昭和53年版 通信白書

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8 テレビジョン放送及びFM放送波を利用した多重方式

 現在普及しているテレビジョン放送やFM放送の電波には,周波数的又は時間的な「すき間」があるので,この「すき間」を利用して別の情報を同時に放送することができる。このような放送を多重放送と呼んでおり,電波の有効利用,放送メディアの多様化が期待できる。多重放送の方式は,本来の放送番組との間の相互妨害がなく,良好な品質が得られ,しかも普及性のあることが開発の目標となっている。

(1) テレビジョン多重放送

 テレビジョン多重放送は,映像信号の垂直帰線消去期間や音声信号の副搬送波等に別の信号を重畳して,テレビジョン放送と同時に別の放送を行うものであり,一般受信者を対象するものとしては現在,音声多重放送,文字放送,静止画放送及びファクシミリ放送の4種類が主に考えられている。
 音声多重放送は,現在のテレビジョン放送の音声信号に別の音声信号を重畳して放送するものであり,テレビ番組と関連したステレオ放送2か国語放送が可能となるほか,テレビ番組と関係のない音声放送を行うことができる。
 音声多重放送については,電波技術審議会が,47年3月に副音声(又は差信号)で副搬送波をFMし,この副搬送波をFMする方式(FM―FM方式)を最も適当な放送方式であるとして,技術基準の答申を行っており,現在実用化のための準備が進められている。
 文字放送は,映像信号の垂直帰線消去期間の一部に,ニュース,天気予報,ろうあ者向け字幕等の文字,あるいは簡単な図形を重畳して放送し,受信側ではアダプタを付加することにより,テレビ受像機のブラウン管に全面あるいはスーパーインポーズの形で表示するものである。一般的には,数種類の情報を同時に放送して,受信者側で写し出すか否か及び情報の種類の選択を行うこととなる。
 文字放送の方法については,既に走査方法,伝送速度,制御信号方式等の異なる数種類の方式が開発され提案されているが,電波技術審議会ではこれらの方式を基にして,普及性,発展性,国際性を考慮した標準方式を確立すべく審議が進められており,できる限り早い機会に答申が行われる予定である。
 静止画放送は,映像信号の垂直帰線消去期間の一部に静止画の信号を重畳して放送するものであり,本来のテレビジョン放送を映画とすれば,静止画はスライドに相当するもののである。静止画放送は技術面,利用面とも検討すべき問題が多く残されている。
 ファクシミリ放送は,現在のテレビジョン放送にファクシミリ信号を重畳して放送し,受信者はアダプタ及び記録装置を用いて,印刷物の形で情報を得るものであり,信号の重畳方法としては,音声副搬送波を利用することが適当とされている。52年度の電波技術審議会では50,51年度の審議結果及びCCITT勧告を参考として送受画機の基本的諸元,信号の形式,変調方式,実験項目等について検討し,テレビジョンファクシミリ放送の実験を実施するための準備を進めた。
 53年度には,更に詳細に検討を行うこととしている。

(2) FM多重放送

 FM放送に多重できる信号は,2つに大別できる。一つは現行の2チャンネルステレオ音声信号の拡大としての多チャンネルステレオ音声信号,例えば,4チャンネルステレオ音声信号であり,もう一つはステレオ音声信号とは内容が異なる信号,例えば独立音声信号,ファクシミリ信号等である。
 多チャンネルステレオについては,各国とも4チャンネルステレオを対象として検討を進めている。我が国でも電波技術審議会において既に4チャンネルステレオの音響効果や電波の占有周波数帯幅について検討結果を明らかにしており,今後は混信保護比,多重反射ひずみ等について審議される予定である。
 ステレオ音声信号とは内容が異なる信号の多重については,現状の受信機では第2副チャンネルに多重した時,送信がモノホニック,ステレオホニックのいずれの場合においても,モノホニック受信については,ほとんど漏話が認められないが,ステレオホニック受信については,約半数の受信機で漏話が認められるので,受信機について漏話の改善策が必要であること,又第2副チャンネルの伝送特性については,ステレオホニック受信に対する漏話が改善されたとしても,本格的な音声サービスとしては,あまり良好な特性が得られないことが明らかにされている。したがって,今後はニーズの動向をふまえながら多重できる信号の種類,方式及び送受信に必要な技術的条件について,引き続き審議が進められることとなろう。

 

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