昭和52年版 通信白書

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第3節 電磁波有効利用技術

1 新周波数帯の開発

(1) 準ミリ波以上の通信方式
 近年,情報化の進展に伴う通信需要の著しい伸びを背景として,大量の通信需要に対処するための固定地点間情報伝送回線の拡充が強く要請されている。
 一方,従来からこれらの大容量の固定地点間情報伝送回線用として活用を図ってきたマイクロ波帯の電波は,新しい電波利用分野におけるぼう大な需要増とあいまって利用限界に達しつつある。
 このため,郵政省では,準ミリ波帯以上の周波数帯における電波の利用開発を図ることを目的として,45年に電波技術審議会に対して「準ミリ波以上の周波数を使用する電波の利用開発に関するもののうち,固定地点間情報伝送の技術的諸問題」について諮問し,同審議会における審議の結果,49年3月準ミリ波帯の電波を使用する大容量ディジタル伝送システム等について一部答申が行われ,更に,52年3月準ミリ波以上の周波数の電波の伝搬特性,装置技術の現状と将来の動向及び方式構成上考慮すべき事項について次のような趣旨の完結答申が行われた。
[1] 伝搬特性
 準ミリ波以上の高い周波数の電波伝搬においては,大気の酸素及び水蒸気分子による吸収並びに降雨による減衰と交さ偏波識別度の劣化が存在する。このため,これらの周波数を選定使用するに当っては,これらの特性を総合的に検討して電波の有効利用を図ることが必要である。また,大気による減衰特性は理論的に300GHz程度まで,更に降雨による減衰特性は実験的に140GHz程度まで,おおむね明らかとなっている。
[2] 部品及び装置等のハードウェア技術
 準ミリ波及びミリ波帯のハードウェア技術の最近の進歩は著しいものがあり,部品,回路,装置の諸特性は信頼性も含めて,20GHz帯で既に実用の域に達している。また,100GHz程度までは近い将来実用化が期待されており,更に300GHz程度までは固体技術の延長線上の技術により,将来,実用化の可能性があるものと考えられる。
[3] 変調方式
 準ミリ波以上の高い周波数での変調方式は,一般に干渉に強く,端局装置が安価で,中継による伝送品質の劣化が少ない,従って周波数の有効利用が図れるディジタル方式を用いるのが適当である。また,近距離の画像伝送用無線方式の場合には,経済性及びシステムの簡易性の点でアナログ方式も有効と考えられる。
 これらの答申に基づき,郵政省では公衆通信用の準ミリ波帯大容量無線中継方式の免許方針を策定し,51年12月東京〜横浜間において,世界で初めて本格的な準ミリ波帯の実用回線(第2-7-2表)が導入されたが,更に,将来,短距離区間に適用する小中容量ディジタル無線伝送,画像無線伝送等の分野でミリ波帯の電波を利用することが有効と考えられる。
(2) 250MHz帯無線呼出方式
 無線呼出サービスは相手の人が外出中であっても緊急の用件があることを通知するサービスであり,社会活動の迅速化,高度化にマッチしていることもあって,43年7月東京でサービスを開始して以来逐次サービスを全国各地に拡大しているが,いずれの地区でも好評を博し,52年3月末現在49地区約64万加入に達している。
 一方,この方式で使用している150MHz帯周波数は各種業務に利用されているため,新たに周波数を割当てることが困難な状況にあり,今後増大する需要に対処するため250MHz帯を利用し,1周波数当たりの収容加入数の増大等周波数の有効利用を図るとともに受信機の小形化,連続使用時間の延長等機能の拡充を計る方式について検討を進めてきたが,51年6月から51年9月にかけ東京において,250MHz帯実験局により試験を行った結果,満足な結果を得,実用化できる見通しが得られたので今後本方式が導入される予定である。
 なお本方式の概要は次の通りである。
 ア.呼出し信号をディジタル化することにより1無線周波数当たりの加入者容量を従来の1万から3万とし,電波の有効利用を図る。
 イ.受信機は高密度実装による小形化を図るため,LSI等を採用し,大きさ,重さは150MHz帯受信機の7割である。
 ウ.電池に単3乾電池を使用し,連続使用時間を2か月以上とする。
 エ.ベル音量の2段切替や3回呼出1回鳴音の機能拡充。
(3) 800MHz帯の陸上移動通信
 現在,陸上移動通信には,主に400MHz帯以下の電波が利用されているが,近年社会活動の多様化,高度化にともない自動車等,陸上移動体との通信に対する社会的要望が高まりつつあり,これら需要の増加に答えていくためには,より高い周波数帯の利用開発を図る必要がある。このため,昭和47年に,郵政省は電波技術審議会に対し「陸上移動業務の800MHz帯における技術的条件」について諮問し,50年10月〜11月にかけて東京都内において実施した800MHz帯に関する実地調査の結果をもとに,51年3月電波伝搬特性と都市雑音,有効な利用形態と伝送品質,無線機の諸特性,周波数割当上考慮すべき技術条件等について答申が行なわれた。
(4) 250MHz帯自動内航船舶電話方式
 船舶電話は,沿岸を航行する船舶と陸上の一般加入者間,あるいは陸上局を介して加入船舶相互間の公衆通信サービスを行うものであり,使用周波数帯は,150MHz帯のものと250MHz帯のものがある。通信方式は,両者とも同時送受話のできる複信方式であり,交換方式は現在のところ,交換手を介しての手動交換方式を実施している。加入船舶数は,51年度末で150MHz帯のもの7,036隻,250MHz帯のもの1,931隻となっているが,年々増加の一途をたどっており58年度末には約20,000隻が加入するものと見込まれている。自動内航船舶電話方式は従来の船舶交換台経由の手動接続方式から加入者ダイヤルによる自動接続方式とし,接続時間の短縮による周波数使用効率の向上とサービスの改善をねらいとしたものであり,本方式の実用化が進められている。
 使用周波数帯は,現在の150MHz帯では新規に割当ての余地がなく,激増する需要に対処できないと判断されるため,更に250MHz帯の追加割当てが検討されている。この方式の移動局は24チャンネル切替えであって,従来の方式より更にマルチ・チャンネル・アクセスの効果を高め無線回線の使用効率を向上させる。
 自動化のために新たに採用される技術としては,船舶位置の自動検出及び登録,船舶に対する在圏位置の自動探索等があり,精度の高いS/N検出,高信頼度の無線回線制御信号の授受等の無線技術に電子交換機による自動交換接続,位置登録,課金処理等の交換技術を有機的に組み合わせることによって,高度な移動無線システムが可能となる。
 本方式の実用化により,従来の手動方式にみられた船舶の在圏海域を想定しなおすといった手間を省き,サービス性が向上すると同時に,無線回線の無効保留も減少し,その有効利用度が向上することとなる。
(5) 都市内受信障害対策用SHF帯の放送
 都市内受信障害はテレビジョン放送が良好に受信できていた地域に高層建築物等の障害物が出現したため,電波がさえぎられたり,反射したりすることによって生ずるものであり,画面にスノー・ノイズと呼ばれる細かいはん点が現れたり,ゴーストと呼ばれる多重像が現れたりすることである。
 このような都市内受信障害を生じている受信世帯数は,51年度末現在,全国で約4万世帯と推定されており,都市の高層化が進むにつれて,今後この数はますます増加するものと思われ,その受信対策は大きな社会問題となっている。
 テレビジョン難視聴対策調査会は,50年8月に行った報告の中で,都市内受信障害解消の技術的方策としては,現在,主として有線による共同受信施設が用いられているが,このほか多地点送信,微小電力放送局の設置,送信アンテナの高さの変更,SHF帯放送・衛星放送の導入等についても検討することが望ましいと述べている。
 一方,電波技術審議会では,テレビジョン放送の技術的諸問題のうち,SHF帯(11.7〜12.2GHz)の放送に関して,その考えられる用途とそれに適する方式,及び実現可能と考えられる時期について答申すべく,48年度から調査審議を行い,SHF帯の放送としては,都市内受信障害対策放送用高品位テレビジョン放送,静止画放送等が適することを明らかにした。このうち,都市内受信障害対策用のSHF帯の放送は,早期の実現が望まれるため,特に重点的に審議を行った結果,都市内の高層建築物等に起因するしゃへい障害,或いはゴースト障害の解消方法として極めて有効であり,かつ良質な受信画像が期待できること及び送信装置,受信装置についても低れんなコストで製造可能であることなどが明らかとなったため,51年11月に,都市内受信障害対策用SHF帯の放送の方式,送信の技術基準及び受信設備等その他の技術的条件について,答申が行われた。
 答申の概要は,つぎのとおりであり,この放送を実施するための省令改正,免許方針の策定等行政上の措置も完了している。
〔答申の概要〕
(1) 都市内受信障害対策用SHF帯の放送の方式としては,
 [1] 送信側は,現行のテレビジョン放送に関する送信の標準方式を基礎とし,既存のVHF帯又はUHF帯のテレビジョン放送の電波をSHF帯に変換して,同時再発射するもの。
 [2] 受信側は,通常の全チャンネル・テレビジョン受信機に小型のパラボラアンテナとSHFコンバータを付加するもの。
 が適当である。
(2) 送信の技術基準については,周波数の許容偏差及び音声対映像電力比を次のとおりとするほかは,現行規則におけるテレビジョン放送の送信の技術基準の適用に問題はない。
 [1] SHF帯の中継放送局の送信周波数の許容偏差は±10KHz以内にすることが適当である。
 [2] SHF帯の中継放送局の送信機の音声対映像電力比は1対10にすることが適当である。
(3) 受信設備として全チャンネル・テレビジョン受信機に付加するSHFコンバータ及びSHF標準受信空中線の所要性能は,第2-7-3表及び第2-7-4表とすることが適当である。
(4) 置局に関する技術的条件である最小所要受信電力束密度は,-70dBW/m2とすることが適当である。また,受信電力束密度の算定は次式によることが適当である。
  φ=10logP-20logd-71-R-C
    φ;受信電力束密度(dBW/m2
    P;等価等方幅射電力(W)
    d;距離(km)
    R;降雨減衰量(dB)
    C;都市減衰量(6dB)
(6) 海中のレーザ通信
 海洋開発の一環として,レーザを利用し海中での各種の情報を海上へ高速,広帯域に伝送するシステムが強く要望されてきた。
 郵政省電波研究所では,技術開発状況,実用の可能性等を検討した結果,大陸だなから海面上までのレーザ光による広帯域伝送システムの開発を行うこととした。
 49年度に行ったアルゴンレーザの海中伝搬に続いて,50年度は水槽を使ったモデル実験を行い,両者の結果を比較検討した。また,水中における偏光保存性,偏光多重通信の可能性,散乱光の時間遅れ等の実験的あるいは理論的検討を行った。51年度は水槽実験のほか,海中レーザ通信装置の野外実験を行った。
 51年2月横須賀市久里浜港内で,海水レーザスコープの探知能力を調べる野外実験を行ったが,このレーザスコープは,YAGレーザの2倍高調波(5,320〓)を使用し,レンジゲート方式を採用した。実験によると,一般に使用されている水中テレビジョンの約4倍の探知能力をもつことが判明した。

第2-7-2表 準ミリ波帯ディジタル無線伝送方式構成例

第2-7-3表 SHFコンバータの所要性能

第2-7-4表 SHF標準受信空中線の所要性能
 

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