昭和52年版 通信白書

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3 広い分野への宇宙通信の利用

(1) 国際海事衛星機構(インマルサット)設立の動き
 衛星通信技術を導入することによって,現在主として短波帯を使用して行われている海上通信を改善することが考えられ,一方,衛星システムに対する二重投資の防止及び静止衛星軌道の有効利用の点から,衛星システムの設置・管理・運営に当たる国際機構設立の機運が生まれた。
 政府間海事協議機関(IMCO)における検討の後,1975年4月から国際海事衛星システム設立のための政府間会議が開催された。約1年半にわたる交渉の末,1976年9月3日「国際海事衛星機構(インマルサット)に関する条約」及び「同運用協定」が採択され,署名のために開放された。一方,機構の発足までの間,準備委員会が設置されることとなり,1977年1月から,活動を開始している。
 インマルサットは,政府間の条約及び締約国又は締約国により指定された事業体が署名する運用協定によって設立される国際機構であり,海事衛星システムの提供を行う。
 一方,インマルサット設立の動きとは別に,米国はマリサット・システムの運用を開始し,また西欧諸国はマロッツ・システムを計画している。インマルサットは両システムをベースとすると予想され,現在,米国と西欧諸国との間で調整のための交渉が行われている模様である。
 また,我が国としては,インマルサット設立を推進するため,1977年3月22日に条約に署名し,承認を求めるため国会に条約を提出している。また,運用協定に署名する事業体として国際電電を指定し,同社は1977年4月7日に署名を行った。しかし,インマルサットがサービスを開始するまでには,なお,数年を要するものと考えられるので,それまでの間,当面の通信需要にこたえるとともに,その技術を習得するために,米国のマリサット・システムを利用した海事衛星通信サービスが国際電電により1977年4月18日に開始された。
(2) 衛星通信以外の宇宙通信の利用
 宇宙通信の利用分野としては,衛星通信以外に人工衛星による地表及び宇宙空間の計測,観測等の分野があり,近年その研究,開発が進んでいる。
 この分野の具体的なシステム例としては,国内のみをみても電離層観測衛星(ISS),静止気象衛星(GMS)及び一連の科学衛星が開発中あるいは開発済みであり,更に地球観測衛星,測地衛星,航行衛星等の研究も進められている。また,諸外国においても同様の各種衛星が多数打ち上げられており,幾多の実績が得られている。
 電離層観測衛星(ISS)は,電離層の観測,電波雑音の観測等を行い,その結果を短波通信の効率的利用に必要な電波予報及び電波警報に利用することを目的とした衛星である。
 我が国においては,昭和41年,郵政省電波研究所鹿島支所において,カナダの電離層観測衛星アルエット<1>及び<2>の電波を受信したのが衛星による電離層観測の第一歩である。我が国のISS計画もこれと時期を同じくして同研究所においてスタートした。当初は衛星の開発研究も行われたが,44年10月,宇宙開発事業団の発足に伴い,衛星の開発業務は既設の各種衛星試験装置とともに同事業団に引き継がれた。
 宇宙開発事業団における衛星の開発と並行して,電波研究所は,鹿島支所にISS管制施設を整備するとともに,本所(国分寺)に取得データの処理解析に必要な諸施設の整備を進めた。これらの施設は,49〜50年度に完成し,ISSの打上げ以前から,国際電離層観測衛星(ISIS:カナダ・米国共同開発)の受信に使用して国際協力の実を挙げた。51年2月に打ち上げられたISSは,電源系の故障により,約1か月でその機能を停止したため,現在,予備機(ISS-b)を打ち上げるべく所要の修正,機能試験等が進められているが,ISSのデータを電波研究所で解析した結果,従来得られていなかった電離層異常現象が発見されるなど,短期間の寿命ではあったが貴重なデータが得られ,この点からも,ISS-bによる観測が期待されている。
 静止気象衛星(GMS)は,世界気象監視(WWW)計画の一環として,世界気象機関 (WMO)と国際学術連合会議(ICSU)が共同で行う地球大気開発計画(GARP)の推進等を目的として52年7月に打ち上げられたが,今後気象庁において気象観測に利用される。
 科学研究分野の人工衛星については,東京大学宇宙航空研究所により,一連の科学衛星が打ち上げられ,各種の科学観測及び研究が行われている。
 これらのほか,我が国においては,日本測地原点の確立,国内測地観測網の規正,離島位置の決定等に資するための測地衛星,船舶及び航空機の航行援助・管制等に資するための航行衛星,地球表面の広域観測等を行い,地球資源の有効利用,環境保全等に資するための地球観測衛星の研究も行われている。計測,観測等の分野における宇宙通信の諸外国の利用状況は極めて多彩であり,観測等の対象も月及び惑星にまで及んでいる。気象衛星の例としては,米国における一連の移動型気象衛星シリーズ(タイロス→エッサ→ニンバス→ノア)及び静止気象衛星(SMS),ソ連における移動型気象衛星(メテオール)等がある。また,米国の地球資源探査衛星(ランドサット)による実験も行われており,更に海洋観測に重きを置いた衛星(シーサット)による実験も近い将来計画されている。
 宇宙通信技術の航行援助への利用例としては,米国の衛星航法システム(NNSS)がある。
 電離層観測,測地,科学観測の分野では,単一目的の観測衛星,あるいは電離層観測と測地を兼ね備えるなど,各種の目的を組み合わせた観測衛星が米・ソ両国をはじめとして,欧州諸国,カナダ,オーストラリア,インド等によって多数打ち上げられている。この中には,1959年に米,ソそれぞれが打ち上げた月探査衛星パイオニア4号,ルナ1号をはじめとする火星,金星,木星等の惑星探査衛星も含まれ,宇宙探査技術も米国の宇宙船バイキングによる火星の土の採取がなされるまでに至っていることに注目すべきであろう。
 以上,概括したように宇宙通信の利用形態は,今後ますます多様化してゆくものと思われる。
 

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