昭和53年版 通信白書

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1 画像通信の現状と動向

(1) 画像通信の諸形態

 視覚情報は聴覚情報に比べ,豊かな情報量を持っているが,これを電気通信技術を使って遠方に伝送しようとすると,端末装置が複雑・高価となり,伝送周波数帯域が極めて広く,厳しい伝送特性が要求され,しかも品質評価に客観性を持たせにくいなどの問題点がある(第1-1-20表参照)。
 電気通信は,伝送する情報の性質によって音声通信,符号通信(電信,データ通信),画像通信の三つに大別されるが,このうち画像通信のシステム形態等は,今後電気通信サービスの高度化,多様化により電話やデータ通信と組み合わされたサービスが想定されるため,明確に分類することは困難であるが,一般的にはその通信方式等により,第1-1-21図のような3つの観点からの分類が可能であろう。
 まず通信は大きく1対1の通信と1対多の通信に区別できる。一般に前者はパーソナル通信,後者はマス通信と呼ばれている。画像通信のうちパーソナル通信を代表するものとしては,テレビ電話,ファクシミリ通信等があり,マス通信を代表するものとしてはテレビジョン放送がある。画像通信を飛躍的に発達させたのは,テレビジョン放送の出現であり,現在我が国における情報流通量の83%を占めているようにその情報量の膨大さによって社会に大きな影響を及ぼしている。しかし,今後,国民の情報ニーズの個別,多様化が進むに伴ってファクシミリ通信,テレビ電話等を中心としたパーソナル通信の分野での発展が期待されている。
 次に画像通信は,受信側で記録して保存するかどうかによって映像通信(ソフトコピー)と画像記録通信(ハードコピー)の2つの方式に分類できる。前者の代表例としては,テレビジョン放送,テレビ電話,テレビ会議等があり,後者の代表例としてはファクシミリ通信がある。
 更に,画像通信は,画像の種類により静止画と動画に区分できる。
 動画の代表例としては,テレビジョン放送やテレビ電話等があり,一般に毎秒30枚程度の画像を送らなければならないために広い周波数帯域が必要となる。静止画の代表例としては,スライドやマイクロフィルムに収めた情報や一般の文書,図面などがあり,30秒間かけて1枚の画面を送るとすれば,普通のテレビジョン方式と比べて周波数帯域は約1,000分の1でよいことになり,相対的に伝送路を経済的,効率的に利用することが可能となる。
 以上が画像通信の形態の分類であるが,このほかサービスの利用形態による分類としてテレビ電話のような端末相互間通信(End to End 形)と,映像情報サービスのようなセンタ対端末間通信(Center to End 形)の区分がある。

(2) 画像通信の現状

ア.画像記録通信
 画像記録通信として最も代表的なものはファクシミリ通信であり,46年5月の公衆電気通信法の改正により公衆通信網が一般開放されたことに伴って,一躍クローズアップされ,我が国のファクシミリ通信は急速に普及してきた。ファクシミリ通信の特徴,効用については,[1]記録性がある,[2]書いたものをそのまま忠実に相手に伝えられる,[3]聞き違いとか誤った情報の取得がない,[4]操作が簡単で専門のオペレータを必要としない,[5]不在受信が容易に行える,などが挙げられる。したがって,日常の漢字交じりの常用文がそのまま電話網を用いて容易に送れるというメリットから,近年一般事務の合理化や省力化の手段として一般企業の分野での利用が活発化してきている。
 我が国におけるファクシミリの利用台数は,画像電子学会の調査によれば52年9月末で約10万台となっており,47年9月の同調査の4万1千台に比較するとこの5年間で約2.4倍の伸びとなっている。一方,ファクシミリの生産額をみると依然活況を呈しており,第1-1-22図のとおり,50年度若干の落ち込みがあったとはいえ,52年度には323億円と47年度の6.5倍に達しており,ここしばらくは急成長を続けるものとみられる。
 このようなファクシミリの急速な普及に伴い,伝送方式や制御手順など相互通信に必要な規格の標準化が必須の条件となってくる。国際電信電話諮問委員会(CCITT)では,標準化すべきファクシミリを第1-1-23表に示す三つのグループに分類しているが,既にグループ<1>機器(6分機),グループ<2>機器(3分機)については,標準規格が勧告として示されている。
 なお,グループ<3>機器(1分機)については,その標準方式の選定についてCCITTで審議中である。
 更に電電公社では将来の公衆通信において大きな位置を占めると考えられるファクシミリ通信の小規模事業所や一般家庭等での広範な利用を考慮し,低コストで小形化,高信頼性,筒易性をねらいとした小形のファクシミリ装置の開発を進めている。また,新ディジタルデータ網を利用した高速ディジタルファクシミリの開発が進められている。
 このようにファクシミリは,今後も発展を続けその利用分野も急速に拡大されていくことが予想されるが,これを一般家庭にまで普及させるためには今後検討を重ね解決していかねばならない課題が多い。
 すなわち,安価でしかも信頼性の高いファクシミリ端末機の開発,同報通信や異機種間の通信等を可能にするファクシミリ通信にふさわしいネットワークの実現,更には教育,学習への利用,難聴者など福祉施策への適用,各種情報案内サービスへの応用といった利用分野の開拓等である。
 画像記録通信にはこのほかテレメールのような手書伝送や電気通信と郵便の特徴を組み合わせた電子郵便等がある。このうち,電子郵便については米国(メールグラム,1970年1月から実施),カナダ(テレポスト,1972年10月から実施)ではテレタイプ系のサービスが実用段階にあり,ヨーロッパではスウェーデン,フランス等でファクシミリ系のサービスが試行実験段階にある。なお,米国のメールグラムは,サービス開始以来順調に伸びてきているが,ヨーロッパではいずれも利用が少なく低調であることが最近の特徴である。我が国においては郵政省が50年度から電子郵便に関する将来性,法制面の扱い,採算性等の調査研究を進めている。
イ.映像通信
 映像通信は,比較的新しい通信形態であり,通信として大きな存在にしたのは,テレビジョン放送の出現である。このテレビジョン放送については,52年度末でNHKの受信契約総数が2,777万件(うちカラー契約数2,443万件)と放送開始以来急激な伸長を示しており,我が国における情報流通量の大部分を占めていると言っても過言ではない。現在テレビジョン放送は全国的にほとんどの地域で放送が受信できる状態となっており,国民の日常生活にとって不可欠な存在となっている。しかし辺地における難視聴あるいは都市における受信障害が問題となっており,この対策として辺地においては極微小電力テレビジョン放送局(ミニサテ)や共同受信施設の設置が進められており,また都市においては,共同受信施設の設置が進められるとともに,SHF帯テレビジョン放送局の実用化の道も開かれている。一方,国民のニーズの多様化に伴い,新しい放送方式の開発が進められつつあり,その一つとしてテレビジョン放送の音声をステレオ化したり,ニュース,洋画等の2か国語放送が可能となるテレビジョン音声多重放送を実施するための省令改正が行われるとともに,同放送を行う放送局の免許方針が策定された。また,引き続き文字放送,静止画放送等のテレビジョン多重放送あるいは衛星による放送についても検討が進められている。
 一方,映像通信は,今後,現在のテレビジョン放送のような一方向性のメディアのみでなく,テレビ電話等双方向性を有するメディアの発展が望まれている。
 まずテレビ電話については,ピクチャホンという名で1970年米国のピッツバーグ市において商用に入ったが,当初の予想に反し需要が伸びず,現在約500加入となっている。日本においては,47年12月に4MHzのグループタイブの白黒テレビ電話サービスが試行的に開始されている。しかしテレビ電話が広範に普及していくためには,単に相手の顔を見ながら話をするというたけでなく,ハードコピーの取得など受像機をもっと多角的に活用してその社会的効用を高めることが要望され,現在そのような意図のもとに電電公社により引き続き研究開発が進められている。
 テレビ会議は,遠く相隔たった地点相互間での会議を可能とするものであり,時間の有効利用と交通の代替による省エネルギー等への寄与が可能なサービスとして,その社会的効用が大きいため諸外国においても米国のコンファビジョン,英国のコンフラビジョン等のサービスが試行されているほか,我が国においても,電電公社により51年5月からモニタテストとしてカラーテレビによるテレビ会議方式が東京,大阪間において運用されている。
 CATVは,一般には高感度のアンテナで受信した良質のテレビジョン信号を同軸ケーブルのような広帯域伝送路を通して各家庭のテレビ受像機に分配するシステムであり,テレビジョン放送の受信困難な山間辺地における難視聴対策として1949年米国オレゴン州のアストリアで誕生した。その後テレビジョン放送の普及とともに米国をはじめとする世界各国で広く導入されている。また,最近ではその構成要素である同軸ケーブルが極めて多量の情報を伝送する能力があるところから,これに双方向機能を持たせたり,コンピュータと結んだりして多種多彩な情報を提供するコミュニティネットワークとしてふさわしい情報メディアであるCCISに発展する可能性を有するものとして注目を集めている。現在,このような多能型のCATVとしては多摩ニュータウンでのCCIS実験システムと奈良県東生駒のHi-OVIS(東生駒 Optical Visual Information System)実験システム等がある。

(3)新しい画像通信システム開発の動き

ア.新しい情報メディアの社会的必要性
 情報化社会の進展に伴い国民の情報に対するニーズは,極めて多種多様化し,情報選択幅の拡大要望にこたえたきめ細かな情報メディアの開発が望まれている。
 ところで現代の社会においては個人生活であれ,企業活動であれ,必要とされる情報はすべてコミュニケーションメディアによって入手される。しかし個々の二-ズに見合った特定の個別情報をいつでも,どこでも,誰にでも,安く提供するためには,現在のコミュニケーションメディアは十分にこたえることができない。まず,テレビジョン放送等のマスコミュニケーションメディアでは,ニュースの放送時間等に一定の制約があるため,放送時間外に知りたいニュースや,自分に興味ある分野で放送されない報道内容等,情報のマイノリティニーズに対して十分な供給体制をとれない現状にある。また,電話等のパーソナルコミュニケーションメディアの場合,必要な情報を即座に入手するためにはコスト等の点から問題がある。
 以上のような既存メディアの状況を情報の受け手の数と受け手への到達時間から図示すると第1-1-24図のようになる。この図の中の空白地帯が個別情報ニーズにこたえる新しい情報メディアの該当エリアとなろう。
 このような情報ニーズにこたえるものとしてテレホンサービスが44年から登場し,52年度末でサービス件数2,707件,回線数で1万3,522回線と急激な増加を示している(第1-1-25図参照)。しかし,このサービスは音声情報に限られている,チャンネル数が少ない,サービスの種類が少ない,組織系統的に提供されていないことなどによって,必ずしも高度化,多様化した情報ニーズには十分にこたえることができないと言えよう。
 このため画像通信により個別情報を提供するシステムの研究開発が積極的に進められている。このうち有線系のシステムとしてはCATVを使った多摩ニュータウンでのCCIS実験,奈良県東生駒での光ファイバケーブルを利用したHi-OVIS実験がある。しかし,これらのシステムが普及発展し,社会的に機能していくためにはより低廉なシステムの開発等解決すべき多くの課題がある。
 一方,放送系のシステムとしては,テレビジョン放送やFM放送の電波にその放送とは別の情報を重畳して放送を行う多重放送がある。このテレビジョン多重放送の種類は,第1-1-26図のとおりであり,このうち画像通信の範ちゅうには映像通信としての文字放送,静止画放送,及び画像記録通信としてのファクシミリ放送が入る。
 文字放送はテレビジョン放送の電波のすき間を利用して,テレビジョン放送を妨害することなしに文字の信号を放送するもので,既存のテレビ受像機にアダプタを接続するか,あらかじめ文字放送を受信できる機能を持つテレビ受像機で受信が可能となる。文字情報の表示方法としてはテレビ画像の上に部分的に表示するスーパー表示と,画像を消して文字情報だけを流す全面表示とがある。利用分野としては,ニュ-ス,天気予報,株価案内等が考えられる。この文字放送についての方式を決めるための野外実験が53年秋に予定されている。静止画放送は,静止画と音声で構成された番組を送ろうとするもので,その放送方式には現在のテレビジョン放送の画面と画面の時間のすき間を利用して静止画番組を送る方式がある。
 この静止画放送を受けるには,一画面分の情報を蓄えられるメモリを内臓したアダプタをテレビに接続する必要がある。また文字放送に比べて静止画放送は蓄える情報量が多く,このメモリも高価になるため,静止画放送の実用化を目指すためには,低価格,高性能のアダプタが開発されなければならない。
 ファクシミリ放送は,テレビジョン信号にファクシミリ信号を多重して伝送し,テレビ番組と同時にファクシミリ番組を受信し,ハードコピーの形で情報を提供するものである。これは放送における即時性と印刷物における記録性を兼ね備え,有力な情報伝達手段となりマスコミュニケーションにおける情報をより豊かにし,受け手からみた情報の選択性を広げる効用を持つと考えられる。
 このようにテレビジョン多重放送については,従来のテレビの利用形態を大きく変えるとともに,既存の情報メディア及びその普及過程での産業界に与える影響も大きい。このため郵政省では51年12月に提出された「多重放送に関する調査研究会議」の提言,52年1月に部内の関係者を構成員として設置された「多重放送協議会」及び電波技術審議会の答申等を通じてその実用化に向けて検討を進めているところである。
イ.キャプテンシステムの実験構想
 特定の個別情報をいつでも,どこでも,誰にでも,安く提供するための新しい情報メディアの開発が必要となってきており,諸外国においても英国の「プレステル」や「テレテキスト」等画像通信による新たなシステムの開発が進められている。このような動向にかんがみ我が国においても画像通信による個別情報の提供を行う新しいメディアを早急に開発する必要がある。
 この観点から現状をみると,[1]3,500万加入を擁する電話網の存在,[2]家庭に90%以上普及したテレビ受像機の存在,[3]メモリ素子の大容量化,高速化によりセンタ蓄積技術が急速な進歩を遂げていること,[4]LSIの発展に伴いICメモリの急速なコストダウンが図られ端末装置の価格低下が予想されることの四つの要因が考えられる。これらの事情を背景に構想されたシステムが53年4月7日に発表されたキャプテンシステムである。このシステムは,どこの家庭にもあるテレビと電話を活用するもので,専用のアダプタを介して電話回線にテレビを接続し,加入者のリクエストにこたえてセンタから送られてくる文字図形情報をこのテレビに映し出して読み取るシステムである。
 このシステムにおいてリクエストできるサービス種目としては,一般生活情報,学習プログラム,ニュース,天気予報,スポーツ結果等多種多彩なものが考えられ,電話とテレビがあれば自分の欲しい情報を手軽に入手することが可能になる。
 このシステムは英国郵電公社の「プレステル」,西独郵電省の「ビルトシルムテキスト」などと類似のシステムであり,将来的にも有望なシステムであると期待されている。ただし,技術的にみて伝送方式については,英国及び西独のシステムが符号によるコード伝送方式であるのに対し,キャプテンシステムは漢字使用を考慮する必要があるので,ファクシミリのようなパターン伝送方式であり,文字図形発生装置は,英国及び西独のシステムでは各家庭などに置かれるターミナルに,キャプテンシステムではセンタにある。
 郵政省では,電電公社と共同で54年8月を目途に10万ページ程度(1ぺージ120字)の情報ファイルを準備して,東京都内の電話加入者1,000程度を対象にしてキャプテンシステムの実験を行い,技術的な可能性を確認すると同時に,どのようなサービスが国民のニーズに合致するかを見極めることとしている。このため,実験を目的とする財団法人の設立など,諸般の準備を進めているところである。
 キャプテンシステムの構成は,第1-1-27図のとおりである。
 利用者はまずキャプテンセンタを電話で呼び出し,キーパッドで希望の情報を要求する。要求方法には直接希望の情報を指定する場合と,画面に表示された目次を順次指定していく場合とがある。
 センタの情報ファイルから読み出された情報は逐次,文字図形発生装置で文字図形パターンに変換され送出メモリ上に編集出力される。送出メモリ上の文字図形パターンは電話回線を経由して端末に送出される。端末のアダプタのリフレッシュメモリに記憶されたパターン信号は走査され,テレビ画面に文字または図形が表示される。画像は次の情報を要求するかスイッチを切るまで映り続ける。
 なお,このような電話網を利用した個別情報提供システムの発展段階は,次のように分類できる。
 第1世代 音声情報の提供を行うもの―テレホンサービス
 第2世代 文字・図形情報の提供を行うもの―
                   文字・図形情報システム
 第3世代 動画,静止画,音声等を使った情報の提供を行うもの
                  ―複合情報システム
 これらのうちキャプテンシステムは第2世代に該当し,国民に個別情報を安価に提供できるサービスとしてその実験成果が期待されている。
 なお,このキャプテンシステムは,テレビジョン文字多重放送とアダプタを共用することが可能であり,現在,この共用化を目指して多角的な検討がなされている。
 第3世代に当たるものとしては,電電公社のVRSがあり,実験システムの概要は第1-1-28図のとおりである。このシステムは48年から開発が進められ52年1月から社内100箇所に端末を置いて実験が行われてきたものであり,プッシュホン又はキーボードからセンタを呼び出し,教養,娯楽,各種案内情報をカラーの静止画又は動画でテレビ受像機に映し出すことが可能であり,音声も同時にサービスし,画像情報のコピーも可能な高度なシステムである。また,このシステムは,既存の電話回線に広帯域中継器を入れた4MHzカラー・ベースバンドを使うシステムであり,その実用化に向けて引き続き開発が進められている。

第1-1-20表 視覚情報と聴覚情報

第1-1-21図 画像通信の分類モデル

第1-1-22図 ファクシミリの生産状況

第1-1-23表 CCITTによる電話網利用ファクシミリの分類

第1-1-24図 情報メディア・エリアマップ

第1-1-25図 テレホンサービスの推移

第1-1-26図 テレビジョン多重放送の種類

第1-1-27図 キャプテンシステムの構成

第1-1-28図 VRS実験システムの基本構成

 

 

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