昭和55年版 通信白書

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第2節 新しい通信メディアの経済的社会的影響

1 画像通信

(1) 急成長するファクシミリ通信
ア.躍進期に入るファクシミリ
 文字,図形,写真,その他これに類する様々な画像情報を電送することのできるファクシミリは,46年の公衆電気通信法の改正を契機に生産台数・生産額ともに急速に増加しており,1980年代には一層の躍進期に入るものと期待されている。
 ファクシミリの総設置台数は第1-2-7図でみるとおり5年ごとに3倍に近い成長を示しており,なかでも金融業,製造業等の一般民間企業で利用されるファクシミリは42年以降,実に約70倍という急激な伸びを示している。
 これらの中でも,加入電話網を利用したファクシミリの設置台数が急速に増え,第1-2-8図のとおり,47年度末には千台そこそこであったものが,50年度末には1万台を超え,54年度末には約10万台にまで達している。また,機種別の設置台数についてみると,G1機(低速機)に比べ,近年G2機(中速機),G3機(高速機)の伸びが著しく,ファクシミリ需要の高度化傾向を表わしている。
 一方,このような急速なファクシミリ通信の需要増に対応し,ファクシミリの生産額も第1-2-9図のとおり,54年度末には総生産額が669億円,対前年度比49%増と急激な伸びを示すに至った。また,通信機械工業会の調査によれば,現在の需要動向からみて,ファクシミリ産業は今後も極めて高い成長が見込まれ,56年度には1千億円の生産額に達するものと予想されている。
イ.既存メディアからファクシミリへの移行
 近年のファクシミリ需要の急激な伸びの理由としては,企業の情報ニーズの高度化とともに,これに対応するファクシミリ関連技術の進展,通信方式の標準化の実施等が考えられるが,一方,迅速な記録通信手段としてのファクシミリの利点が広く認識され,既存の他メディアからの移行が行われたことが大きな要因と考えられる。
 第1-2-10図は,この移行現象を通信料の面から調査したものであるが,これによれば,全業種平均では現在支払っている通信料のうち,32.9%が電話から,29.7%がテレックスから,22.6%が郵便からとなっており種々の既存メディアからファクシミリへの移行が行われていることを示している。
ウ.今後の課題と展望
(ア) 発展のための課題
 現在,ファクシミリ通信は大きな成長を遂げつつあるが,ファクシミリを企業活動や国民生活に一層役立たせるためには,今後解決すべき課題も残されている。
 まず第一に異機種ファクシミリ相互間の通信を可能とするための通信方式の標準化があげられる。電話型回線を使用したファクシミリ装置(G1機,G2機及びG3機)については,既に国際電信電話諮問委員会(CCITT)において国際規格の勧告がなされており,我が国では郵政省において相互接続の通信試験を実施し(G2機,G3機)勧告案の内容の確認を行っている。また,今後は,公衆ディジタルデータ網を利用したG4機についての標準化が検討課題となるが,このディジタルデータ網ファクシミリは,将来極めて広い利用可能性を持つものであり,郵政省において,概念整理,適用領域等に重点を置いて検討を進めている。
 次に,ファクシミリを小規模事業所から更に一般家庭まで広く普及を図るために,操作が簡単で低廉な端末機器の開発導入があげられる。また,これと関連して,通信コストの経済化等を図るため,ファクシミリ専用の網(ディジタル網)の新たな構築について,現在開発を進めている。
(イ) 総合的なファクシミリ通信システムの展望
 ファクシミリは今後とも,技術革新の進展等により,多様な発展が期待されている。その中心となるのは電子計算機と結合された通信形態をとる総合ファクシミリ通信システムとしての発展である。特に,漢字・ひらがな文を主体とする我が国の企業にとって,このシステムは,企業の合理化,省力化を目的としたいわゆる“オフィス・オートメーション”の中でも大きな役割を果たすものと予想される。
 一方,こうした高度化・多様化したファクシミリ通信とあいまって,操作が簡単で低廉なファクシミリが企業から一般家庭にまで普及するようになると,電子郵便,ビデオテックス,ファクシミリ新聞等の新しいメディアの展開が予測され,これらのメディアと電報,テレックス等といった既存の記録系通信メディアとの競合の問題が生じ,記録系通信メディア全体の領域の調整等メディア構造の変革に伴う諸問題の検討が必要とされる。
(2) 発展するCATV
ア.順調な普及
 我が国における有線テレビジョン放送(CATV)は第1-2-11図に見られるように着実に普及してきており,54年度末では施設数約2万5千,受信契約者数約272万と,51年度末に比べ3年間にほぼ1.5倍となった。ちなみに,54年度末の受信契約者数は同時期のNHK受信契約者総数約2,893万の9.4%に達している。施設規模別の受信契約者の伸び率をみると,許可施設(引込端子数501以上)における新規受信契約者が最も多く31.2%の増,次いで届出施設(引込端子数51〜500)が15.6%,小規模施設(引込端子数50以下)10.5%の増である。
 このように,施設数,受信契約者数とも順調に伸びているが,これを1施設当たりの受信契約者数でみた場合はわずか107人となり,CATVが事業として脚光を浴びている米国の3,595人に比べると,いまだ小規模なものといわざるを得ない(第1-2-12表参照)。
 次に,我が国におけるCATVの事業収入及び施設の建設資金を,53年度中の許可施設184の平均でみると,第1-2-13表のとおりである。1施設当たり平均1,684人の受信契約者があり,その収入額は2,154万円である。事業収入の内訳をみると,受信契約の締結時に一時金として支払う「契約料」,月ぎめ等の方法により支払う料金で契約料以外のものである「利用料」,チャンネルリース等施設を提供することにより得る「施設使用料」,コマーシャル収入の「放送料」及び「その他」の項目からなっており,「契約料」又は「利用料」の両方又はどちらか一方を徴収している施設は全体の84%で,その収入は平均1,069万円である。「施設使用料」を微収している施設は全体の12%で,1施設平均772万円,「放送料」にあってはそれぞれ12%,304万円である。「その他」は,施設の工事料,自主制作番組の売却代,受託料収入等からなっている。
 また,施設の建設資金は,1施設当たり平均5,884万円である。資金の調達方法のうち「その他」は,高層建築物,新幹線,高架道路等受信障害の原因者からの補償金が大部分を占めている。
イ.社会におけるCATVの役割
 我が国におけるCATV施設は,全施設の98%までが辺地難視聴解消又は都市受信障害解消を目的とした施設で,CATVはこれら難視聴解消に最も有効な手段として活用されており,近年は,都市受信施設が急増している(第1-2-14図参照)。
 一方,自主放送を行う施設も第1-2-15図のとおり着実に増加している。施設数の伸びに比べて受信契約者数の伸びが大きく,施設が大規模化の傾向にあるといえよう。
 このように伸びている自主放送の番組内容をみると,地域内ニュース,行政告知,趣味娯楽,生活情報といったコミュニティ志向の番組が大半を占めており,CATVが,その地域社会の経済,社会,文化的諸事情を反映した個性あるメディアとして活用されていることがわかる(第1-2-16図参照)。
 また,CATVの双方向性機能を利用するなど一層の高度化を図る地域情報システムとして,多摩のCCIS,東生駒のHi-OVIS,国府町等の農村多元情報システム(MPIS)といったナショナルプロジェクトが開発実験中であり,今日では,一般のCATV事業者においても住宅総合管理情報システム,映像情報システムに双方向データ通信機能を付加したホテルシステム等に利用されている。
ウ.CATVの今後の課題
 今日,我が国は,都市化,情報化が急速に進展している。この結果,都市におけるテレビジョン放送の受信環境は高層建築物,高架道路等により急速に悪化し,一方,国民の情報に対するニーズは高度化・多様化している。広域性,地域性,双方向性といった優れた特性を有するCATVは,このような状況に対応する最適なメディアと考えられており,このため,各分野において多彩な研究,実験が行われているが,CATVが今後,更に発展するためには,その社会資本としての有効性を認識し,一つの地域に散在する施設,団地等で各棟に設けられている共聴施設等をそれぞれ接続し,大規模化することが必要である。これにより施設の経済効率の向上が図られるとともに,施設の潜在的効用が飛躍的に増大することが考えられる。さらに,地域社会に密着したCATV番組の制作方法の開発,CATV番組の配給機構の組織化,全国的なネットワーク化等が課題として考えられよう。
 これらを実現するためには,技術的,経済的,制度的に解決しなければならない問題も多く,関係者の努力が期待されるものであるが,郵政省においては,55年度から「都市の大規模有線テレビジョン放送施設に関する開発調査研究」に着手し,施設接続の方法として無線方式も取り入れて,施設の大規模化を図り,かつ,その有効利用を図るための調査研究を行うこととしており,また,55年9月には,CATV事業者の団体である(社)日本有線テレビジョン放送連盟が設立され,これらの問題の解決促進が図られることとなった。
 我が国におけるCATVは,これを契機に新たな発展をすることが期待されている。
(3) 新しい情報メディアの開発
ア.キャプテンシステムの実験
 キャプテンシステムは,テレビジョン受像機と電話を活用した画像情報システムで,専用のアダプタを介して電話回線にテレビを接続し,加入者のリクエストにこたえて情報センタから送られてくる文字図形情報をこのテレビに映し出すシステムである。このシステムでは,ニュース,天気予報,一般生活情報,学習プログラム,ビジネス情報等,あらゆる範囲の情報提供が可能となる。
 実験は,当面,情報容量10万画面,利用者端末1,000台という規模で,54年12月25日から実施されており,技術的な可能性を確認すると同時に,国民のニーズ等を見極めることとしている。
 実験の進ちょく状況は順調で,55年2月に行った利用実態調査によると,キャプテンシステムが実用化された場合の利用意向については,52.6%の世帯が「利用したい」と答えており,実用化希望時期についても「2〜3年以内」が63.1%と最も多いことから,このシステムに対する国民の期待の強さがうかがわれる(第1-2-17表,第1-2-18表参照)。また,情報提供者の数も,55年9月現在で,新聞,出版,広告,百貨店,運輸,旅行,放送関係等187社にのぼっており,各方面の関心の強さを物語っている。
 このキャプテンシステムはいまだ実験の段階にあるが,将来,どこの家庭,事業所でも利用できる全国的なシステムとするためには,[1]低廉で高品質な端末機を提供すること,[2]そのためには,テレビジョン文字多重放送用アダプタとキャプテンシステム用アダプタの共用性を確保する等して,端末機の普及を図ること,[3]低廉で質の良い情報を提供すること,[4]新しい情報メディアを含めたメディア構造の中で,キャプテンシステムに適合した情報分野を確立することなど,いくつかの課題が残されている。
 このような課題を検討していくため,国内だけでなく,ビデオテックスと呼ばれている同様のシステムの開発を行っている諸外国との経験交流を深め,更には国際標準化に向けて努力していくことが今後ますます必要となってこよう。
イ.テレビジョン多重放送
 テレビジョン多重放送は,テレビジョン放送の電波に別の信号を重ねて音声多重放送,文字放送,静止画放送又はファクシミリ放送を同時に送信できる新しい放送形態である。
 このうち,音声多重放送については,53年9月,補完的利用のステレオホニック放送,翻訳による2か国語放送に限って試験的に実施することとなり,55年3月末までにNHK及び民放25社が実用化試験局として免許を受け,これを実施しているところである。放送時間も54年度末には,NHKにおいて週平均4時間1分(ステレオホニック放送2時間10分,2か国語放送1時間51分),民間放送(25社)においては1社当たり週平均14時間19分に延長されている。
 また,放送地域の拡大や時間延長とともに,音声多重放送用アダプタを内蔵したテレビジョン受像機も順調に普及してきており,54年の1年間における出荷台数は88万3千台で,国内向けカラーテレビジョン受像機の全出荷台数の13.5%であったものが,55年1月〜5月における出荷台数は5か月間で46万2千台,全体の17.6%と,増加をみせている。
 しかしながら今後一層の普及を図るためには,主たる番組に対する補完的利用としてのステレオホニック放送及び翻訳による2か国語放送の二つに絞っている利用範囲を拡大することが適当であると考え,目下検討を行っているところである。
 音声多重放送以外のテレビジョン多重放送については「テレビジョン放送電波に重畳できる信号」として,文字放送,ファクシミリ放送等を対象とし,現在,電波技術審議会で,技術的な検討が進められている。このうち,文字放送は,テレビジョン放送のすき間を利用して文字の信号を送信するもので,表示方式としては,テレビ画像の上に部分的に表示するスーパー表示と,画像を消して文字情報だけを流す全面表示とがあり,利用分野としては,ニュース,聴覚障害者のための字幕放送,天気予報,株価案内等が考えられる。この文字多重方式は,テレテキストと総称されており,世界各国で開発及び実用化が進められているが,我が国においては,電波技術審議会において,53年12月,文字放送の方式の基本についての答申,その後の野外実験等が行われ,技術基準の細部についても引き続き審議が行われている。

第1-2-7図 ファクシミリ業種別設置台数の推移

第1-2-8図 電話網利用ファクシミリの機種別設置台数の推移

第1-2-9図 ファクシミリ生産実績の推移

第1-2-10図 既存メディアからファクシミリへの移行状況

第1-2-11図 CATV受信契約者数及び施設数

第1-2-12表 CATV施設数等の日米比較

第1-2-13表 許可施設にみる事業収入,建設資金(1施設当たり平均)(53年度)

第1-2-14図 難視聴解消を目的としたCATVの施設数,受信契約者数

第1-2-15図 自主放送を行っている施設数,受信契約者数(許可,届出施設)

第1-2-16図 自主放送番組内容構成比(許可,届出施設)

第1-2-17表 キャプテンシステムの利用意向

第1-2-18表 キャプテンシステムの実用化希望時期

 

 

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