昭和53年版 通信白書

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6 電離層の観測

 電離層の観測は,短波無線通信回線の設計及び運用上不可欠なものであるが,52年に打ち上げられた国産最初の静止衛星となった技術試験衛星<2>型(ETS-<2>)「きく2号」の電波伝搬実験では,従来の通念をくつがえして,マイクロ波通信にも電離層が大きく影響することが判明した。すなわち,宇宙と地上間の通信において途中に介在する電離層の異常な不規則性による受信電波のシンチレーションが観測され,その影響は,VHF帯からSHF帯までの電波に及んでいることが判明した。このような衛星電波の振幅及び位相の乱れは,高精度の測距や高速通信に際して誤差を招くことは明らかであり,今後の重要な研究課題となった。
 長波を利用する電波航法において,電離層の影響を無視できないことは周知のことであり,特に電離層嵐が起きると,オーロラ地域を経由する電波の位相は激しく変化して,航行中の船舶や航空機の測位に大きな支障を来すおそれがある。
 このように,非常に広い周波数帯にわたって電離層が電波伝搬に与える影響は大きく,このため電離層の観測研究は引き続き行う必要がある。
 53年2月16日には,国産の電離層観測衛星(ISS-b)「うめ2号」が打ち上げられ,カナダのISIS衛星とともに,世界中の電離層を地上1,000km以上の高さから観測している。地上の多数の固定点観測と衛星による上部からの移動観測とにより,グローバルな電離層の状態が次第に解明されつつある。
 国内5か所(稚内,秋田,国分寺,山川,沖縄)の電離層観測装置は,順次高性能な新型機と取り替えられつつあり,観測そのものはほぼ完全に自動化されつつある。しかし,記録から電離層諸量の読み取りは,人力に頼らざるを得ないのが現状である。そこで,電波研究所では観測データの自動読取りを達成すべく目下調査と研究を進めている。
 このように,衛星と地上からの観測を組み合わせることにより,立体的に世界の電離層の状況を監視する努力が続けられている。
 また,国際磁気圏観測計画(IMS,1976〜1979年)にも参加し,2年目の観測を実施してきたが,学術的に興味ある成果も得られ,後半の成果が期待されている。
 我が国のこの方面での活動は歴史的にも古く,実用通信面及び地球物理学等純学術面の両面への貢献に対して,諸外国から寄せられている信頼と期待は大きい。

 

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