昭和52年版 通信白書

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2 多様化する諸外国の衛星通信

(1) 米   国
 米国の通信衛星開発の歴史は,ほとんどそのまま世界の通信衛星開発の歴史である。米国は国際衛星通信システムとして完全に定着したインテルサットにおいて主導的立場を占めるのみならず,近年は国内衛星通信システムの導入も活発に進めている。
 国内衛星通信システムの設立については,1965年以来連邦通信委員会(FCC)により種々の検討が加えられてきたが,1972年末裁定により「オープン・スカイ政策」といわれる国内衛星通信分野での自由参入が認められ,以来各社のシステムがしのぎを削っている。
 最初の国内衛星通信システムの運用は,カナダの国内通信衛星アニク2号(1973年4月打上げ)の一部を賃借して,RCA社が1973年12月に開始したが,その後1974年4月にウェスタン・ユニオン電信会社(WUT)が,米国最初の国内通信衛星ウェスタ-1号を打ち上げたのに続いて各社のシステムが登場している(第1-2-9表参照)。
 また,船舶を対象とする衛星通信システムの開発も進んでおり,1976年2月大西洋上にマリサット衛星を打ち上げ,ここに世界初の商用システムが登場した。続いて,太平洋上及びインド洋上にも同年6月及び10月に打ち上げられた。大西洋,太平洋の両マリサット衛星は,一般船舶を対象とした電話及びテレックスのサービスに利用されている。
 米国は,このような衛星通信の実用化においてめざましい進歩を示しているが,この背景には着実な技術開発への努力があり,そのために応用技術衛星(ATS)シリーズを打ち上げ,実験を行ってきた。これまでに6個のATS衛星が打ち上げられたが,このうち3個は現在も正常に作動している。なかでもATS-6は,1974年5月打ち上げられた衛星で,これまでに開発された静止衛星としては世界最大のものである。これは,通信実験として航空機との通信,衛星相互間の通信をはじめ,世界初の衛星放送実験として米国内の過疎地域を対象とした教育・保健用テレビジョン実験,また静止位置を移動してインドと共同で衛星教育テレビジョン実験を実施した。
(2) カ ナ ダ
 カナダは広大な国土を有し,南部地域と北部地域とでは開発の程度,人口の密度において大きな差があり,また,英語と仏語という二重言語国としての特殊性もかかえている。このような悩みを有効に解決し,国家としての統一性を確保するとともに宇宙通信の分野でカナダ独自の立場を確立していくため,カナダ政府は早くから国内衛星通信システムの導入を検討していた。
 1968年カナダ政府は,国内衛星通信に関する白書を発表し,これに基づき翌年特別法により国内衛星通信システムを商業目的で独占的に所有,運用するテレサット・カナダ社を設立した。
 テレサット・カナダ社は,1972年11月米国製の衛星アニク1号を,次いで1973年4月にアニク2号,1975年5月にアニク3号をそれぞれ米国に依頼して打ち上げた。これらの衛星は,6/4GHz帯を使用し電話及びテレビジョン中継等のサービスを行っている。なお,将来の通信需要に対処するための次期衛星として14/12GHz帯を使用する通信衛星を計画している。
 一方,カナダは衛星通信技術の研究開発にも力を注いでおり,その一つとして通信技術衛星(CTS)計画を進めている。これは,カナダ通信省とNASAとの共同プロジェクトとして実施され,電話,広帯域データ伝送,FM放送及びカラーテレビジョン放送等の実験を行うことを目的とするものであり,1976年NASAにより衛星が打ち上げられた。なお,この実験においては,NHKの開発した衛星放送用12GHz帯受信機が,米国,カナダから注目され,NHKはこの受信実験に参加した。
(3) ソ   連
 ソ連は,世界一広大な国土を持ち,その中に多数の都市が散在するため衛星通信の果たす役割は大きい。ソ連の通信衛星は,従来移動型のモルニア系衛星であったが,近年は静止通信衛星計画を具体化させつつあり,放送衛星も打ち上げている。
 モルニア系衛星通信システムは,ソ連全土をカバーする長楕円軌道(周期12時間,ソ連領内での通信可能時間8時間)を使用し,複数個の衛星を一定の間隔で配置することによって,24時間連続運用するものである。ソ連を中心とする東欧諸国は,インタースプートニクという国際的な衛星通信機構を設立し,このモルニア系システムを利用して国際通信を行っている。
 ソ連は,移動型のモルニア系システムには技術的な制約条件が多いため,これに代わる静止衛星通信システムとしてスタッショナー衛星シリーズを計画し,1975年末公表した。この計画は10個の静止通信衛星からなり,ソ連国内及び東欧諸国を対象とした衛星通信を行うことを目的としており,既に3個の衛星が1975年12月,1976年9月,1977年7月にそれぞれ打ち上げられている。この他にも,ソ連は各種通信衛星計画を進めているとみられ,1974年4月ラウチ及びガルスという名の衛星システムを公表した。これによると,ラウチシステムは国際通信用であり,またガルスシステムは政府通信用であって,それぞれ4個の静止衛星からなり1981年及び1979年に打ち上げることになっている。
(4) ヨーロッパ
 ヨーロッパ諸国は,宇宙開発分野における米ソの独走に対抗し,また域内宇宙開発産業の振興をはかるため,宇宙開発に対して積極的な姿勢を示している。
 ヨーロッパでは,各国の個別的な宇宙研究及び技術開発を統合して,研究開発の効率を高めるとともに,これにより欧州宇宙産業を強化して,宇宙技術の米国依存体制から脱皮しようという目的で1975年5月に欧州宇宙研究機構(ESRO)と欧州ロケット開発機構(ELDO)を発展的に統合して欧州宇宙機関(ESA)を設立した。
 ESA加盟国は,ベルギー,デンマーク,フランス,西独,イタリア,オランダ,スペイン,スウェーデン,スイス及び英国の10か国である。現在の開発計画としては,科学衛星GEOSをはじめとして10の多くを数えており,そのうち通信,放送衛星計画は,軌道試験衛星(OTS),船舶を対象としたマロッツ衛星(MAROTS),地域通信衛星 (ECS)及び航空機を対象としたエアロサット衛星であり,1977年から1980年にかけて打上げが予定されている。これら衛星の特徴は,基本的な衛星構体を共通にして各種通信設備をそれぞれの用途に応じて変化させるという,新しい合理化された設計方式を用いていることである。
 一方,ESAとは別個に,西独とフランスは,実験用通信衛星の開発のための協定を結び,1967年以来シンフォニーと呼ばれる通信衛星の開発を進めてきた。この目的は,技術基礎実験のほか,テレビジョン,ラジオ放送及び電話等の実用化試験を行うことである。シンフォニー<1>号は1974年12月,<2>号は1975年8月にそれぞれ米国に依頼して打ち上げられた。
 また,イタリアも独自にシリオと呼ばれる通信試験衛星を開発している。これは,準ミリ波の伝搬特性の測定,テレビジョン,電話の伝送実験等を目的としており,1977年8月米国に依頼して打ち上げられた。
(5) その他の国々
 通信衛星,放送衛星は国内の通信需要を満たすとともに通信基盤を整備し,かつまた国民の教育や福祉の向上を図るために,有効かつ迅速な手段であるところから,近年は次のような国々においても,これらシステムの導入計画が具体化しつつある。
 インドネシアは,通信設備拡充計画の一環として,国内衛星通信網の建設を進めており,1976年7月国内通信衛星パラパ<1>号,1977年3月パラパ<2>号を米国に依頼して打ち上げ,運用を開始している。国内用の通信衛星を有する国としては,カナダ,米国,ソ連についで4番目であるとともに,アジア地域における最初の国内用衛星システムであるところから,各国の注目を浴びている。インドネシアは,この衛星を将来,ASEAN加盟の近隣諸国にも使用させる計画を持っており,ASEAN自体としても1982年頃を目途に独自の地域通信衛星システムを設立する構想を立てている。
 インドは,1978年から1980年代中期にかけてインサットと呼ばれる静止通信衛星を2個打ち上げる計画を有しており,第1号は外国で製作し,外国のロケットで打ち上げることとしている。この衛星システムの目的は,国内テレビジョン放送の共同受信,主要都市と地方都市間の長距離通信及び気象観測を行うことである。なお,国産の通信衛星を製作する能力を開発するための予備的実験衛星として,ESAが開発中のアリアンロケットによりアプルと呼ばれる衛星を1980年に打ち上げる予定である。
 中国は,1970年4月最初の人工衛星(東方紅)を打ち上げて以来,宇宙活動の分野でも次第にその能力を高めてきていると思われる。通信衛星の分野では,1977年3月初めて実験用の通信衛星(STWl,2)計画を公表した。これによれば,1979年から1980年頃を目途に2個の静止通信衛星を打ち上げ,6/4GHz帯の周波数を使って各種通信実験を行うこととしている。
 この他にアラブ連盟,ブラジル,イラン等の国々でも衛星通信計画が進められており,今後の発展が期待されている。

第1-2-9表 米国国内衛星通信システムの概要
 

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