昭和55年版 通信白書

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2 データ通信

(1) 進展するデータ通信市場
ア.データ通信システムの発展
 39年,国鉄の座席予約システム(「みどりの窓口」)の登場以来,データ通信システムは質量ともに順調な発展を遂げてきた。
 第1-2-19図は,国内データ通信システムの年度別設置状況の推移をみたものであるが,特に46年の公衆電気通信法の一部改正によるデータ通信制度の法定化以降の発展は目覚ましく,46年度末に308システムであったものが,54年度末には4,668システムと,8年間で約15倍以上,年率平均約40%の伸びを示している。
 なかでも,自営データ通信システムの発展は著しく,54年度末には4,598システムと全体の98.5%を占めるに至っている。自営データ通信システムは,電電公社が提供するデータ通信回線に民間企業等が自己の設置する電子計算機及び端末装置等を接続して構成するデータ通信システムであるが,その対象業務をみると,製造業,商事会社等の生産・販売・在庫管理業務及び金融機関の預金・為替業務が3,409システムで全体の約7割強を占めており,主に企業経営の効率化を目的として設置され,我が国産業経済の発展に大きく寄与している(第1-2-20図参照)。
 また,その業種別設置状況について,48年度末と54年度末を比較してみると,データ通信導入に先導的役割を果たしてきた金融・保険業の構成比率が低下し,商業,製造業,建設業の構成比率が高まっており,データ通信が金融保険業以外の分野にも広く利用されつつあることを示している(第1-2-21図参照)。
イ.情報産業の発展に寄与するデータ通信
 データ通信の進展に伴い,データ通信システムに使用されている電子計算機の設置台数も急速に増加している。
 電子計算機の型別(以下,型別分類基準は,通産省「電子計算機納入下取調査」の分類による。)にオンライン化状況をみると,52年度末に利用されている電子計算機のうち,大型電子計算機の62.8%,中型電子計算機の28.3%,小型電子計算機の25.4%,超小型電子計算機の19.2%が,オンライン方式,すなわちデータ通信を利用した情報処理を行っており,特に大型電子計算機におけるデータ通信利用の割合が極めて高くなっている(通産省「情報処理実態調査」による。)。
 一方,汎用電子計算機の設置状況を型別にみると,台数ベースでは,最近の中小企業等における急速な電子計算機導入の動向を反映して超小型機の伸びが際立っているものの,金額ベースでは大型機の伸びが著しい(第1-2-22図参照)。
 これらの資料をもとにこうしたデータ通信の普及状況を電子計算機の設置金額に換算して推計してみると,汎用電子計算機の総設置金額に占めるオンライン電子計算機,すなわちデータ通信に使用されている電子計算機の設置金額は,年々増加し,52年度末には,1兆3,573億円に及んでおり,汎用電子計算機の総設置金額の約50%を占めると見込まれる(第1-2-23図参照)。
 さらに,データ通信システムに使用される装置類の生産も年々増大しており,53年におけるデータ通信用端末装置及び通信制御装置の生産額は,1,771億円と電子計算機及び関連装置の全生産額の約20%を占めるまでに成長している(第1-2-24図参照)。
 このような状況は,明らかに我が国におけるコンピュータの利用が,オフラインによる利用から更に高度な利用形態であるオンラインによる利用,すなわちデータ通信利用の方向へと進んでいることを示すものであり,データ通信の進展が,関連産業の普及・発展に大きなインパクトを与えている証左であるといえる。
(2) 社会におけるデータ通信の役割
ア.企業等におけるデータ通信の役割
 第1-2-25表は,52年にデータ通信システムを導入している企業等約300社を対象に,コンピュータの適用業務に占めるオンライン処理の割合を調査したものであるが,これによると,製造業における営業・販売,生産・工程,資材・在庫,金融業における金融,商業における営業・販売,資材・在庫などのように各業種の本来業務のオンライン化が30〜40%と比較的高率となっており,データ通信が企業の現場実務において基幹的役割を果たしている。
 また,同調査によりデータ通信導入の目的をみると,[1]業務処理を迅速・正確にする,[2]顧客サービスを向上させる,[3]人件費を節約する,[4]作業員の仕事を軽減するなどが主な目的となっており,企業経営の効率化,経費節減等に役立っていることがうかがえる。
イ.国民生活とデータ通信
 データ通信は企業等における普及を通じて,次第に国民生活にも欠かせない身近なものとなっている。
(ア) 金融機関におけるオンラインシステム
 金融機関は,その業務の性格上,事務処理の正確さ,迅速さがサービスの優劣を決める大きな要素であるため,データ通信の導入についても早くから積極的に取り組んでいる。40年代の半ばには,“オンラインシステム”は,銀行のイメージアップのうたい文句となり,都市銀行を中心に次々と導入され,現在ではほとんどの金融機関がデータ通信システムを導入するに至っている(第1-2-26表参照)。
 また,郵政省においても,郵便貯金・為替業務のオンライン化を進めており,58年度末には全国オンラインサービス網を完成する予定である。
 金融機関におけるデータ通信システムの導入は,また,総合口座のサービスをはじめ,各種ローン,給与,公共料金め自動振込み,自動支払いといった新しいサービスを可能としている。
 また,最近では,オートバンキング(銀行業務の自動化)の傾向が著しく,現金自動支払機(CD),現全自動預金機(AD),現金自動受払機(ATM)と次々に多様な顧客サービスが展開されている。特に,CDは広く普及しており,台数は約2万台と世界の約半分を占め,利用者は1,000万人(出金のための来店客のうちの30〜50%)以上を超えると推計されている。このCD等の普及は,データ通信の進展により初めて可能になったもので,駅の構内やデパート等のCDから,いつでも,どこでも,カード1枚で短時間のうちに預金が引き出されるようになっている。
(イ) 座席予約システム
 国鉄の場合,データ通信導入以前の座席予約は,全国18か所に配置された乗車券センタで集中管理し,各駅からの予約申し込みを電話で受け付けては駅窓口へ電話で回答する処理を行っていた。現在ではデー夕通信を利用した座席予約システム(MARS)により,検索と予約を瞬時に行うことができるようになり,全国の駅窓口及び旅行業者の営業所等に設置されている約1,900台の端末装置から,1日平均約50万席の指定券と約5万枚の乗車券が発売されている(第1-2-27図参照)。
 このような座席予約システムは,各航空会社でも導入しており,最近では輸送機関と旅行業者がデータ通信によって結合されるなど,データ通信を利用した座席予約の迅速化・正確化が図られている。
ウ.データ通信の公共的役割
 データ通信は単に企業における経営の効率化のみにとどまらず,国民の健康や安全,社会活動の効率化と国民生活の向上を目指す公共的なシステムが次々と設置され,国民生活や社会福祉の向上に貢献している。
(ア) 地域気象観測システム
 気象庁では,49年から地域気象観測システム(AMeDAS)をスタートさせ,気象観測網の充実と気象データの自動集配信とを図っている。これは,従来民間等に委託されていた観測網を自動遠隔測定方式に改め,中央のコンピュータと山間・離島を含め全国約1,300か所に設置した自動気象観測装置(ロボット気象計等)及び全国約65か所の気象台等とをオンラインで接続し,オンライン・リアルタイム処理により,気象情報の正確・迅速なは握を行うものである。本システムの導入により,集中豪雨などの異常状態が発生すると予想されたときには,その発生地域を具体的に示して警報を出すことが可能となっている。
(イ) 農林水産省生鮮食料品流通情報システム
 農林水産省が51年から導入している生鮮食料品流通情報システムは,野菜・果物の農産物の収穫・出荷予想量や畜産物の取引頭数・出荷見通しなどの産地情報及び市場での入荷量・卸売価格・市況概況などの市況情報をコンピュータで集中管理するシステムで,国民生活にとって重要な生鮮食料品の価格と需給の安定に資することを目的としたものである。このシステム化により,ほとんどの生鮮食料品流通情報が全国に提供されるようになった。
(ウ) 救急医療情報システム
 医療の分野においてもデータ通信の導入が急速に進み,救急医療情報システムが多くの府県で採用されている。
 このシステムは,病院・診療所等の医療機関及び血液センタ等に端末装置を設置し,急病・交通事故あるいは緊急災害等の場合に備えて,診療の可否,空きベッドの有無,手術の可否,血液・血清の有無など救急医療に必要な情報を常時は握するもので,本システムの導入により,救急時に最適医療機関が迅速に選定され,[1]市民の安心感が得られる,[2]医療機関の機能分化が図れる,[3]医師の負担が軽減されるなどの効果が期待されている(第1-2-28図参照)。
(3) 最近の動向と課題
ア.最近の動向
(ア) データ通信システムの動向
 データ通信システムの最近の主な動向としては,次のようなものがあげられる。
[1] 中央のコンピュータ・センタで業務処理やシステム管理等を集中的に行う方式から,各地にコンピュータを配し,それぞれに機能分担を行う分散処理方式へと進んでいる。
[2] 専門のオペレータによる端末操作から,業務担当者や顧客による操作へ,また,データの入出力も漢字や音声を用いたものへと,一般化,多様化が進んでいる。
[3] システムの設置主体,対象業務ごとに,個別的,単一的なものから,関連企業,機関のシステムを結合するなど総合システムへと進みつつある。
 これらの動向の中で,特に注目すべき点は,データ通信システムが,分散処理方式の採用,他システムとの結合等により「ネットワーク化」する傾向である。
 企業分野においては,航空会社や国鉄の座席予約システムと旅行業者のシステムとの結合や,製造業者のシステムと運送業者のシステムとの結合等が,既に行われているが,今後,こうしたシステム間の結合とともに,小売店のPOS(ポイント・オブ・セールス:販売時点管理)システム,製造業者の販売在庫管理システム,及び金融システムを結合し,生産・流通・消費の全過程を統合したものへと進んでいくことも予想される。
 行政・社会分野では,省庁間ネットワーク構想,統合貿易情報システム構想などがあり,既に一部省庁の間では情報検索システムが実現するなど,この分野でもネットワーク化が進むものと思われる。
 個人生活の分野でも,例えば,消費活動において,こうしたデータ通信システムのネットワークによるサービス提供が受けられるとともに,生活に密着したレジャー情報,学習情報等がデータ通信,システムにより提供されることとなろう。
 将来,データ通信システムのネットワーク化が進展すれば,企業,行政機関,個人がデータ通信により結ばれ,必要なときに,必要な情報が入手できるようになるであろう。
(イ) 情報通信事業の動向
 データ通信サービスを他人の需要に応じて提供する情報通信事業は,電電公社,国際電電及び民間企業によって営まれている。この情報通信事業は,歴史が浅いことのほか,特に民間の事業者の場合,経営基盤がぜい弱であること,市場が狭いことなどの理由によりいまだ十分な発展を遂げでいない。
 しかし,最近,自社でシステムを設計している一般企業が,情報処理コストの増加やメンテナンス,要員管理の困難さに対する認識から,情報通信事業者のシステムを利用する意向を示しつつあること,事業者自身もソフトウェアの充実等に努めていることなどから,発展の兆しが出てきたといわれている。
 このほか,電電公社は,全国的,公共的,技術開発先導的なものを中心にデータ通信サービスを提供し,我が国データ通信の普及発展に大きな役割を果たしている。また,国際電電は,電文管理,フォーマット変換等,通信処理サービスを内容とするデータ通信サービスを提供している。なお,両者は,これらのデータ通信サービスのほかに,回線サービスとしてデータ通信に適したディジタルデータ網サービスの提供を開始したが,これらは今後のデータ通信の発展に大きく寄与するものと期待されている。
(ウ) データベースサービスの動向
 現在,データ通信システムで提供されているデータベースには,日本科学技術情報センターの科学技術データベース,日本特許情報センターの特許情報オンラインサービス等があるが,データベース市場全体をみると米国などと比較していまだ本格的なものとなっていない(第1-2-29表参照)。この原因としては,我が国においては,情報に対する価値意識が低いこと,情報の収集・整理・検索を行う慣行が乏しいことなどがあげられる。
 しかし,最近,ようやくデータベースサービスに対する認識が高まりつつあるとともに,DBMS(データベース・マネジメント・システム)と呼ばれるデータベース管理技術等も進歩してきており,今後の発展分野として大いに期待されている。また,情報通信事業者もデータベースを保有し,情報検索サービスを提供することによりサービスの拡充を図ろうとしている。
(エ) データ通信システムの国際化
 現在,国際データ通信システムは,メーカー,商社等の各種業務連絡,銀行の為替決済,航空会社の座席予約,更には外務省,気象庁等官公庁の事務等で利用されているが,こうしたシステムは,社会経済活動の国際化に伴い,今後一層増加するものと思われる(第1-2-30図参照)。また,航空運輸業,金融業の分野では,既に全世界的なデータ通信ネットワークが形成されつつある。
イ.発展のための課題
 我が国のデータ通信が今後更に発展し,期待されている役割を果たすためには,解決しなければならない多くの課題がある。
 まず第一に,ネットワーク化技術等の開発・標準化の問題がある。複数のデータ通信システムの結合が容易に行われ,あるいは分散処理といった方向に進んでいくためには,システムを構成する機器の互換性,あるいはネットワーク・アーキテクチャ(ネットワーク構築思想),プロトコル(通信規約)の標準化が必要であるが,現状では,各コンピュータ・メーカーの機種には互換性が乏しく,また,メーカーごとに独自のネットワーク・アーキテクチァを発表しており,プロトコルもまちまちとなっている。こうした弊害を解消するため,その技術動向や国際的な動きをみながら,プロトコル等の標準化を進める必要がある。
 第二に,情報通信事業者の育成の課題がある。我が国の民間情報通信事業者は,事業基盤がぜい弱で事業として十分確立されるに至っていない。この事業は今後の我が国発展の重要な担い手であることから,積極的に育成していくことが必要であり,市場環境の整備等を含め,長期的ビジョンに立った総合的育成策を展開しなければならない。
 第三に,データベースシステムの開発がある。我が国のデータベースサービスは,米国に比べて,本格的なものとはなっていない。データベースシステムが構築され,オンラインで提供されるためには,情報を収集・整理・統合しデータベースを作成することと,そのデータベースを提供するためのデータ通信システムの構築が必要である。しかしながら,そのためには,DBMS技術の開発や情報の収集・整理・加工のための膨大な初期投資と情報の現行維持の体制が必要である。欧米諸国では,政府がデータベースシステムの重要性と可能性とを認識し,データベース振興のための種々の助成を行ってきている。我が国においても,各関係機関が協力して,データベースの作成及び必要な技術開発を進めるとともに,提供体制を確立することが必要であろう。
 第四に,データ保護,安全対策等の問題がある。データ通信システムの高度化,ネットワーク化が進展すると,広範かつ重要な情報がデータ通信システムにより提供され,あるいは蓄積されることになる。このことは,我が国社会の情報化を促進するものであるが,反面,システムの障害や犯罪による情報の滅失,き損,漏えいは,個々の企業,個人のみならず我が国社会経済全般に大きな影響を及ぼすことが懸念される。また,個人データ等が外部に漏れたり,目的外に使用されることにより,プライバシーの重大な侵害となるおそれがある。現在,OECD等において,プライバシー保護や国際間のデータ流通の問題について議論されているが,これらの動きを踏まえ,適切な措置を講じていく必要があろう。

第1-2-19図 国内データ通信システムの年度別設置状況の推移

第1-2-20図 国内自営システムの対象業務(54年度末現在)

第1-2-21図 国内自営システムの業種別システム数及び構成比

第1-2-22図 汎用電子計算機型別設置状況

第1-2-23図 汎用電子計算機のオンライン化状況の推移(設置金額)

第1-2-24図 電子計算機及び関連装置生産額の推移

第1-2-25表 業種別適用業務別オンライン処理状況

第1-2-26表 民間金融機関のオンライン化実施状況

第1-2-27図 国鉄座席予約システムの取扱可能座席数及び端末設置台数の推移

第1-2-28図 救急医療情報システムの概念図

第1-2-29表 我が国における主なデータベースサービスの現状

第1-2-30図 国際データ通信システムの設置状況の推移

 

 

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