独自の開発及び研究が進められているものもある(第1-2-3図参照)。
 我が国の宇宙開発は,昭和45年初の人工衛星として「おおすみ」が打ち上げられて以来,第1-2-4表に示す各種の衛星が打ち上げられ,又は打ち上げられる予定である。
 人工衛星打上げ用ロケットとしては東京大学のMロケットと宇宙開発事業団のNロケット及びNロケット<2>型並びに今後開発が予定されている大型人工衛星打上げ用ロケットとに分けられる。
 このうち,Nロケットは,静止衛星軌道上に約130kgの人工衛星を打ち上げる能力を有し,既に技術試験衛星<2>型(ETS-<2>)「きく2号」によりその能力が実証されたが,Nロケット<2>型は約350kgの静止衛星打上げ能力,大型人工衛星打上げ用ロケットは500kg以上の静止衛星打上げ能力を目指してそれぞれ開発及び開発研究が進められている。
 通信,放送の分野の衛星計画については,郵政省が中心になってその推進を図っているところであるが,現在,これらに関し実験用中容量静止通信衛星(CS)計画,実験用静止通信衛星(ECS)計画及び実験用中型放送衛星(BS)計画の3つのプロジェクトが進行中である。
 また,これらの推進に当っては,郵政省,電電公社,国際電電及びNHKの間の連絡及び調整を図るために設置された「宇宙通信連絡会議」において必要な検討を行っている。
(2) 実験用中容量静止通信衛星(CS)計画
 実験用中容量静止通信衛星(CS)計画は,将来の国内通信需要の増加と通信形態の多様化に対処するため,実用衛星システム導入に必要な技術を開発し技術基準を確立することなどを目的とした実験用通信衛星計画である。衛星は,52年12月米国航空宇宙局(NASA)の協力を得て打ち上げるが,遷移(トランスファー)軌道から静止軌道への投入は宇宙開発事業団が行う。
 郵政省は電電公社及び宇宙開発事業団等の協力を得て,次に示す項目の実験を実施する。
 [1] 衛星通信システムとしての伝送実験
 [2] 電波伝搬における降雨の影響に関する実験
 [3] 衛星とう載機器及び地上設備の特性に関する実験
 [4] 地上系通信との混信に関する実験
 [5] 衛星管制技術に関する実験
 [6] 衛星通信システム運用技術に関する実験
 この計画は我が国の電波利用の現状殊に地上マイクロ回線が極めて混雑している実態にかんがみ,先進諸国にさきがけで準ミリ波帯(30/20GHz)による衛星通信技術を確立しようとするもので,国際的にも注目を浴びている。
 この計画は,46年頃から関係者の間で検討が進められていたが,47年9月,郵政省から宇宙開発委員会に対し,その実現につき正式に要望した。これを受けた同委員会は,検討の結果,47年度宇宙開発計画において衛星の開発研究を48年度に行うことを決定し,引き続いて48年10月に48年度から衛星の開発を行い51年度に打ち上げることを目標に開発を進める旨の決定を行った。(その後,宇宙開発計画の見直しの際52年度に変更した。)
 これに伴い郵政省は,従来の研究成果を踏まえながら進めていた衛星の概念設計及び予備設計の結果を取りまとめ,同年11月宇宙開発事業団にこれらを引き継ぎ,更に49年度には電電公社の協力を得て進めていた衛星とう載中継器のエンジニアリングモデル(EM)の開発研究成果を同事業団に引き継いだ。
 事業団では,郵政省から予備設計等の引継ぎを受けた後,本格的に開発に着手し基本設計プロトフライトモデル(PFM),フライトモデル(FM)の開発を進め,PFMについては,52年3月に,FMについては同年7月に製作を完了した。
 実験に必要な地上施設は衛星製作と並行して進められ,実験の中枢となる主固定局兼運用管制局(CS主局)は,郵政省電波研究所が鹿島支所に,衛星の追跡管制局は,事業団が勝浦と沖縄にそれぞれ建設した。このほか各種実験を効果的に行うための副固定局,可搬局等は郵政省に協力し電電公社が整備している。これらの各局間は,テレックス,ファクシミリ,電話,データ伝送回線等の地上通信回線によって相互に連絡している。設備及び実験システムの概要は,第1-2-5図のとおりである。
(3) 実験用静止通信衛星(ECS)計画
 実験用静止通信衛星(ECS)計画は,我が国における通信需要の増大に対処するために,将来の衛星通信技術を開発するための一段階として,ミリ波帯等を用いた静止衛星通信システムの通信実験及び電波伝搬特性の調査を行うとともに,静止衛星打上げ技術,追跡管制技術並びに姿勢制御技術等の確立を図ることを目的とした実験用通信衛星計画である。
 衛星は,54年2月宇宙開発事業団の種子島宇宙センターからNロケットにより打ち上げられ,東経145度の静止軌道に投入される。郵政省は電電公社,国際電電及び事業団等の協力を得て,次に示す項目の実験を実施することになっている。
 伝搬実験
 [1] サイト・ダイバシティ効果
 [2] 降雨減衰特性及び交差偏波特性
 [3] シンチレーション特性
 通信実験等
 [1] サイト・ダイバシティ切換実験
 [2] ミリ波衛星通信システムの評価
 [3] 静止衛星軌道の有効利用-CSとの共同実験
 [4] ミリ波地上局の特性
 [5] 衛星とう載用中継器の信頼性
 [6] 衛星通信システムの運用技術
 この実験計画では,ミリ波帯による衛星通信システムの通信実験を行うが,これは電波の有効利用を図るため,まだ実用の段階に至っていない周波数領域を積極的に開拓し,将来,ますます増大するであろう周波数需要に備えようとするものであって,これは世界的にも画期的な実験計画として,多くの有益なデータを得られるものと期待されている。
 また,限られた静止軌道を有効に利用するための資料を得るために本衛星に先立って打ち上げられるCSとの共同実験として現在,固定衛星通信業務用として最も多用されているマイクロ波帯(6/4GHz)による衛星間干渉実験を行うことも考慮されている。
 この計画は,42年郵政省によって計画され,以来郵政省電波研究所において研究が進められてきたが,44年宇宙開発事業団の設立に伴い,衛星本体の開発は事業団が行い,衛星にとう載される中継器については郵政省が開発研究を進めることになった。
 郵政省は,43年度以降電電公社の協力を得ながらミッション機器のEM等の試作を進めていたがこの成果を50年度に事業団に引き継いだ。
 一方,事業団では衛星本体に関する開発を進め,46年度概念設計,47年度予備設計,50年度は基本設計を行い,51年度からは,郵政省から引き継いだ開発研究成果を踏まえて衛星全体の詳細設計と,PFM及びFMの製作を行い,52年3月詳細設計を完了した。PFM及びFMについては,53年9月完成を目途に目下開発中である。
 実験に使用する地上施設は,主局を郵政省電波研究所鹿島支所に,副局を同平磯支所に設置する予定である。また,CSと共同で行う衛星間干渉実験のための関連施設も整備される予定である。施設及び実験システムの概要は第1-2-6図のとおりである。
(4) 実験用中型放送衛星(BS)計画
 実験用中型放送衛星(BS)計画は,将来の各種の放送需要に対処するために,実用放送衛星システムの導入に必要な技術開発と技術基準を確立することなどを目的とした実験用放送衛星計画である。衛星は,52年度末NASAの協力を得て打ち上げるが,遷移軌道から静止軌道への投入は宇宙開発事業団が行う。郵政省はNHK,宇宙開発事業団の協力を得て,次に示す項目の実験を実施する。
 [1] テレビジョン信号の伝搬特性に関する実験
 [2] 電波伝搬における降雨の影響に関する実験
 [3] 衛星とう載機器及び地上設備の特性に関する実験
 [4] 地上系通信との混信に関する実験
 [5] 衛星管制技術に関する実験
 [6] 衛星放送システム運用技術に関する実験
 [7] 衛星電波の受信品質の評価に関する実験
 この計画は,テレビジョン放送の個別受信を可能とする実用放送衛星に至る過程としての実験用放送衛星計画であるが,CS計画と同様の経緯で進められた。
 すなわち郵政省は,48年11月従来進めてきた概念設計,予備設計の結果を取りまとめ,これらの成果を宇宙開発事業団に引き継ぎ,更に49年度にはNHKの協力を得て進めていた衛星とう載中継器のEMの開発研究成果を事業団に引き継いだ。
 事業団では,郵政省から予備設計等の引継ぎを受けた後,本格的に開発に着手し基本設計,PFM,FMの開発を進めこれらの製作は52年7月に完了した。
 実験に必要な地上施設は,衛星製作と並行して進められ,実験の中枢となる主送受信局兼運用管制局(BS主局)は,郵政省電波研究所が鹿島支所に,衛星の追跡管制局は事業団が勝浦と沖縄にそれぞれ建設した。このほか辺地,離島を含む日本国内各地において受信を行い,実験を効果的に行うための可搬型送受信局等はNHKが整備した。これらの各局は,テレックス,ファクシミリ,電話,データ伝送回線等の地上通信回線によって連絡され,緊密な連携のもとに実験が遂行される。地上施設と実験システムの概要は第1-2-7図のとおりである。

第1-2-3図 日本の宇宙開発体制

第1-2-4表 人工衛星開発計画(1)

第1-2-4表 人工衛星開発計画(2)

第1-2-5図 CS計画実験システム図

第1-2-6図 ECS実験用地上局の構成及び実験システムの概要

第1-2-7図 BS計画実験システム図

第1-2-8表 衛星の諸元等
 

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