昭和53年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

5 放送の現状と動向

(1) 世界における放送の概況

 放送の歴史は1920年米国のピッツバーグでラジオ放送が開始されたことにより始まる。更にテレビジョン放送については1936年英国における世界最初の公開放送を端緒として,短い期間に大きな発展を遂げており,現在では世界中にラジオ放送網,テレビジョン放送網が張りめぐらされ,全世界で起こる出来事は,これらの放送網を介して短時間のうちに各国の国民に伝えることが可能となっている。
 世界におけるラジオ,テレビジョン放送の現状をみてみると,ラジオ放送は,世界の独立国157か国のうちヨーロッパのサンマリノとリヒテンシュタインを除く155か国で行われている。しかし,両国ともそれぞれ隣国のイタリア,スイスのラジオ放送を受信しているので,実質的にはすべての国々でラジオ放送が行われていると言えよう。また,テレビジョン放送は世界の4分の3を超す120か国で実施されており,このうちか64か国がカラー放送を実施している。これを地域別に示したのが第1-2-26表である。
 次にラジオ・テレビ受信機の普及状況についてみるとラジオ受信機は世界全体で9億7千万台以上,またテレビ受像機は3億8千万台以上普及しており,この普及状況を国別にみると第1-2-27図に示すとおりである。これによると,ラジオ,テレビ受信機ともに米国が圧倒的に多く,ソ連,日本がこれに続いており,この3か国で全世界の保有台数の半数以上を占めているなど,特定の国に偏っていることが分かる。また,カラー受像機は,米国,カナダ,日本,西欧諸国等に集中しているが,このカラー受像機台数が各国のテレビ受像機台数全体の中で占める比率をみたのが第1-2-28表である。これによると日本が87.4%とその比率の高いことが注目される。
 各国の放送機関の経営形態は,目的,国や州等との関係,財源等により国営放送,公共放送,商業放送に分類されるが,放送実施国のうち半数以上の83か国が国営放送だけとなっている(第1-2-29表参照)。また,現在何らかの形で受信料を徴収している国は第1-2-30表のとおり58か国あるが,その性格は公共放送機関の主たる財源となるもの,国庫収入になるものなど多種多彩となっている。

(2) 各国の放送事業の動向

 放送はこれからも情報化社会の担い手としてマスメディアの中で重要な地位を占めていくことには疑いの余地がないところであるが,1980年代へ向けての社会経済の大きな変化の中で放送においても大きな変革が要求され,諸外国においても将来への模索が進められている。また,受信料制度を採用しているヨーロッパの放送機関では,オイルショック以来の継続的インフレの影響で受信料の引上げを繰り返している状況にあり,このような経営環境の変化も大きな問題となっている。
 ここでは商業放送が主流を占めている米国と公共放送事業体による放送が主流を占めているヨーロッパ諸国(英国,フランス,西独)について各国の放送事業の現状と動向について紹介することとしたい。
ア.米  国
 米国における放送事業はラジオ,テレビとも商業放送,公共放送の2本立て体制となっており,その規制監督に当たっているのはFCCである。これら放送機関の財源は商業放送は広告収入,公共放送は連邦,州,地方自治体の交付金及び財団,企業,教育機関などの寄付金によっており受信料制度は存在しない。商業放送の現状をみると,テレビジョン放送については大半の局は3大ネットワーク会社(ABC,CBS,NBC)とネットワーク加盟契約を結び,自局の放送時間の相当量をネットワーク番組のために提供しネットワーク会社からナショナルスポンサーの支払う広告料の配分を受けている。またラジオ放送については,ABC,CBS,MBS,NBCの4大ネットワークがある。一方,公共放送は,連邦,州政府,民間機関等から必要な資金を受け取り,全米の非商業教育ラジオ・テレビジョン放送局で放送する番組の調達,配給等を行うCPB(公共放送協会),加盟局の代表機関として各デレビジョン放送局に対する番組配給を行うPBS,ラジオ放送の全国ネットワークとしてのNPR,全国各地のローカル局(非商業教育局)等で構成されている。次に放送時間は局により異なるが一般的には,商業テレビジョン放送が早朝から深夜0時すぎ,ラジオ放送が24時間放送となっている。最近の動きとしては公共放送の衛星利用計画がある。CPBは1979年1月から地上回線による番組配給システムを通信衛星ウェスター1号を利用した衛星利用システムに切り替えることとしており米国の公共放送の行方を左右するものとして注目されている。
 また,「2電信電話の動向」で述べたように現在の放送を規律する基本法である1934年通信法の改正の動きがあり,1978年通信法案として1978年6月議会に提出されている。この法案の中で放送に関する主なものは次のとおりであり,今後の動向が注目される。
[1] 放送局の免許を無期限のものとし(テレビについては法施行後10年間は免許の有効期間は5年間とする),取消し原因を技術基準への違反等に限定する。また,放送局の複数所有に現在よりも厳しい規制を課する。
[2] 無線局(放送局又は非放送サービスのための局)の免許申請の処理コスト及び使用されるスペクトラムの価値等から定められる「免許料」を設け,それによって「電気通信基金」を創設する。同基金の金は,公共放送,へき地の電気通信サービスの改善等の補助に使われる。
[3] CATVに対する連邦政府の規制を禁止する。
[4] 公共放送協会に代えて,民間の非営利団体の「公共電気通信財団」を創設する。同財団は番組の制作や買入れに交付金を出すことだけを目的とする。
イ.ヨーロッパ諸国
 ヨーロッパでは長い歴史と伝統,文化等の社会的背景を元にそれぞれに適合した放送制度を生み出している。全体的な特徴としては,[1]放送事業に国家が政策上かなりタッチしている,[2]放送内容について番組制作者が厳しい自己規制を行っている,[3]放送を扱う場合の公平の原則が貫かれている,[4]文化に対するものの考え方の相違から国民がテレビやラジオを通じての文化に依存する風潮がない。[5]テレビの放送時間は概してかなり短い,などとなっている。
 このようなヨーロッパ諸国のうち代表的な英国,フランス,西独の放送事業の現況は第1-2-31表に示すとおりである。
 英国においてはラジオ,テレビとも公共放送である英国放送協会(BBC)と商業放送であるインデペンデント放送協会(IBA)の2本立てで放送事業を運営している。BBCの場合は国王が下付する特許状と政府が付与する免許協定書によって事業運営の法的根拠が与えられており,IBAについては1973年に制定されたインデペンデント放送協会法と政府の免許書により運営されている。これらの協定書の期限は1979年7月31日までとなっており,政府は有効期限の満期を前に1974年4月から「放送調査委員会」(アナン委員会)を設置して英国の放送制度の在り方を根本的に再検討してきた。このアナン委員会は1977年3月現在空きチャンネルとなっている第4チャンネルを運営する「公開放送協会(OBA)」と,現行BBC,IBAによるローカル・ラジオを一元化して運営する「ローカル放送協会(LBA)」の新設等を政府に勧告している。この勧告を受けて政府は1978年7月OBAの設立,現行のBBC,IBAによるローカル・ラジオ放送の拡充等を内容とする「放送白書」を発表しており,今後の動向が注目されている。
 フランスでは政府の強い統制下にあったフランス放送協会(ORTF)が1974年8月施行の「ラジオ及びテレビジョン放送に関する法律」に基づき解体され1975年1月から新しく組織された七つの事業体によって放送事業が実施されている。この七つの事業体と主な事業内容等は第1-2-32表のとおりである。このうち各事業体の財源をみてみると,受信料収入は放送番組担当会社とTDF,INAの6事業体に配分されるが,配分額については最高裁に当たる参事院と会計検査院のメンバなどで構成される配分委員会がその放送番組の評価と視聴率等を勘案して決めることとなっている。
 広告放送収入についてはスポット形式のみで原則として団体名の広告であるが,テレビについては商品広告も行っている。また,政府は1975年5月「反論権」制度を実施するための政令を施行した。これにより放送によって名誉や利益を傷つけられたと考える者は,個人であれば誰でも反論のための放送時間を要求することができるようになり,公平の原則のユニークな代表例として注目される。
 西独においては全国九つのブロックにある放送協会で作っている西独放送連盟(ARD)と全国的規模の第2ドイツ・テレビジョン協会(ZDF),それに国際放送のみを対象とした二つの放送協会(DW=ドイッチェ・ベレ放送協会,DLF=ドイッチェランド放送協会)がそれぞれの分野の放送を実施している。・西独放送界の特徴は,放送を社会全体で規制するために「放送委員会」という合議餅の最高監督機関が置かれていることであり,これは社会の各階層の意見が放送に反映するよう委員は州・連邦の議会,教会,教育文化学術団体,婦人団体,労働組合の代表等で構成されている。放送の財源については受信料と広告放送収入の二つが主なものである。また受信料の徴収については今まで各州が協定を結び郵政省に一括委託していたが経費がかさむため,1976年1月から各州放送協会がそれぞれ徴収する方式に切り替え,ケルンに受信料徴収センタを置いている。なお,オイルショック以来据え置かれていた受信料は,1979年1月からラジオのみが年額45.6マルクに,ラジオ・テレビ併用が156マルクに引き上げられる予定である。

(3) 今後の動向と課題

 社会構造の変化と技術開発の絶え間ない進展に伴い,放送事業の直面する課題も次々と現れまた解決されていく。ここでは現在世界の放送事業がどのような新しい課題を抱えているかについて概観するとともに,来るべき放送の未来をかい間みてみよう。
ア.CATV
 CATVは,テレビジョン放送の受信困難な山間へき地における難視聴解消用として生まれたもので,1949年米国オレゴン州のアストリアで敷設されたのが最初である。当初CATVはコミュニティ・アンテナ・テレビジョン(Communitiy Antena Television)の略称として使われてきたが,その後,同軸ケーブル方式の利用等技術の発展とともにケーブル・テレビジョン(Cable Television)の意味で用いられるようになった。現在,CATVは,米国,カナダ,ヨーロッパ諸国において普及しているが,その発展形態は,米国,カナダ型とヨーロッパ型に大別される。
 すなわち米国,カナダにおいては,再送信以外に自主放送などを行っているのに対し,ヨーロッパにおいては,CATVを一方向情報伝達メディアとしての放送と一体のものとして位置づけており,単に再送信が実施できるのみで自主放送は認められていない。また,CATVは同軸ケーブルの広帯域性を利用して双方向の機能を持たせたり,コンピュータに接続して多彩なサービスを行う情報通信システムとなる可能性を秘めているが,この面においても郵電省あるいは,郵電庁による公衆電気通信事業の独占に抵触するものとして禁止されている。しかし,近時,各国において実験的にではあるが,意欲的な試みがなされつつあることが注目される。具体的には,自主番組送出に関する英国のミルトン・ケインズにおける実験,西独カッセルにおける双方向通信サービスを含めた各種サービスの実験などがある。
 米国においては1975年から有料ケーブルが急速に普及しており,それにつれてCATV事業者の経営状態は好転してきている。CATVシステムの所有者は第1-2-33図のような構成になっているが,FCC規制では,地域情報伝達手段の集中排除を目的として放送会社及び電話会社については同一地域において,3大テレビネットワークについては全地域において,CATVシステムを所有することを禁じている。しかし新聞とCATVシステムの複合所有は規制されておらず,この複合所有に対しても規制措置を設けるべきであるという意見が全米CATV協会から出ている。
 カナダにおいては有線テレビジョン放送の加入者は全国民の50%以上に上る(1977年現在)。自国の放送事業を保護育成する立場をとるカナダ・ラジオ・テレビジョン委員会(CRTC)が有線テレビジョン放送事業を綿密にコントロールしているが,現在米国との間に米国の放送のCMを消して,カナダ側のCMを入れ放送することについて問題が生じている。
イ.放送衛星
 放送衛星には現在,米国のATS-6,米・カナダのCTS,ソ連のエクラン,また日本が今年4月米国航空宇宙局(NASA)の協力により打ち上げた実験用中型放送衛星(BS)などがある。
 地球上の広範な地域への放送を可能にする放送衛星については,以下に述べるような問題が生じるため,国際的規模での調整が考えられている。第1は放送衛星からの電波による混信問題などの技術的理由からの基準である。これに対しては,1977年1月の「放送衛星に関する世界無線主管庁会議」において具体的な技術的規制が定められた。第2は放送衛星を利用した外国向け放送により生ずる政治,社会,文化的問題である。このような観点からこれを規制する動きがあり,「衛星放送規律原則案」が国連の宇宙空間平和利用委員会において審議されている。
ウ.高等教育への放送の活用
 テレビジョン放送を利用しての教育制度,とりわけ高等教育へのテレビジョン放送の利用が近年注目されてきており,通信制高等教育,通常の高等教育の補完,職業人の専門技能再教育などに利用されている。
 米国には,放送授業を視聴し電話や面接による指導を受け,試験を受けるという学習形態を採り,1956年に設置されたシカゴ・テレビ・カレッジと1965年テキサス北部の7大学が大学間をマイクロウェーブで結び,講義の画像と音声を送受信する通信網を確立して教育研究の交流を行っているTAGER(The Association for Graduate Education and Research of North Texas)などがある。
 英国においては,1963年に構想が発表され1971年から始められているオープン・ユニバーシティがあり,学位その他の資格取得を目的とする高等教育を行っている。
 フランスではラジオ放送を利用した放送教育を行っている。その他現在計画検討中のものとしては,日本の放送大学構想,イスラエルのオープン・ユニバーシティなどが挙げられる。
エ.そ の 他
 この他,多重放送,極超短波都市放送(SHF放送)など,技術開発の進展を背景とした新たなシステムが,先進諸国の放送事業における大きな課題となっている。

第1-2-26表 地域別にみたラジオ・テレビジョン放送実施国数

第1-2-27図 世界各国におけるラジオ及びテレビ受信機の普及状況(1976年現在)

第1-2-28表 テレビ受像機とカラー受像機の普及台数

第1-2-29表 地域別・経営形態別にみた放送実施国数

第1-2-30表 地域別受信料徴収国数

第1-2-31表 ヨーロッパ(3か国)の放送事業の現況

第1-2-32表 フランスにおける七つの事業体と事業内容等

第1-2-33図 米国におけるCATVの所有状況

 

 

4 情報提供サービスの動向 に戻る 6 国際通信の現状と動向 に進む